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ART

2023.05.17

ユニクロ UT×花井祐介「絵をのっけるだけのTシャツは作らない」――アートというお買い物

人気アーティスト花井祐介によるUTコレクションは当初の企画段階から、花井本人の意向を全面的に取り入れて、リサイクル素材を活用するラインナップになった。その発売を記念して、2023年のアースデイに開催されたイベント、ゴミ拾いをスポーツ感覚で楽しもうという「スポGOMI」のことと、さらに花井、そしてユニクロの想いを聞いた。連載「アートというお買い物」とは……

アーティスト花井祐介

大きな会社だから成せること、1人のアーティストが叶えられること

花井祐介は異色のアーティストと言える。特に美術の専門教育を修めたわけでもない。彼の根底にあるのは、リック・グリフィンの仕事だ。グレイトフル・デッドのアルバムカバーを手掛けたことなどで名高いこのアメリカ人アーティストに最も影響を受けた。花井は高校生のときにサーフィンを始めたが、サーフィンの文化にも触れているうちに、’50~60年代のアメリカのカウンターカルチャーやアメコミ風の作風にたどり着いた。

前編に詳説したが、ユニクロからTシャツを制作する提案があったとき、オーガニックコットンやリサイクル素材を使い、それもユニクロが展開するような大きなロットで作り、しかも安価で販売できることをメリットとして、ささやかでも世界の環境問題に一石を投じられるのではないか。花井はそれに賭けた。対してユニクロは新たなファブリックを開発するなどして、花井の意図に応えたのである。

ユニクロは2021年11月、京都河原町店から始まり、全国各地で開催してきた環境への取り組みである「スポGOMI×UNIQLO」という社会貢献活動を行なってきた。2023年4月22日のアースデイには花井をゲストに迎え、⼀般応募で集まった参加者65名と、ユニクロ原宿店付近で拾ったごみの量と質でポイントを競ったのである。このイベントについて、花井とユニクロ商品本部 グローバルMD部 部長の小森田真也に聞いた。

アーティスト花井祐介とユニクロのコラボアイテム

花井祐介によるコレクションでは、リサイクル素材を使用。Tシャツとポケッタブルバッグが制作された。

アーティスト花井祐介とユニクロ商品本部MD部部長

左:花井祐介/Yusuke Hanai
グラフィックアーティスト。’50~’60年代のカウンターカルチャーの影響を色濃く受け、日本の美的感覚とアメリカのレトロなイラストレーションを融合した独自の作風が人気。
右:小森田真也/Shinya Komorida
ユニクロ商品本部 グローバルMD部 部長。米ニューヨーク勤務等を経て現職。

世に送り出す商品がそのままメッセージになる

——「スポGOMI」に参加してどうでしたか?

花井 「スポGOMI」のことをお聞きして、ぜひやらせていただきたいと思い、今回初めて参加しました。僕とUTとのコラボレーションのテーマが、環境への⾝近なアクションを⼀押しする「ONE STEP FORWARD」(一歩前へ)なので。

もともと、サーファー仲間で月に1回集まって、ビーチのゴミ拾いとかをやっていて。単純に自分たちの遊び場を守りたいという理由なんですけどね。サーフィンをやっていると、ゴミが海に浮いていたり、ビーチに落ちていたりするのを目にします。なので、ビーチクリーン運動をするのですが、いくらやってもなくならない。遠くからやってくるゴミがたまる場所があるんですけど、調べてみると、そのほとんどが街からやってきたものでした。街のゴミが無くならないと、海のゴミも無くならないのだと。

Tシャツを販売するローンチイベントとかでは全然なくて、朝の8時に原宿に集まってゴミを拾う。参加は抽選制なのですが、ファミリーで来てくれる人もいて、みんなでお揃いのTシャツを着て、手にゴミ袋を持って、ゴミを拾っていくんです。

スポGOMI

2023年4月22日に開催された「スポGOMI」の様子。

スポGOMIでゴミを拾うアーティスト花井祐介

原宿の街のゴミを拾って歩く花井。

小森田 花井さんの意図を受けてのことですが、世に送り出す商品がそのままメッセージになっています。そのために我々も素材のことから話し合い、Tシャツを作っているときから、イベントをやるなど、このメッセージが伝わるような仕掛けもしたいですよねと言っていました。

