サーフィンやアメリカのカウンター・カルチャーからのインスピレーションをもとに「普通の人々」を描き続けるアーティスト・花井祐介。アートファンの間でも人気は高く、今年の1月に発売したNFTコレクション『People In The Place They Love』は、ローンチされた1000アイテムが半月ほど完売した。そして現在、国内では5年ぶりとなる展覧会を「T&Y Projects」で開催している。今回の展示に込めた想いを本人に聞いた。全3回。【Vol.1はこちら】【Vol.2はこちら】
クリエイティブな仕事は、這い上がる手段になる
花井の評価は国内のみに留まらない。巨大なアヒル人形の作品「ラバーダック」で有名なフロレンティン・ホフマンや、アイコニックな<XX>目をもはや見たことのない人いないだろうKAWSら、世界的現代アーティストらと作品制作を行う香港のクリエイティブスタジオAllRightsReserved(ARR)とともに、花井は制作・展示を行っている。
「香港の人って日本のカルチャーにすごく興味を持ってくれているんです。 BEAMSやVANSみたいなストリートブランドとコラボしてることから、ARRはたぶん僕に関心をもってくれたんじゃないかな。2020年に最初のプロジェクトとして『DOWN BUT NOT OUT』というフィギュアを作って、それから香港・上海と個展を開いてもらって。純粋な欧米のアートとは異なる、アメリカ文化に憧れつつ日本的なものと融合したアートは、僕の作品に限らず中国語圏の人の琴線に触れるものがあるそうです」
花井とAllRightsReservedによる最新のプロジェクトが、NFTコレクションの「People In The Place They Love」だ。目、口、髪型などを数十種類ずつ花井が書き下ろし、それらをコンピューター上で組み合わせることで、それぞれ異なる人物画を1000個作成した。10万人以上が購入を求めて即完売したことは、大変な話題を呼んだ。
「People In The Place They Love」に描いた作品をもとに作ったビデオ・アートの小品も、今回の個展に展示されている。これには、とある仕掛けが隠されているので、ぜひ現地でたしかめてほしい。
「実は、NFTのプロジェクトは最初はやりたくなかったんですよ(笑)。所有権のあるデジタルアートって言っても、正直よくわからなかった。でもARRと話すうちにNFTを所有することで得られるベネフィット、今後所持した人が購入できる権利をもつメタバース内のアバターや現実世界とのリンクが面白く感じました。仮想空間で僕の描く人間になって街を徘徊できる。そのキャラになれる権利ならば購入した後の面白さも全然違うと思いました。僕自身、どうせ元々アートの本流からきたわけではないので、当たって砕けろ!の精神で挑戦したんです」
アート市場でも高く評価される一方で、アートとマネーの問題について、花井はある問題意識を持っている。
「12、3年前からアメリカの小学校で美術を教えるボランティアをやっているんです。というのも、アメリカの公立学校って、国語・算数・理科・社会しかカリキュラムがなくて、音楽や図工を教えてる学校は、保護者たちがお金を払って教師を呼んでるんです。だから、貧しい地域だと芸術に触れる機会がない。貧富の格差で芸術に触れられないってのは、すごく嫌な話ですよね。それに音楽やアートといったクリエイティブな仕事は、這い上がる手段にもなるのに、その可能性が剥ぎ取られているんです。そのことをアメリカで教師をやってる友人が悩んでいると聞いて、自分たちでDIYでボランティアをやってみようと、立ち上がったんです。月替わりでアーティストが子供たちに課題をだして、やりたい子供たちが放課後に制作をする。毎年年度末の6月に発表会と寸評会を開いてライブをやったり壁画を描いたりするんです。去年と一昨年はコロナで行けなかった。今年はコロナも収まってきてるから、ひさびさに行けそうで今から楽しみなんです」
会期:~2022年6月11日まで
時間:12:00~18:00
定休日:日曜、月曜、祝日
場所:TERRADA ART COMPLEX Ⅱ
住所:品川区東品川1-32-8 4F T&Y Projects内
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