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FASHION

2023.10.16

「大事なのはそのスーツに着られてないってこと」スタイリスト界のレジェンド・大久保篤志に学ぶ、着こなしの流儀

ルールがあり、理論があるからこそ、時代の変遷に揺るがされることなく、スーツは100年以上も着られ続いている。しかし、そこには着る人、着せる人、つくる人の独自の理念がある。スタイリスト・大久保篤志に聞く、スーツとは――。【特集 テーラード2023】

スタイリスト・大久保篤志氏
大久保篤志
スタイリスト
1955年北海道生まれ。1981年にスタイリストとして活動開始。雑誌、広告、音楽アルバム、コンサート衣装などで、俳優、ミュージシャンのスタイリングを幅広く手がけ現在に至る。2006年、THE STYLIST JAPAN®を設立。

自分が着たいものを見つめて、服を楽しむことが大事

「俺の考えるスーツは、そのスーツに着られてないってことだよね。身体にフィットしてたり、その場面に合ったものを着るってこと。やっぱりTPOを守ることが第一だと思うんだよ。スーツって、昨今は普段あまり着る機会が少ない人が多いじゃん。でも例えばお葬式の時には、いかに黒のスーツを白いシャツで綺麗に着こなすかが大事だと思うのよ。どんなお洒落な人でも、スーツの着方を見たらわかっちゃうことってあるでしょ。

少し話は変わるけど、今だったらセントマイケルのTシャツがすごく人気だし、そういうオーバーサイズのTシャツを着て、短パンはいて、ブランドもののスニーカーを履いてみたいな、そういうお洒落な人が、いざスーツを着た時に袖丈が合ってないことも多い。それじゃ話にならないじゃん。完全に着られてるってことになる。サイズ感、いかに身体にフィットするか、それがすごく大事。

そういう意味では、つくることにも通ずるね。俺は本当にディッキーズとかベンデイビスを履いて、Tシャツの上にオンブレのチェックシャツ、それでカバーオールを着て、キャップを被って、冬だったらニットキャップっていう。完璧にできあがったスタイルでしょ。でもやっぱり、そういう格好をした若い連中が、スーツを着ようと思った時に着られるスーツがあればと思って。

それでワークウェア素材のホップサックでスーツを作った。365日同じ状況を想定してね。あたりが出て、ヨレヨレになって、自分の形になっていく。そういう風にして、自分らしさの出る、全部自分の身体にあったものを着たい。それがかっこいいな、と思ったんですよ。やっぱり最初は浸透しにくかったけど、何年かやっていくうちにそういう連中が、成人式の時に着るスーツになっていたんだよね。

スタイリスト目線だと、やっぱりトム フォードのスーツを木村拓哉さんにCMで着てもらったのは、ピッタリハマったんだよなぁ。気持ちよかった。トムフォードだと木村拓哉さんもピッタリ合ったけど市川團十郎さんもすごく合った。

俺自身が衝撃を受けたスーツでいうと、やっぱり1980年代初頭のアルマーニだよね。当時、アルマーニから麻のヨレヨレのスーツが出たんだよ。麻のスーツなんてその時は見たことなかったから、もうかなりのショックを受けた。まだ日本にはそういうスーツはなかったから。当時、東京で買えるイタリアものはバルバスだけで、そういうのを着てた。

あと、エンポリオアルマーニの初期。その頃にアルマーニのショップに行くと、店員が紺ブレとグレーのパンツを着ていたんだよね。それを見た時に、当然アメリカにも似たスタイルがあって、イタリア人も同じことをやってたと思うんだけど、その解釈の仕方が全然違うわけじゃん。やっぱりアメリカのカルチャーから知った自分にとってはそれが新しく感じたんだよね。

その後はヨウジヤマモトのスーツのシルエットが新鮮に見えて着ていたけど、テンダーロインやシュプリームと出合ったりするなかで、やっぱりアメリカだ! って実感して今がある。まさに今日みたいなキャップを合わせたスーツスタイルでいいじゃんって。

俺にとってスーツは、フォーマルに突き進むというよりは、楽しむもの。あとは雰囲気、そしてルール。TPOに合わせて。プライベートだったら派手でいいし、シチュエーションに合わせてファッションを楽しむ。それでもとにかくサイズが大事。自分が着たいものをまず見つめて、納得して着るのが一番だと思うね」

【特集 テーラード2023】

この記事はGOETHE2023年11月号「総力特集:型にはまらない紳士服」に掲載。▶︎▶︎購入はこちら

TEXT=安岡将文

PHOTOGRAPH=舛田豊明

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