HEALTH

2025.07.17

ショートスリーパーはOK? 時差ボケは解消しない方がいい!? 学生の夕寝はダメ?【睡眠学の権威・西野教授】

睡眠の大敵は夏の寝苦しさだけではない。睡眠時間が不規則なシフトワーカーから時差ぼけの解消法、話題の機能性パジャマの効果まで、気になるあれこれを西野教授に回答してもらった。3回目。

西野教授

Q.昼夜逆転のシフトワークで、ずっと時差ボケのような状態が続いています。どうすれば、ぐっすり眠れますか?

質の良い睡眠をとるには、朝日が昇ったら目覚め、夜になったら眠るのが鉄則。人間は、日中体温が高いため活動的になり、夜は体温が低くなるため休息モードに入ります。つまり、活動と就寝時間が体温と同調しているわけです。

それに対して、昼夜逆転で活動しているシフトワーカーは脱同調と言う状況。それでは体内時計が乱れ、睡眠障害はもちろんのことホルモンバランスや自律神経にも悪影響を及ぼすのも不思議はありません。こうしたトラブルは概日リズム睡眠障害というのですが、シフトワーカーは日中働いている人に比べ、概日リズム睡眠障害を患っている人が3倍もいるというデータもあります。

とはいえ、現代社会ではシフトワークを皆無にするのは不可能。個人的には、雇う側が労働者の健康にもっと配慮し、「日中勤務を2週間行った後夜勤を2週間」のような極端な変化ではなく、「勤務時間を数時間ずつ後ろ倒しにする」など体に優しいシフトを考えることが必要だと思いますが、それも職種によっては難しい。

であれば、職場環境を整えるとか個人で対策をとるなどで、眠気を取り除いてパフォーマンスを上げたり、上手に睡眠を確保するしかありません。

方法のひとつが、光療法。夜勤中に眠くなってしまうようなら、あえてブルーライトを浴び、眠りのホルモンと言われるメラトニンの分泌を抑制しましょう。

ブルーライトは脳を直接刺激し、覚醒や気分高揚引き起こすことも明らかになっています。逆に、仕事を終えた後は、なるべく朝日を浴びないように心がけてください。眠る際は、遮光カーテンなどで光を遮った部屋で眠ることを推奨します。

また、適宜仮眠をとることも有効。生産性をあげるための仮眠をパワーナップと言いますが、最近はシフトワーカーのために仮眠室を設ける企業も増えてきて、実際に効果は上がっています。ある実験では、数日間寝ていない人に12時間ごとに2時間の仮眠をとってもらったところ、仮眠後のパフォーマンスが上がっていることが実証されたくらいです。

勤務中に2時間の仮眠は非現実的かもしれませんが、20分~30分未満の仮眠でも十分効果は期待できます。ちなみ、60分以上の仮眠は、眠りが深くなってしまい、本格的な眠りにつく際に支障が出るので避けること。仮眠は30分未満、長くとも1時間未満が鉄則です。

Q.海外出張が多いのですが、帰国後しばらくはパフォーマンスが上がりません。時差ボケを解消する方法はありますか?

体内時計は1日1時間ずつしか新しいリズムに同調できません。サンフランシスコと日本の時差は17時間ですが、新しいリズムに同調するのは24時間を単位として早く順応できるほうにずれるため、すなわちマイナス7時間のほうに同調します。

つまり、体内時計が現地時間に合致するのに7日間かかります。現地に7日以上滞在するのであれば、起床時間と就寝時間を1時間ずつ前倒しにするのが賢明。逆にサンフランシスコから日本に帰国する際は、1時間ずつ後ろ倒しにしてください。東向きの飛行の時差調整がつらいというのは、前倒しの調整になるからです。

ただし、短期間の滞在で同調できる前に帰国という場合は、無理に現地の時間に合わせないのがおすすめ。現地の昼間であっても眠くなったら眠り、疲れを残さないことが大切です。この際も、長時間眠ってしまうと深い睡眠に陥ってしまうので、60分未満に留めましょう。そうやって調節しながら、商談やプレゼンなど大事な仕事で力が発揮できるように心掛けてください。

午前中に大事な仕事が入っている時は、朝日をしっかりと浴び、体内時計の活動スイッチを入れるのも効果的です。

西野教授
西野精治/Seiji Nishino
1955年大阪府生まれ。1987年、当時在籍していた大阪医科大学大学院からスタンフォード大学精神科睡眠研究所に留学し、2005年、同大学睡眠生体リズム研究所所長に就任。『スタンフォードの眠れる教室』をはじめ、著書多数。

Q.1日に3~4時間しか眠らなくても大丈夫です。ショートスリーパーなのでしょうか?

ショートスリーパーは医学的用語ではないので、明確な定義はありませんが努力しなくても健康で4時間程度の睡眠時間の人をさします。一般の調査で1日の睡眠時間が平均4時間以下という人は1%程度いるとされています。

ただし、その人たちが全員健康被害はまったくないかといわれると、そのデータはないんですね。何時間眠っているかに限らず、日中眠気に襲われない、パフォーマンスが下がらないというのであれば、睡眠時間が短くても問題はないだろうと思います。

ただ、一般的には睡眠が6時間きってしまうと、病気にかかりやすいとか精神的に問題が生じるなど、何らかの弊害が起きやすいんですよ。睡眠のための人生ではないので、無理に眠ろうとする必要はありませんが、睡眠学者としては、1日6~7時間は眠っていただきたいと思います。

Q.中学生の子供が、学校から帰ってくると2時間くらい昼寝をします。寝かせておいていいでしょうか?

子供が小学生になると14~15時間連続で起きていられるようになるので、本来昼寝は不要ですが、大人も子供も夜間の睡眠が足りていないので最近は昼寝のデメリットよりメリットのほうが謳われています。

帰宅後2時間も眠ってしまうということは、夜の睡眠が足りていない可能性が高いだけでなく、夜間の睡眠も妨げますので推奨できません。毎日の夜間の睡眠を長くするよう心がけてください。

午後の遅い時間や夕刻に仮眠をとると、夜本格的に眠る際の睡眠の質が下がってしまうこともあります。成長ホルモンは、寝入ってすぐのノンレム睡眠後、“黄金の90分”に最も多く分泌されますが、そこで深い眠りに入れないと分泌が不十分になる危険性もあります。

週末の寝だめと同様、昼寝は睡眠不足の解消にはつながりますが、根本解決にはならず、いわば付け焼刃。昼寝は30分未満に留め、夜早めに眠るのがベストです。

Q.最近話題の機能性パジャマが気になっています。効果はあるのでしょうか?

遠赤外線を含んだ素材で血行を促進し、疲れをとるものや、マイナスイオン加工で副交感神経を刺激し、リラックス効果をもたらすものなど、いろいろなタイプが出ていますね。一般医療機器の届け出を完了しているものは一定の効果が期待できますし、売れているアイテムは多くの人が効果を実感できるのだろうと思います。

ただし、重要なのは自分に合っているかどうか。機能性パジャマに限りませんが、睡眠に良いとされているものでも、自分にとって効果がなければ意味がありません。いろいろ試し、自分にとって眠りやすい環境、習慣を整えてもらえればと思います。

TEXT=村上早苗

PHOTOGRAPH=鈴木規仁

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