「老舗が大手の傘下に」というニュースが流れると、業界は一気に浮足立つ。新体制のもと、次の一手はどう出る? どう舵を切る? ワイン業界において、それがジョセフ フェルプスならなおさらだ。キーパーソンのデイヴィッド・ピアソン氏に話を聞いた。
カリフォルニアの老舗ワイナリー、ジョセフ フェルプスが向かうワイン新時代
ジョセフ フェルプス ヴィンヤーズは1973年創業の老舗ワイナリー。カリフォルニアのナパにシラーやグルナッシュなどフランスのローヌ品種を最初に植樹したパイオニアであり、冷涼なソノマにいち早くピノ・ノワールとシャルドネを植えたテロワールの理解者。
そしてなにより、現在の高級カリフォルニアワインの型を作り上げた立役者だ。
今でこそカリフォルニアの高級ワインは、カベルネ・ソーヴィニヨンを中心にプティ・ヴェルドやメルロなどをブレンドした、いわゆる“ボルドーブレンド”が主流だが、ジョセフ フェルプスがワイナリーを創立した当時は、カベルネ・ソーヴィニヨン100%やメルロ100%など、単一品種で造るのが常だった。
妥協せず最高のワインを造る、という哲学を持って自身の名を冠したワイナリーを設立し、ワイン造りを始めた創業者のジョセフ・フェルプス氏は、そこに疑問を覚えた。もともと建設業に携わっており、フランスやイタリアでバカンスを過ごしワインに親しんだのがきっかけでこの道に進んだ彼は、それまでのカリフォルニアワインの慣習に縛られることなく自由な発想ができた。
最高のワインにするためなら、単一品種にこだわる必要はないのではないか?
フェルプス氏はカベルネ・ソーヴィニヨンを中心に、ほかの品種をスパイス的にブレンド。1974年にカリフォルニア初の高級ボルドーブレンドワイン「インシグニア」を完成させた。インシグニアは、その品質の高さと複雑な味わいから驚きと尊敬をもって世間に認知され、以降、高級カリフォルニアワインの規範となった。
そしてこの50年間、ジョセフ フェルプスはインシグニアをアイコンとして進化を続けてきたのである。
再生農法でテロワールの力を最大限に引き出す
ジョセフ フェルプスが、LVMHグループの傘下に入ったのは2022年。輝かしい業績と歴史をもつこのワイナリーは、新体制によりどう変わってゆくのだろうか?
「これまでの歴史やDNAを守り続けます」と、2023年7月にジョセフ フェルプス ヴィンヤーズ社の取締役会長に就任したデイヴィッド・ピアソン氏は言う。
「だって“変える”必要などないのですから。味わいのスタイルは、1990年代後半からしばらくの間、濃厚でパワフルなワインが世界中で流行りましたが、ジョセフ フェルプスは追随しませんでした。エレガントなスタイルを守り続けてきたのです。なぜなら、それは私たちのテロワールを反映した味わいだったからです。
土壌や地形、気候というテロワールを知ることで、ブドウの声を優先することができます。これまでもジョセフ フェルプスでは専属の栽培チームが、畑や区画ごとにキャノピーマネージメントを管理。サステナブルな取り組みとして、化学肥料や殺虫剤を使用せず、ブドウの果皮や梗を堆肥に用いてきました」
それらを土台として、ピアソン氏は10年プログラムでより環境へ配慮した再生農法を目指すと語る。
「自然は学ぶほどに謙虚な気持ちになる。生物多様性を持たせ、コントロールではなく共生の道を進みます」
大企業の代表という立場の人とは思えないほど、地に足のついた、農民的な、生産者的な意思の表明だ。
新体制のもと、よりマーケティングやブランド構築を重視するかと思いきや、そうではないと言う。
「私の基本はワインメーカーですから、まず土を見ます。なによりもブドウを優先させるという考え方がカラダに染み込んでいるのですよ」
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