世界三大料理に数えられるトルコ料理。日本でよく知られるトルコ料理はケバブやフムスなどの王道系だが、知られざる美食に溢れる国でもある。そこで、イスタンブールにある新鋭レストランを中心に10軒をご紹介!
2023年度版からトルコでミシュランが始まった
意外やミシュランの進出が遅かったトルコ。2022年10月に初めて「ミシュランガイドイスタンブール2023」が発表され、翌年にはイズミルとボドルムも加わり盛り上がりをみせている。2024年度版のミシュランガイドでは、70軒が選出され、2つ星が1軒、1つ星が6軒という結果。
まだ星つきは少ないが、健闘しているのが伝統的なトルコ料理に新たなアレンジを加えた“モダン・ターキッシュ”のレストランだ。それは一体どんなものか、星つきも含め注目店をリストアップ。この10軒をマップに保存して、イスタンブールへのグルメ旅を検討してみては?
1.Yeni Lokanta
新発見と美味しさが共存する、カジュアルながら本命になるレストラン
「Yeni Lokanta」では、トルコの餃子マンティやフムスといった伝統料理をモダンに仕上げて提供。ここは食材の組み合わせが天才的だ。例えばフムスを変貌させるのは、マラシュ タルハナというヨーグルトのチップス。タルハナはトルコの遊牧民が生み出したヨーグルトと小麦を主とするスープの素。遊牧民が夏に仕込む保存食で、南東部マラシュ産のタルハナが特別とされる。発酵によるコクと酸味が特徴で、それがフムスのまろやかさと調和。添えられたモレル・マッシュルームとオリーブもいい仕事をする。
イスタンブール出身のシェフはロンドンの料理学校に通い、その後イスタンブールのモダンレストランで腕を磨いた。食レベルの高いトルコ南東部の料理や食材に精通し、それが美味しさの秘訣。トルコ南部で有名なクレープ状のピスタチオの菓子カトメルとココナッツアイスクリームのバランスも最高だ。この店が私的NO.1。
2.Mürver
絶品ラム肉料理のある店は海峡を眺めるテラス席が狙い目
「Mürver」の強みは薪焼き。ホテルのルーフトップに位置し、ボスポラス海峡やトプカプ宮殿を一望する絶景レストランでもある。シェフのメヴリュット・オズカヤさんはミシュランガイドでヤングシェフアワードを受賞する実力派だ。
市場から毎日新鮮な魚介を仕入れ、前菜の名物は炭の中で焼くタコ。ハーブやザクロと合わせたサラダ仕立てのタコで、トルコ産白ワインと相性抜群。にんにくが効いたスモークヨーグルトと胡瓜のサラダも定番であり、前菜全般ハイレベルだ。メインのおすすめはトルコ西部の森で育ったラム肉のスローロースト。ヨーグルトとアプリコットのソースが柔らかくほどけるラム肉を引き立てる。
3.Aheste
東京やロンドンでも成功しそうなビストロ的トルコ料理
在イスタンブールの食べ慣れた外国人に人気の高い「Aheste」。むき出しのレンガが絵になる空間で提供するのは、モダンに仕上げたメゼ(前菜)や、果実やスパイスを効果的に使った肉料理など。女性シェフの感性が光る料理は、どれも美しいビジュアルにして伝統も香る。カクテルもハイレベルで、例えばラム肉料理にスパイシーマルガリータを合わせるのも、ここでこそ叶うマリアージュだ。
4.TURK FATİH TUTAK
トルコいちのスターシェフによる2つ星レストラン
「TURK FATİH TUTAK」はミシュランガイドイスタンブール2023でトルコ初の2つ星を獲得し、2024年度版でも国内唯一の2つ星を保持する有名店。シェフのファティ・トゥタクさんは、中国、香港、シンガポールを経て東京の「龍吟」、コペンハーゲンの「noma」で修業を積み、バンコクの「The Dining Room of The House On Sathorn」のヘッドシェフに就任。同店を人気店に押しあげたあと2019年にトルコに戻り、自身の名を冠した店を開業した。
豊富な国際経験から、西洋と東洋を融合させた料理を個性とする。シグネチャーは“ママの餃子”なる自身が幼い頃に食べたラム肉のマントゥ(トルコの餃子)の再構築。オープンキッチンを目の前にするカウンターが特等席で、食後のキッチンツアーではさらに同店の最新技術を目の当たりにする。
5.Mikla
リピーター率も高いモダン・ターキッシュの先駆け
