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2025.02.28

コレクター垂涎の1本。“世界一入手困難なカルトワイン”の分身「ザ・フライト」

世界一のカルトワイン「スクリーミング・イーグル」の“分身”ともいえるのが、メルロ主体で造られた「ザ・フライト」だ。ともすれば「スクリーミング・イーグル」の陰に隠れがちだが、芳醇で優雅な味わいは、また新たな感動を与えてくれる。その誕生秘話をエステート・ディレクターのアルマン・ド・メグレ氏が語ってくれた。

「スクリーミング・イーグル」の分身、ザ・フライト
「ザ・フライト」のコルクには「FRY HIGH AND PROUD」(誇りをもって高く翔べ)の文字が刻印されている。ワインの”魂”ともいえる言葉だ。

オーナーチェンジが好機に。ザ・フライト誕生秘話

ワイン愛好家なら一生に一度は飲んでみたいと思うワインのひとつがカリフォルニアの「スクリーミング・イーグル」だ。“世界一入手困難なカルトワイン”と言われ、オークションなどで出合えたら「幸運」のひと言。その価格も世界最高峰レベルだ。

伝説の始まりは、1986年に不動産業で成功したジーン・フィリップ氏がナパ・ヴァレーのオークヴィルに23ヘクタールのブドウ畑を購入したことだった。彼女はその畑から産出されるブドウのほとんどを近隣のワイナリーに売っていたが、その中のわずか0.5ヘクタールの畑で実るブドウが群を抜いて素晴らしいことに気づいた。そして、現在は“カリフォルニアワインのファースト・レディ”と称される大御所ながら、当時は無名だったハイディ・ピーターソン・パレット氏を醸造家として招聘(しょうへい)。カベルネ・ソーヴィニヨン主体の「スクリーミング・イーグル 1992」を1995年にリリースした。

この幻のワインが世に知られるようになったのはリリースされてすぐのことで、当時、ワインの世界で最も影響力が大きかったワイン評論家ロバート・パーカー氏がこの「スクリーミング・イーグル 1992」に99点をつけたことで表舞台へと躍り出たのだった。以後、1997年、2007年、2010年、2012年には100点満点がつけられ、他のヴィンテージも満点近いスコアを得たことから、オークションでも引く手あまたの存在となったのだ。ちなみに、2000年に開催されたナパ・ヴァレー・ヴィントナーズのチャリティ オークションでは「スクリーミング・イーグル1992年」の6Lボトルに50万ドル(当時約5300万円)の値が付き、話題となった。

また、ワイナリーが転機を迎えたのは2006年のこと。オーナーが「ホナータ」や「ザ・ヒルト」などラグジュアリーワインの生産者として知られるスタン・クロンキー氏に変わったのだ。

そして現在、エステート・ディレクターとしてワイナリーを統括するアルマン・ド・メグレ氏はこう語る。

エステート・ディレクターのアルマン・ド・メグレ氏
エステート・ディレクターのアルマン・ド・メグレ氏。親日家であり、日本料理とのマリアージュも経験。「ザ・フライトの2012年は、和牛はもちろん、あんこうとも合っていました。中華料理とも相性がいいですよ」

「まさに、この時が私たちにとっての新たなスタートの時でした。私たちが前オーナーから渡されたのはエステートの鍵だけでした。ブドウの栽培法も醸造についても、情報は共有されなかったのです。

ですが、このことが、私たちを新しい世界に導いたと言ってもいいでしょう。私たちは、まずブドウ畑を見ることから始めました。すると、畑の一角にあるメルロの素晴らしさに気づいたのです。それまで、メルロはブレンド用品種としてカベルネ・ソーヴィニヨンのように栽培されていました。それを、メルロ本来のふくよかと繊細さを引き出せるよう、栽培法を変えたのです。実際、実をつけたメルロは、それは美しいものでした」

「スクリーミング・イーグル」の畑
ワイナリーではオーガニック栽培を実践。畑では生物多様性も実現している。畑には鶏が遊ぶ姿も。「サステナブルを推進することは、今の時代、大前提ですね」とメグレ氏。

そうして新たに2006年に誕生したのが、メルロを主体とした「ザ・セカンド・フライト」だ。“次なる飛翔”を意味するが、スクリーミング・イーグルのセカンドワインと認識する愛好家もいたことから、2015年ヴィンテージから「ザ・フライト」と改名された。現行ヴィンテージである「ザ・フライト レッド・ワイン オークヴィル ナパ・ヴァレー 2020」はブルーベリーやカシス、スミレの香りが豊かで、メルロらしいふくよかな果実味が飲む人を一瞬にして魅了する。芳醇で奥深く、エレガントな味わいがスクリーミング・イーグルらしさを思わせ、“もうひとつの顔”であることを物語っている。ザ・フライトもカルトワインではあるが、スクリーミング・イーグルより入手しやすいことも魅力のひとつだ。

「スクリーミング・イーグル ザ・フライト レッド・ワイン オークヴィル ナパ・ヴァレー 2020」。
スクリーミング・イーグル ザ・フライト レッド・ワイン オークヴィル ナパ・ヴァレー 2020
メルロ64%、カベルネ・ソーヴィニヨン36%。チェリーやブルーベリー、スミレなどのアロマティックな香りと、黒コショウ、セルフィーユのニュアンス。ミネラル豊かで酸もエレガント。ふくよかさがボルドーのポムロールを彷彿させる。750ml ¥319,000

そこで、メグレ氏に“カルトワイン”と呼ばれることについてどう思うか、質問してみたところ、こんな答えが返ってきた。

「正直、言葉そのものは好きではありませんが、個人的には“探しても見つからない”のがカルトワインの定義なのではと思っています。ただし、入手困難だから素晴らしいワインだとは思われたくない。クオリティが高く、素晴らしいワインだから求められていると思いたいですね(笑)」

また、2012年ヴィンテージからは、前醸造アシスタントだったニック・ジスラソン氏が醸造責任者に就任、30代の若さながら世界最高峰の味を生み出している。

「彼はまだ若いですが、畑のことなら何でも知っているし、素晴らしいセンスの持ち主でもある。私たちは彼とともに、また新しい伝説を作れると信じています」

まずは、まだ入手可能なザ・フライトで、至高の味を確かめてみてはいかがだろうか?

問い合わせ
WINE TO STYLE  TEL:03-5413-8831

TEXT=安齋喜美子

PHOTOGRAPH=©SCREAMING EAGLE

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