友人宅に急にお呼ばれした場合やちょっとしたプレゼント、自宅でのカジュアルなランチ会などの際に、近所のスーパーやデパートなどで5,000〜1万円で買える“ちょっといいワイン”を知っておくと大変便利なもの。おいしいのは絶対条件で、ちょっと蘊蓄も語れると最高ですよね。そんな「街中で買える、1万円以下の“お宝ワイン”」を、年間1000種類近いワインをテイスティングし、つねにおいしいワインを探し求めているワインブロガー・ヒマワイン氏がご紹介。

ワイン界の大事件から50周年
今年2026年は、「パリスの審判」から50周年の年だそうです。
「パリスの審判」とは、フランスの有名ワインとアメリカワインが目隠しで提供され、味を競い合ったというイベント。フランスワインが勝つことを誰もが疑わなかったなか、まさかのアメリカワインが圧勝したという、ワイン界の大事件です。
パリスの審判でのアメリカの勝利は、世界のワイン界に大きい影響を与えましたが、アメリカ(カリフォルニア)ワインにとってはまさに歴史が塗り変わった瞬間でした。パリスの審判を機にカリフォルニアのワイン産業は質量ともに爆発的に進化。いまや、「カリフォルニア」という地方だけでイタリア、フランス、スペインに次ぐ世界4位の生産量を誇る巨大産地へと発展しています。
アトランタオリンピックでサッカー日本代表がブラジルを破り、その後日本がサッカー強国になっていった、みたいなことでしょうか。世間のサッカーの盛り上がりに強引に結びつけて言うと。
今回はそんな歴史的イベント「パリスの審判」で、フランスの一流ワインを破った生産者のワインを飲んでみました。
選んだのはスタッグス・リープのワイン。この生産者の赤ワイン「スタッグス・リープ S.L.V. カベルネ・ソーヴィニヨン1973」が、パリスの審判で赤ワイン部門の1位を獲得。ワインの歴史を変えた1本と言って言い過ぎではありません。
このワイン、今でも購入することが可能ですが、お値段60,000円前後(!)とかなりの雲上ワイン。カベルネ・ソーヴィニヨン単体のワインとしては「アルテミス」という名前のワインがありますが、これも価格は12,000円〜という感じ。10,000円以下のお宝ワイン連載では惜しくも残念ながら対象外です。
というわけで、いっそのことというわけで、今回は同ワイナリーのピノ・ノワールを買ってみました。産地はソノマカウンティ。私はソノマのピノ・ノワールが好きなのです(笑)。
カリフォルニアを代表するワインといえばカベルネ・ソーヴィニヨン。ピノ・ノワールはフランスのブルゴーニュ地方を代表する品種ですが、最近は欧州の温暖化の影響もあり、アメリカのオレゴンやカリフォルニアがピノ・ノワールの産地としてにわかに脚光を浴びたりしています。サッカー大国と見なされてこなかったアメリカが、気づけば世界ランク10位台、みたいな感じでしょうか。(しつこい)
購入したワインの名前は「スタッグス・リープ・ワイン・セラーズ ”ハンズ・オブ・タイム” ピノ・ノワール ソノマカウンティ」。パリスの審判以来、スタッグス・リープの歴代の醸造家たちが紡いで来た技術の系譜が手形のラベルには込められているのだそうです。
グラスに注いで飲んでみましたが、これがうまい。2018年の1年だけ造られた限定ワインなのだそうですが、収穫・醸造から8年の時を経たワインはわずかに退色し、熟成感が出始めています。ワインの一生を春夏秋冬にたとえるならば、まさに秋の盛りといった印象でしょうか。
秋に咲く暖色系の花のような香り、落ち葉が降り積もった少し湿った森の雰囲気、朽ちた木に生えるキノコのような印象と、まだフレッシュさをギリギリ保つ果実のみずみずしさが重なり、スイスイいくらでも飲めてしまうヤバいやつです。
ブルゴーニュのような近寄りがたさがなく、親しみやすくて飲みやすい。だからといって奥行きや複雑さがないわけではない。私がカリフォルニアのピノ・ノワールを好きな理由が凝縮されたようなワインです。
私の購入価格はネットショップで5,000円ほどですが、この価格で熟成したピノ・ノワールを味わえるのはコスパとしてはむしろ優秀と言えそう。懐に余裕があるのなら、カベルネ・ソーヴィニヨンで造られる「アルテミス」に手を伸ばせば、この生産者の真骨頂を味わえるでしょう。
カリフォルニアワインがフランスワインに対して“奇跡の番狂せ”を起こしてから半世紀。アメリカで開催されているサッカーの試合など眺めながら、このワインを楽しんでみるのもまた一興ではないでしょうか。
ヒマワイン
年間約1000種類のワインを飲み、「ヒマだしワインのむ。」というブログを運営するワインブロガー。高いワインも安いワインも、地球上で造られるすべてのワインが好き。

