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2023.12.05

あなたは「春画」を語れるか? その全てがわかる映画を紹介

春画は男女の情交を描いた浮世絵、江戸時代に描かれた、今でいえばアダルトビデオみたいなもの? という程度の理解しかないなら、ぜひこの映画を見てほしい。まず、人々のおおらかさが違う。男も女も平等に楽しんでいる様子。しかも、浮世絵の表現の最高の技術を使っているものがある。春画の本当について知る近道はこの映画『春の画 SHUNGA』。■連載「アートというお買い物」とは

『春の画 SHUNGA』
「四季画巻」月岡雪鼎・画(Michael Forniz) ©2023『春の画 SHUNGA』製作委員会

江戸時代後期の人々のおおらかな性生活

かつては春画の話題など普通はしなかったし、出版物も自主規制的な修正をした上で世に出ていたものだ。その風潮が一気に変わったのは2013年にロンドンの大英博物館での大規模な春画展が開催され(僕も見に行った)、2015年に東京の永青文庫、2016年に京都の細見美術館でも開催。小学館のような大手出版社からも豪華本から入門書的な本まで何冊も出版された。

『春の画 SHUNGA』
大英博物館(ロンドン) ©2023『春の画 SHUNGA』製作委員会

多くの日本人がそれまで知らなかった春画の世界。それに触れてみると、江戸時代後期、太平の世の人々のおおらかな性生活が見える。絵から想像する限り男女ともにそれを楽しむ様子がうかがわれ、また浮世絵の中でも最高の技術を駆使したものが春画に見られることなどを初めて知り、衝撃を受ける。

その春画をめぐる大らかさが消え、日陰もの的な扱いをされたのは明治の開国以降。たとえば銭湯での男女混浴の禁止などと同様に、西洋的近代国家の常識にならうための禁止令が出された。急速な近代化の裏の庶民のホンネ、生の声を聞きたいものだ。

『春の画 SHUNGA』
「歌満くら」喜多川歌麿・画(浦上蒼穹堂) ©2023『春の画 SHUNGA』製作委員会

ところで日本語が少しわかる外国人からすると、春画=春の絵がなぜ性行為を描いた絵になるのかわからないらしい。漢字の「春」には性行為の意味があるからだよと教えると彼らは驚き納得する。売春って言うでしょと説明する。僕たちも英語の春とバネ(スプリング)が同じ言葉なのは知らなければ理解できない。もっともスプリングのことは日本語で「発条」なので、「発情」に通じる? まあ、それはただのダジャレなのだが。どっちにしろ、むずむずして飛び出す点で同じとかね。

『春の画 SHUNGA』
『春の画 SHUNGA』チラシ表面。2023年11月24日(金)よりシネスイッチ銀座ほかで全国公開中。https://www.culture-pub.jp/harunoe/

さて、春画のドキュメンタリー映画が公開されているので紹介しよう。『春の画(はるのえ) SHUNGA』。これを見ると、前述の江戸時代の大らかさが解き明かされていくし、浮世絵木版画の最高峰の技術のことも目の当たりにすることができる。多くの名作春画を次から次に見せられることになる。

映画は3つのストーリーラインによって構成され、それらが並行して進んでいく。一つ目は春画の最高傑作の一つと言われる鳥居清長『袖の巻』を復刻するプロジェクトを追っている。彫師、摺師の仕事を見ることで制作、分業のプロセスがわかる。そしてその展覧会(即売会)までが記録されている。

『春の画 SHUNGA』
復刻版『袖の巻』の陰毛の部分を彫る。 ©2023『春の画 SHUNGA』製作委員会

二つ目は春画を扱う美術商が実物の春画を数人の女性たち(一人はドラァグクイーン)に見せて、解説し、女性たちのストレートな反応や感想をウォッチしていこうというライン。その女性たちは小説家や美術ライター、春画愛好家など。

