FASHION

2024.08.04

サカイ、ジュンヤ ワタナベ マン、イッセイ ミヤケ…2025春夏ファッションウィーク詳報【日本編】

パーソナルな思いをコレクションに反映させ、ある意味でエモーションをつくりだす傾向にあるメゾンをはじめとした海外ブランドとは打って変わって、日本ブランドはクラシックに一度立ち戻る視線を感じさせる。それは単なる回帰ではなく、前進するための回帰。つまりは過去を回想するだけではなく、過去を未来につなげようとする仕草がしっかりと刻まれている。

2025春夏ファッションウィーク詳報【日本編】

多様なトラディショナルを感じるコレクション

1950年代のカジュアルウエアを主体としたオーラリーやジェームズ・ディーンからインスピレーションを得ているサカイ、ドレス文化にデニムというワークウエアの要素を取り入れたジュンヤ ワタナベ マンがまさに。そこに質のよい生地屋としてのプライド、確固たるハイブリットスタイル、そしてブランドに刻まれている新しい解釈など、デザイナーの個性が色濃く表現されている。

古着をはじめとした特有の根強いカルチャーやあらゆる要素をミックスさせる巧みなスタイリングの腕利きも然り。日本で構築されてきたファッションの文化的側面は本場であるパリの目利きのプロフェッショナルにとって新鮮に映るはずだ。

1.サカイ|往年の名俳優をオマージュ。多角的に若さと姿勢を描く

俳優のジェームズ・ディーンを着想としたコレクション。24歳という若さでこの世を去った彼のピュアネスや自由で解放的な精神性、スタイルを巧みにファッションに落としこんだ。

ファーストルックは黒のバイカー風ジャケット。ヘアスタイルも相まって、往年のディーンの写真から飛びだしてきたかのような出で立ち。また、彼の代名詞のひとつでもあるハリントンジャケットは、ワークウエアやテーラードジャケットとドッキングさせることでサカイらしいハイブリットに変換される。

カジュアルなシャツやブルゾンにはディーンの愛用車を想起させるヴィンテージカーのモチーフが施されており、サカイは1950年代のスタイルを現代的にアップデートさせた。

サカイ

2.アンダーカバー|気鋭のバンドを起点にした、一体感のある架空の民族

4年半ぶりにパリメンズに戻ってきたアンダーカバーは、デザイナーの高橋盾がYouTubeで見つけたオーストラリアの3ピースバンド、グラス ビームスを起点にした架空の民族を彷彿とさせるランウェイショーを展開。ブルー、ピンク、ホワイトを基調としたリネンのセットアップは、このバンドのために制作。

また、高橋が描き下ろしたグラフィックペイントも新たに用意したシュールなモチーフに。ローブやサリー風のスカート、ウィンドウペンチェックのスカートなどフェミニンなムードが漂うが、「ウィメンズ寄りのメンズを作りたかった」と言うように、性差をはじめとした分断された人々の一体感を表現するコレクションとなっていた。

アンダーカバー

3.コム デ ギャルソン|現実の複雑性を反映させながら、この世界に少しの光を当てる

コム デ ギャルソン・オム プリュスの’25SSのテーマは「THE HOPE OF LIGHT」。ほんの少しの明かりでも希望したいという願いが込められている。英国調のクラシックなメンズウエアに歪みや加工を加えることでダークな世界観を基盤としているが、そこにフリルやプリーツ、大胆な色と柄の組み合わせ、大判のリボンといった女性性をアクセントに。

また、透け感のある素材はそれらのモチーフをより際立たせており、数多な要素を構成するコレクションは、複雑な現在のコラージュ感を思い起こさせる。それらは、デザイナー自身が願う細やかな灯火を巧みに表現した。

コム デ ギャルソン・オム プリュス

4.ヨウジヤマモト|不穏な空気が漂う世界に反逆精神とひとつの花束を

服を通して混沌としたこの世界に対して警鐘を鳴らしてきたが、今回も世界に対する今の思いを洋服に反映させている。ファーストルックをはじめコレクションの大部分を占めていたのは、日本語で殴り書きされたようなメッセージや抽象的な模様。先の見えない世界に対する反逆精神が込められているかのよう。しかし、花の写真などをコラージュすることで愛も同時に奏でる。

英国の女優、歌手のシャーロット・ランプリングがモデルとして登場し、ランウェイを人生に見立てたかのように歩きだす。フェドーラハットにサングラスをかけていても力強さと繊細さが伝わる彼女の中性的なムードはヨウジヤマモトの世界観をよりいっそう濃密にさせた。

ヨウジヤマモト

5.オーラリー|生地のその先にある人に着目し、日常着の一歩先へ

上質な生地感と日常に即したワードローブにスタイリングの妙味が加わり、パリでも評判を高めているオーラリー。カシミアの平織り地、ウール、チノクロスなど良質な生地はそのままに、クラシックな要素に重きを置きつつ、モダンであることも忘れない。そのような質の高い日常着はヴィンテージやプレッピーの要素を取り入れながら、リラックス感のあるジャケット、コートと淡いブルーや品のよいヌードカラーで仕上げた。

ただカジュアルという枠には収まらないオリジナリティが積み上げられている。生地ではなく人にスポットを当てているのも、公園を散策する人から着想した、観察と実践を結びつけた賜物である。

オーラリー

6.ジュンヤ ワタナベ マン|ワークウエアをドレッシーに変換。画一的な解釈の幅を広げる

素材の特色を生かしつつ、新しい解釈を取り入れるという創作の醍醐味を兼ね添えるジュンヤ ワタナベ マン。デニム素材から見るドレス文化に着目。

ファーストルックは、スタッズボタンが付属されたウィングカラーのシャツに蝶ネクタイを締めて、加工された多様な生地がパッチワークされたダブルのロングジャケットにフレアのブラックデニムに品のあるシューズを合わせた。クラシカルなストライプやグレンチェック、ラメが煌めくファブリックなどが端正なテーラードに多様性を加えている。

新鮮味を感じるユニークなアイデアは、ワークウエアをドレッシーな装いに変換させ、大人の男性が思わず着たくなる磨きをかけた。

ジュンヤ ワタナベ マン

7.イッセイ ミヤケ|風の動きをそのまま服の形に、伸びやかで開放感溢れるムード

コレクションタイトルは「Up, Up, and Away」。風にまつわることを主軸とした’25SSは、風を感じる現象、風を受けて動くものの構造、そして風を形にしたものを取り入れている。

軽やかな素材をベースに、着心地のよさを追求し、豊かで量感のあるシルエットは風を含むことで踊るかのように躍動。まばらな太さのチェック柄やパステルカラーのハンドプリーツに、結ぶ、解くといったディテールを加えることで洋服そのものの所作を感じ、生地の風合いのある魅力が引きだされている。

また、それらとは対照的な「FRESHEN」シリーズのシャツコートは、生地にワッシャー加工を施すことで、風になびいた時にシルエットが華麗に揺らぐ。

イッセイ ミヤケ

それぞれの自由な発想が、個性あるクリエイティヴを生みだす

TEXT=関口究

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