2023年度版から2年連続ミシュラン1つ星を獲得する「Mikla」。2005年に開業したモダン・ターキッシュの先駆け的存在で、ひねりすぎない料理が素直に美味しいと思わせる。坂の上に立つホテルの最上階に位置し、眺めも抜群。プリフィクスでも注文できてLO22時なので使い勝手もよし。カラスミを合わせたタコのグリルや、マルベリーを添えたラム肉の煮込みなど、食材のもち味をセンスよいアクセントとともに表現する。誰を誘うにも安心だ。
6.Neolokal
一体感とバランスで魅了するコンテンポラリーなコース
「Neolokal」も2023年度版から2年連続でミシュラン1つ星を獲得し、こちらはグリーンスターも獲得。野菜はすべて持続可能な農業を実践する生産者から仕入れている。コンテンポラリーが強いが皿上に無駄な食材はない。使う食材が多くても美味しいカクテルのような一体感を出してくる。シェフは「自身の料理への研究はオープンであるべき」と考え、オンラインでレシピを公開。モダン・ターキッシュにおける綺麗なバランスを世に広めている。
7.Hagia Sofia Mansions Istanbul
一度は食べておきたい贅沢で絵になる朝食
「Hagia Sofia Mansions Istanbul」は、19世紀末に建てられた邸宅を改装して2019年に開業したホテル。緑豊かなガーデンレストランで朝食を提供する。驚くほどの品数がトルコの陶器ブランド「bonna」の器に盛られて、フォトジェニックさも満点だ。
ゴマパンのシミット、トルコ産チーズ、ハムなどがずらりと並び、注目は卵料理のメネメン。卵とトマトをベースに青唐辛子やチーズを加えたもので、パンともよく合う。また、カイマックという煮込んだ牛乳の上澄みを発酵させたクリームがやたらと美味しい。カイマックは蜂蜜と合わせて食べるのだが、現地で惚れ込んだ人が広めたのか、2022年頃から韓国でスイーツとして流行っている。
8.Kadim Meyhane
居酒屋“メイハネ”に寄らずイスタンブールを去ることはできない
メイハネとはメゼ(前菜)をあてに国民酒ラクを飲むトルコ版居酒屋。ラクはブドウを原料にアニスで香りづけした蒸留酒で、通常は水で割って飲む。メイハネでラクを飲むのは、日本人が居酒屋の卓上に焼酎のボトルと水、氷を置いて宴会をするようなものだ。
メイハネは新市街の小道に多く連なり、どの店も品数が多いのが特徴。「Asmalı Cavit」など老舗の人気店が多くあるけれど、2019年に開業した「Kadim Meyhane」も地元民に親しまれている。メゼ37種、温菜18種を常備。通りの賑わいを感じるテラス席が楽しいが、緩い坂道にあるため机に傾斜がつくのはご愛嬌だ。
9.Ernest’s Bar
トルコの国民酒ラクのカクテルが10種以上揃うバー
バーテンダー歴46年、トルコを代表するバーテンダーと言えるFatih Akerdemのカクテルを味わえるのが「Ernest’s Bar」。ラクを使ったカクテルが豊富で、スパイスをインフュージョンしたラクも自作している。薬草酒のラクは、ザクロ、バジル、チリなど様々な食材と相乗効果をみせる万能蒸留酒。酸味の強いグリーンプラムとオクラのピクルスがお通しとして提供されるのもトルコのバーならでは。
10.Seç Baklavaları
売り切れ前に訪れたい、ピスタチオ好き地元民が集まる店
最後に紹介するのは、トルコの国民的スイーツ「バクラヴァ」の店「Seç Baklavaları」。バクラヴァとはパイ生地よりさらに薄い生地を何層にも重ね、間にピスタチオなどナッツを入れたお菓子。この店で扱うピスタチオは、世界最高峰のピスタチオの産地ガズィアンテプ産。狙い目はピスタチオが溢れるほど詰まったダブルだが、バットごと買い占める人がいるので早めに行くのがおすすめだ。ピスタチオの素焼きも売っており、これも非常に美味しい。ちなみに素焼きを1袋(500g)だけ買おうとしたら、「俺なら3日でなくなるぜ」と常連談。
最後にひとつ。イスタンブールは猫の街であり、彼らも飲食店の常連だ。猫と相席になったり、猫がテーブルの下や上に出没したりする。そのゆるさもグルメと合わせてお楽しみあれ。
取材協力/ターキッシュ エアラインズ