ENTERTAINMENT

2024.09.27

韓国ディズニープラスが年会費の異例の割引セール。韓国OTT勢力争いの行方とは

現在、韓国ディズニープラスが年会費の割引セールを行っている。サブスク型ビジネスをする動画配信サービスが、このような割引プロモーションを行うのは異例中の異例だ。韓国の動画配信サービス市場の動向は、ビジネスパーソンとしてキャッチアップしておきたい。

真田広之がプロデュース・主演を務めるディズニープラスのオリジナルドラマ『SHOGUN 将軍』が第76回エミー賞® にて、歴代最多18部門を受賞した。

ディズニープラスの危機説

ディズニープラスで配信中のドラマ『SHOGUN 将軍』が、「第76回エミー賞®」でドラマ・シリーズ部門の作品賞をはじめ、史上最多の18部門を受賞する快挙を達成した。

エミー賞といえば、米国テレビ界の“アカデミー賞”ともいわれる最高峰の賞。ディズニー系列のドラマとしては2005年の『LOST』以来の作品賞で、19年ぶりとなる。

このことがディズニープラスにとってプラス要素となるのは、想像に難くない。ところが、『SHOGUN 将軍』の快挙と時を同じくして、お隣・韓国では「ディズニープラスの危機説」が再び浮上した。

というのも、ディズニープラスが2024年9月12日から28日までの間、スタンダード年額プランを約40%オフで提供する期間限定の特別プロモーションを打ち出したからだ。

割引を適用すれば、韓国では年額9万9000ウォン(約9,900円)のプランを5万9500ウォン(約5,950円)で利用できる。月額換算すると4950ウォン(約495円)。これはライバル企業であるNetflixの広告付きスタンダートプラン(5,500ウォン/約550円)よりも安く、現存する動画配信サービス(以下、OTT)のなかでも最低価格だ。

サブスク型ビジネスであるOTTが、このような割引プロモーションを行うのは異例中の異例である。この破格のプロモーションに対して、韓国のメディア各社は「ユーザーの確保が切実な状況」と分析した。

それを裏付けるのが、1年前に比べて半分ほど離脱してしまった加入者数だ。

韓国オリジナルシリーズ『ムービング』がヒットを飛ばした2023年9月、韓国ディズニープラスの月間アクティブユーザー数(MAU)は433万人だった。しかし、2024年4月には220万人まで激減し、8月には285万人を記録。ここ1年間で約150万人が離れてしまっている。

韓国のOTT各社と比べても、ディズニープラスの苦戦は明らかだ。

2024年8月時点でOTT各社の韓国における月間アクティブユーザー数(MAU)はNetflixが1100万人、TVING(ティービング)が783万人、Coupang Play(クーパンプレイ)が684万人。

韓国著作権委員会が7月に発表した韓国OTT市場のシェア率も、1位は「Netflix」(35%)、2位は「Coupang Play」(23%)、3位は「TVING」(21%)、4位は「Wavve(ウェーブ)」(13%)、5位は「ディズニープラス」(8%)と、顕著な差が見られる。

世界的OTTであるNetflixが“1強”として地位を固めたなか、Netflixとディズニープラスを除く国内OTTたちが市場シェアの57%を占めている。

韓国OTT市場の勢力図が変わる!?

さらに韓国でディズニープラスを圧迫しているのが、国内OTT間の激しい競争だ。

2024年3月に韓国で行われた米大リーグ、ドジャース対パドレスの開幕戦を覚えているだろうか。ドジャースに移籍した大谷翔平が出場することで日本でも話題だったが、その試合の放映権を獲得したのが、「Coupang Play」だった。

また、最近韓国プロ野球(KBO)を独占中継しているのは「TVING」である。Coupang PlayとTVINGはスポーツ中継に力を入れる戦略で月間アクティブユーザー数をそれぞれ70万人、200万人増やした。

さらにTVINGは、2023年12月にシェア率4位のWavveと合併のための覚書(MOU)を締結し、交渉を進めている。

TVINGとWavveのシェア率を合わせれば、Netflixに1%差まで詰め寄られるうえに、月間アクティブユーザー数も1,114万人と負けず劣らずだ。エンタメ業界では両社の合併によって“黒船”Netflixに対抗でき、OTT市場の勢力図が変わるかもしれないという期待感が漂っている。

このような状況とはいえ、とりわけ韓国でディズニープラスの不振が続く理由は何か。それは「新規キラーコンテンツの不足」が指摘されている。

2024年配信された韓国オリジナルドラマ『殺し屋たちの店』『サムシクおじさん』『支配種』『レッド・スワン』などが期待に及ばない結果となったため、『ムービング』以降はこれといったヒット作がないのだ。

ただ、先日解禁された秋冬と2025年に配信予定のラインナップは、この不振を払拭できそうな期待作が目白押しだ。

『ムービング』の原作者で脚本も担当したKang Fullによる『照明店の客人たち』や、『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』の女優パク・ウンビンが主演する『ハイパーナイフ 闇の天才外科医』(原題)、『涙の女王』の主役キム・スヒョンが挑む『ノックオフ』などが、早くも注目を集めている。

社運を賭けたと言わんばかりのディズニープラス。はたして破格のプロモーションや数々の期待作で入会者数を巻き返せるか。韓国OTT市場の動向を、今後も注視したい。

■著者・李ハナ
韓国・釜山(プサン)で生まれ育ち、独学で日本語を勉強し現在に至る。『スポーツソウル日本版』の芸能班デスクなどを務め、2015年から日本語原稿で韓国エンタメの最新トレンドと底力を多数紹介。著書に『韓国ドラマで楽しくおぼえる! 役立つ韓国語読本』(共著作・双葉社)。

TEXT=李ハナ(ピッチコミュニケーションズ)

PHOTOGRAPH=ロイター/アフロ

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