カラダは究極の資本であり、投資先である。そう断言する堀江貴文氏が、最先端の医療と美容情報を惜しげもなく伝授する本連載の第57回は「帯状疱疹」。予防ワクチンの定期接種も始まり、最近では老化や認知症との関連についても研究が進んでいる疾患だ。大阪大学大学院 感染制御学教授の忽那賢志先生に、基礎知識やワクチンの予防効果の可能性について聞いた。

帯状疱疹ワクチンが脳を守る!? 健康寿命や認知症にも関係するワクチンの新たな可能性
堀江貴文(以下堀江) 感染症を専門とする忽那賢志先生と予防ワクチンについて話をしたいと思います。まず、この病気について教えてください。
忽那賢志(以下忽那) 帯状疱疹(たいじょうほうしん)は、水ぼうそうの原因となるウイルスが免疫が弱った時に再び活性化することで起こる感染症です。身体の片側に強い痛みや発疹が現れるのが特徴で、重症化すると日常生活に大きな影響を及ぼすこともあります。特に高齢者に多く見られ、その背景には“免疫老化”といって、加齢により身体はもちろん、免疫機能が衰える現象があります。
堀江 帯状疱疹と水ぼうそうは同じウイルスが原因ということですよね。
忽那 そうです。「水痘(すいとう)帯状疱疹ウイルス」というDNAウイルスで、人だけが感染します。飛沫から感染して、皮膚でウイルスが増殖して水ぼうそうになりますが、水ぼうそうが治っても体内の神経に潜伏するというのが、このウイルスの特徴になります。しかも、このウイルスは一生消えることはないといわれています。
堀江 全身に現れるのですか?
忽那 基本は左右のどちらかの神経に沿って帯状に発生しますが、顔に現れると失明の恐れがあるため、決して侮れません。また、まれに全身に広がる「播種性(はしゅせい)帯状疱疹」といって、非常に重症な帯状疱疹になることもあります。
堀江 年齢が上がるにつれ、発生率が高くなるんですね。
忽那 そうですね。50歳以上の人で、約3人に1人が発症するといわれています。
堀江 治療方法と後遺症は?
忽那 ウイルスの増殖を抑える薬を投与すれば発疹自体は1〜2週間程度でよくなります。ですが、帯状疱疹後神経痛といって、痛みが残る人もいます。これは非常に厄介で、帯状疱疹が治った後も1ヵ月以上痛みが続くこともあるんです。
堀江 罹(かか)った人に聞くと、痛みが相当辛いらしいですね。
忽那 服が触れるだけで激痛が走る、お風呂に入るのも辛い、眠れないなど多岐にわたり、結果、鬱になったり、仕事にも行けないなど、生活の質が大きく低下してしまうのです。
堀江 他にも視力低下、難聴、脳卒中や心筋梗塞などのリスクも指摘されていますよね。
忽那 特に注目されているのが脳の合併症です。帯状疱疹によって血管に炎症が起きると考えられていて、例えば、帯状疱疹を発症して14日間以内は、脳卒中になるリスクが約1.8倍になるという報告が出ています。他にも脳梗塞、脳出血などとの関連も知られています。
堀江 そうなると、やはり予防することが大切になりますよね。帯状疱疹ワクチンは定期接種になっていますし。
忽那 2025年4月から自治体による助成が始まりました。基本は65歳が対象ですが、その後は5歳刻みで、100歳の方まで受けることができます。なお、50歳以上の方は自費で接種することも可能です。
堀江 ワクチンの種類は、ふたつありますよね。
忽那 より高い予防効果が期待できるのは不活化ワクチンの「シングリックス」になります。2回接種が必要ですが、予防効果が90%以上と高く、効果が長期間持続することが特徴です。もうひとつは、生きたウイルスを弱らせて弱毒化した生ワクチンです。これは水ぼうそうの予防ワクチンと同じもので、1回の接種で帯状疱疹を防ぐ効果もあります。
堀江 僕はシングリックスを打ちました。ワクチンで副反応が出たことは一度もなかったのに、初めて腫れましたね。
忽那 副反応の頻度や強さは、新型コロナワクチンと同じぐらいといわれています。熱が出るという方も多くいますね。
堀江 高い予防効果があるといわれていますが、どれくらいあるのですか?
忽那 シングリックスの発症を防ぐ効果は50歳以上で97.2%、70歳以上でも91.3%と非常に高いです。しかも、効果が長く続くこともわかっていて、10年経っても70%以上の予防効果が保たれています。万が一発症した場合でも、播種性帯状疱疹のような重症化や神経痛などの後遺症リスクを低減できると考えられています。
堀江 なるほど。僕は現時点で接種してますが、例えば10年経ったらまたワクチンを打ったほうがいいとかありますか?
忽那 今も追跡調査が続いている状況ですが、現状、“ワクチンを打ち直す”という推奨は出ていません。このまま様子を見て、新たなデータが出たら、それに合わせて検討するといいのではないかと思います。
堀江 過去に帯状疱疹になった人も、ワクチンを打つメリットはあるんですか?
忽那 はい。一度なったことがある人も再度、帯状疱疹になることがあるため、ワクチンを打ったほうがいいです。繰り返しになりますが、ワクチンを打つことで2度目の発症や重症化するリスクを軽減できるので。
堀江 帯状疱疹ワクチンには、老化を予防する可能性があると聞きました。
忽那 はい。最近、アメリカでは帯状疱疹ワクチンと老化の関係に着目した非常に興味深い研究論文が出ています。帯状疱疹を発症すると体内で慢性的な炎症が起こり、それによって身体の老化を進めてしまうと考えられているためです。
堀江 老化予防以外に、認知症のリスクも減るとか?
忽那 そうですね。考えられているのは「訓練免疫」です。ワクチンに含まれている“アジュバント(抗体を付けやすくする、免疫を活性化する成分)”によって、免疫全体の底上げを図ることができるといわれています。ある研究では、帯状疱疹ワクチンを2回接種することによって、認知症のリスクが低下するという報告が出ていて、学問的に非常に面白い分野になってきていますね。
堀江 帯状疱疹ワクチンがいろんな意味で脳を守るというのも、興味深いなぁ。次回は、ワクチン接種による予防の大切さについて話をしたいと思います。

忽那賢志/Satoshi Kutsuna
1978年福岡県生まれ。山口大学医学部医学科卒業後、山口大学医学部附属病院、奈良県立医科大学附属病院等を経て、2018年国立国際医療研究センター国際感染症センター医長、
2021年大阪大学大学院医学系研究科 感染制御学教授に着任。新型コロナウイルス感染症の臨床・研究を行うほか、感染症の啓発活動にも取り組む。
堀江貴文/Takafumi Horie
1972年福岡県生まれ。実業家。ロケットエンジン開発や、会員制オンラインサロン運営など、さまざまな分野で活動する。予防医療普及協会理事。本連載をまとめた書籍『金を使うならカラダに使え。』のほか、『日本医療再生計画』など著書多数。

