ART

2022.05.14

【花井祐介】気鋭のアーティストを独占取材! 「作品にタイトルは付けない」<Vol.1>

サーフィンやアメリカのカウンター・カルチャーからのインスピレーションをもとに「普通の人々」を描き続けるアーティスト・花井祐介。ユニークな画風はファッションブランドからの支持も強く、BEAMSやVANS、GREGORYなど多くのブランドとコラボレーションしている。アートファンの間でも人気は高く、今年、2022年1月に発売したNFTコレクション『People In The Place They Love』は、ローンチされた1000アイテムを10万人が買い求めた。そして現在、国内では5年ぶりとなる展覧会を「T&Y Projects」で開催している。今回の展示に込めた想いを本人に聞いた。全3回。

花井祐介氏

尊重し合うことによる、協力の方法があってほしい

ホワイトキューブの天井に届きそうなほど大きい、縦259センチの200号のキャンバスに描かれた新作(写真)は、「人々が協力し“何か”を取ろうとする」モチーフが描かれている。

「この絵に取り掛かったのは3週間前。昨今、善悪の構成が一方的に感じることが多く、そこを常々疑問に感じていました。それがこの作品のインスピレーションの原点です。おおまかな構図は、アメリカのストリートアート/カルチャー誌『Juxtapoz』の表紙に描いたものを反復しています。ただ、今回の作品には背景に漫画のようないくつもの“ふきだし”を加えたんです。戦争を巡って、意見が合うほうにだけ協力する、という風潮が強くなったと思う。でも、それは本当の協力じゃない。意見が合うんだったら何もしなくたって、協力できるじゃないですか。
この絵では、ふきだしの色がそれぞれ違うし、それが混ざり合って色が変わってるんです。お互いの言い分を、ただ尊重し合うことによる協力の方法があってほしいと願っているんです」

シリアスなテーマでも、常にアイロニカルな可笑しみが感じられるのが花井作品の特徴だ。今回の作品では、キャンバスの上には“LIGHT”というラベルが貼られたビール瓶が置かれている。

「人々が協力しあった先にある光の意味の“LIGHT”と、“ライト”テイストのビールの“LIGHT”をかけたダジャレです」

花井の作品にとってビールは切っても切り離せない存在だ。代表作のひとつである“DOWN BUT NOT OUT”(2020年)をはじめ、数多くの作品で「ビールを飲んでる男」がモチーフにされている。さらには、鎌倉のクラフトビールブルワリーからは、花井のイラストがラベルとなった「ヨロッコビール」まで発売されていたりもする(とても美味しい!)。

「20歳から25歳まで横浜の場末のバーで働いてて、その店は鎌倉あたりのサーファーの溜まり場になってました。そこで出会ったたくさんの人たちが、インスピレーションの原点。ビールを飲むにつれ現れてくる“Ordinary People(=普通の人たち)”の面白い人間性を描きつづけているんです。『普通の人』って言っても、それは無個性ってことではないんです。むしろ逆。スーパーヒーローやセレブリティではないってだけで、『普通の人』ってことにされてるけど、頭どうなってんの(笑)?ってくらい強烈な人たちをバーで見てきたから。“Ordinary People”たちの、それぞれ違う個性を描きたいんです」

花井氏ギャラリー

新作(写真中央)は、この展覧会会場で3週間に渡って描かれた。ペインティング風景は花井のInstagramにも掲載されている。合わせて見ることで、より作品の生々しい感触が伝わってくる。

サーファーが集まるバーに集う人たちを描いている、と聞くと、ザ・ビーチ・ボーイズの『サーフィン・U.S.A』かのような明るく陽気なイメージを想像するだろう。しかし花井の作品からは、むしろ哀愁を(僕は)感じる。ビーチ・ボーイズに引き寄せれば、ブライアン・ウィルソンが抱えていたある種のダウナーさを。
特に、昨年の8月に香港で開催された大規模個展「FACING THE CURRENT」に向け作られた作品群は、コロナ禍の時代を反映するような孤独さが際立っているように見える。

「パンデミックでダウナーなほうへ心境が変化したつもりはないというか、僕はもともとダウナーなんです。僕の作品は確実にサーフ・カルチャーに根ざしているんだけど、それは世間一般のサーフィンのイメージとはかなり違う。だけど、メディアだと『サーファーのアーティスト』ってだけで、陽気な作風の人だと、すごく勘違いされてると思ってます(笑)。たしかにちょっと前は、そういうイメージで“明るい絵を描いてくれ”と注文されれば、無理くり明るく描いてはいたものの……。先入観やイメージってのは、すごく恐ろしいものがありますよね」

先入観を与えることを注意深くさけるかのように、花井の作品のほとんどはタイトルが付けられていない。

「絵を見る前から『これはこういう作品ですよ』って解説を聞かされてから見ても面白くないじゃないですか。これはどんなシチュエーションなのかなって自分で考えて、自分のなかからストーリーが生まれてくる、そんな絵の見方が僕は好きなんです。ある意味で、僕の絵の原点でもある60年代のサーフィン雑誌に載ってるリック・グリフィンなどが手がけたイラストレーションを、逆方向からアプローチしていると言っていいかもしれません。イラストレーターは、雑誌のために書かれた文章からイメージして絵を描きますよね。それをひっくり返して、鑑賞する人たちに僕の絵から、記事にあたるようなストーリーを作り上げてほしいんです。タイトルを付けてある作品のほとんどは、ギャラリーとかに『無題じゃ困る』って言われたときがほとんどかな。絵を売るときに無題じゃ検索もできないから付けてくれって(笑)」

■Vol.2は5月15日(日)公開予定

花井氏 ロゴ

About T&Y Projects.
アートコレクターである栗田裕一が代表理事を務める、アート普及活動を行うために設立した財団。多くの人々にアートに触れてもらいたい、そして国内外で活躍する日本人アーティストが、日本からアジア、そして世界へと活動を広げる機会に繋がれば、という理由から天王洲にビューイングスペースを設け、定期的に若手アーティストのコレクション展を開催している。
詳しくはAbout T&Y Projects.公式サイトまで。

会期:~2022年6月11日まで
時間:12:00~18:00
定休日:日曜、月曜、祝日
場所:TERRADA ART COMPLEX Ⅱ
住所:品川区東品川1-32-8 4F T&Y Projects内
詳細はこちら

TEXT=秋山直斗

PHOTOGRAPH=鈴木規仁

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