絵をのっけてるだけのTシャツにならないようにとか、ただTシャツを作って売るだけじゃなくて、これは一連のプロジェクト・取り組みにしたいと考えましたし、実現できました。

どんなメッセージや背景があるのか、その伝え方も課題にして。今回、アーティストにも参加してもらって、UTチームとしてこういう仕事ができたのは一番のやりがいですし、面白さがありました。

——Tシャツというアイテムを真ん中に置いて、世界有数の美術館を身近に感じさせてくれたり、そうかと思うと、街でゴミ拾いをしたり、ユニクロの活動のバリエーションが興味深いです。

小森田 ニューヨークの五番街にユニクロのショップがあって、そのすぐ近くにMoMA(ニューヨーク近代美術館)があるんですね。ユニクロは2013年から、MoMAとパートナーシップを結んで、同館に収蔵されているアート作品をモチーフにしたUTを作ったり、毎月1回、MoMAの入館料が無料になるプログラム「UNIQLO NYCナイト」をニューヨーク市居住者を対象に開催したりと、色々な施策を一緒にやらせていただいていました。

すべての人がアートに触れることができる機会を創りたい、我々の仕掛けが一つのきっかけになれたらという想いからです。その後、パリのルーヴル美術館、ロンドンのテート・モダン、スペインのバルセロナ現代美術館など、世界有数の美術館とパートナーシップを結び活動を広げています。

パリのアート・デザインユニットがルーヴル美術館の名作を大胆にアレンジしたグラフィックTシャツ。

ルーヴル美術館 by M/M (Paris) UT。

——花井さんが個人でされている活動もあるそうですが、それも教えてください。

花井 アメリカの小学校の中には、美術や音楽の授業が無いところがあるんです。余裕のある富裕層地域では、親たちが資金を出し合って美術や音楽の先生を呼び授業するのですが、低所得層の地域にはそれが無いんですね。

そういう地域で教師をやっている友達がいて、僕はボランティアで絵を教えに行ってるんです。子供の持っているクリエイティブな素養を育てたら、それによって社会的に這い上がれる子も出てくるかもしれないですよね。コロナの間、2年間は行けなかったんですが、かれこれ13年前から行ってます。アーティストが月替わりで行って、6月には作品を体育館に貼り出して発表会・寸評会をやって、賞をあげるんです。僕も土曜日と日曜日の2日間で壁画を描きます。

***

話を聞いていて、花井祐介にはどんな場面でも気負ったところが無いのだなと感じた。

地球に差し迫る環境問題をどうしよう、世界に蔓延る貧困問題をどうしようという課題は、現代を生きる私たちに常に突きつけられている。それを、大上段からの発想からでは全くなく、例えば、サーファーである自分たちの遊び場である海が汚れているのが嫌だから、毎月仲間たちと集まってゴミを拾おうよ、とか、あるいは、貧しさゆえ、図工や美術の授業が受けられない子供たちがいると聞けば、異国であろうと駆けつけて、絵を教えに行くよというDIY的フットワーク。身近な、できることからやればいいというだけのこと。

今回の花井とUTのTシャツをめぐるコラボレーションは、たった1人のアーティストと世界的な企業がお互いをリスペクトして、対等に組み、一つのことをなし得た好例であり、それぞれの影響力を最大限に活用できたケーススタディとして、記憶されていくのではないだろうかとそんなことを思った。

■前編は関連記事からご覧いただけます

Yoshio Suzuki
編集者/美術ジャーナリスト。雑誌、書籍、ウェブへの美術関連記事の執筆や編集、展覧会の企画や広報を手がける。また、美術を軸にした企業戦略のコンサルティングなども。前職はマガジンハウスにて、ポパイ、アンアン、リラックス編集部勤務ののち、ブルータス副編集長を10年間務めた。国内外、多くの美術館を取材。アーティストインタビュー多数。明治学院大学、愛知県立芸術大学非常勤講師。東京都庭園美術館外部評価委員。

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アートというお買い物

美術ジャーナリスト・鈴木芳雄が”買う”という視点でアートに切り込む連載。話題のオークション、お宝の美術品、気鋭のアーティストインタビューなど、アートの購入を考える人もそうでない人も知っておいて損なしのコンテンツをお届け。

TEXT=鈴木芳雄

PHOTOGRAPH=田中駿伍(MAETTICO)

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