『春の画 SHUNGA』
左は小説家の朝吹真理子さん。 ©2023『春の画 SHUNGA』製作委員会

三つ目のラインは研究者や美術商、国内外のベテランコレクター、美術家たちを取材したパートだ。

『春の画 SHUNGA』
現代美術家の横尾忠則さん。 ©2023『春の画 SHUNGA』製作委員会

インタビューを受けている現代美術家の横尾忠則の話に引き込まれる。彼の母親(横尾は生後まもなく養子に出されているので、産みの母ではなく、育ての母)が74歳で亡くなったとき、胴巻きから汗に濡れた春画が4枚出てきた。死の床にまで春画を大事に持っていたことに驚いている。おそらく嫁入りのときに持たされたものであろうと。

さらに、横尾は自身が描く絵画に春画のモチーフを取り入れているものがあるが、それを描いたときのある秘密をインタビューのなかで吐露し、今度はこちらを驚かせる。絵とセックスした、生きることと死の想像力が一つになったと感じたとも語っている。

『春の画 SHUNGA』
現代美術家の会田誠さん。 ©2023『春の画 SHUNGA』製作委員会

もう一人、現代美術家として会田誠が登場し、葛飾北斎の絵をベースにした自作について語っているシーンも白眉といえる。一方、海外の有名美術館での春画展がきっかけになり、だから春画は芸術だというような受け取り方には彼は違和感を覚えている。

この2時間の映画で春画について、かなりの理解が高まるだろう。しかも次から次に登場する春画はどれも名作揃いなので是非ともご覧いただきたい映画である。

『春の画 SHUNGA』
「艶本美女競」渓斎英泉・画(浦上蒼穹堂) ©2023『春の画 SHUNGA』製作委員会

いい映画だったのであえて書いておく。データの裏とりを徹底していただきたかった。ある外国人コレクターが語っているのだが、有名な絵師たちが実名で性行為の絵を描くのは江戸の浮世絵師たちだけだとしているが、ピカソにも男女の性戯を描いたシリーズがあるし、もう少し調査が必要。

さらに、葛飾北斎『喜能会之故真通(きのえのこまつ)』を元にし、海女をウルトラマンの登場人物フジ隊員に、蛸をキングギドラに置き換えた会田誠《巨大フジ隊員vsキングギドラ》(1993年)で会田はデビューしたと言っているがそれは正確ではない。たとえば現在、豊田市美術館が所蔵している《あぜ道》は1991年の作品。画廊で発表され、個人に販売された。

『春の画 SHUNGA』
「好色図会十二候」勝川春潮・画(浦上蒼穹堂) ©2023『春の画 SHUNGA』製作委員会

2013年、ロンドンでの春画展からの東京、京都の展覧会。その10年後の2023年、この映画『春の画 SHUNGA』が公開。世界は震災、天候不順、パンデミック、大きな戦争に見舞われていて、春画が描かれていた頃の太平の世とはちょっと状況が異なっている気がする。しかし、いつの時代もどんな状況でも、人々の閨房での営みは今日もまたあるのだろう。

Yoshio Suzuki
編集者/美術ジャーナリスト。雑誌、書籍、ウェブへの美術関連記事の執筆や編集、展覧会の企画や広報を手がける。また、美術を軸にした企業戦略のコンサルティングなども。前職はマガジンハウスにて、ポパイ、アンアン、リラックス編集部勤務ののち、ブルータス副編集長を10年間務めた。国内外、多くの美術館を取材。アーティストインタビュー多数。明治学院大学、愛知県立芸術大学非常勤講師。東京都庭園美術館外部評価委員。

■連載「アートというお買い物」とは
美術ジャーナリスト・鈴木芳雄が”買う”という視点でアートに切り込む連載。話題のオークション、お宝の美術品、気鋭のアーティストインタビューなど、アートの購入を考える人もそうでない人も知っておいて損なしのコンテンツをお届け。

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アートというお買い物

美術ジャーナリスト・鈴木芳雄が”買う”という視点でアートに切り込む連載。話題のオークション、お宝の美術品、気鋭のアーティストインタビューなど、アートの購入を考える人もそうでない人も知っておいて損なしのコンテンツをお届け。

TEXT=鈴木芳雄

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