世界最古のシャンパーニュ・メゾン、ルイナールは、世界的アーティストとのコラボレーションプログラム「カルト・ブランシュ」を行っている。ルイナールとアートとの強いつながりとは――。
アートを通してメゾンの世界観を伝える
「シャンパーニュの宝石」と呼ばれ、黄金色に輝くルイナール。1729年にフランス・ランスでベネディクト派修道会の高僧ドン・ティエリー・ルイナールの甥であるニコラによって設立された、世界最古のシャンパーニュ・メゾンだ。
コート・デ・ブラン地区とモンターニュ・ド・ランス地区の特徴の異なる畑から優れたシャルドネを選別し、伝統製法を用いて巧みにブレンド。そして、世界遺産にも認定されている古代の石灰岩石切り場「クレイエル」を熟成用セラーとして活用(その距離なんと全長8km!)することで、ルイナールならではの美しい黄金色のシャンパーニュが生み出される。
そんなルイナールを語るうえで欠かせないのがアートだ。300年弱の歴史のなかで、ルイナールはアートと密接にかかわってきた。
古くは1896年、当時の当主であったアンドレ・ルイナールがアールヌーボーを代表するチェコ出身の画家、アルフォンス・ミュシャに世界で初めてシャンパーニュブランドのポスター作成を依頼。その後、世界中のアートイベントとパートナーシップを組み、世界最大の現代アートフェアであるArt Baselをはじめ年間30以上ものアートフェアに参加している。
また、2000年から現代アーティストとのコラボレーション活動を開始。2008年からは、毎年メゾンのテロワールやビジョンを世界的アーティストと共有し、作品を完成させるプログラム「カルト・ブランシュ」を行っている。
その2023年の「カルト・ブランシュ」に選ばれたのは、パリを拠点に活動するエヴァ・ジョスパン氏。彼女はカードボードと呼ばれる段ボールや厚紙を用い、浮き彫り、ドローイング、刺繍などさまざまな手法で構成されたスカルプチャー作品を発表するアーティストだ。
ジョスパン氏は今回のプロジェクトのために3度にわたってシャンパーニュ地方を訪れ、メゾンのブドウ畑、人々、歴史に触れ、収穫にも参加。そこからインスピレーションを受けた彼女は、パリの工房で6ヵ月以上の時間をかけて作品をつくり上げた。
「RUINART MAISON 1729」開催
その作品群が、先日、原宿の「バンクギャラリー」で展示。この展覧会「RUINART MAISON 1729」のためにパリから訪れたジョスパン氏は「シャンパーニュ地方にあるメゾンのブドウ畑で見つけた、植物が地中深くに根を下ろす様子や、悠久の時を経た土壌が積み重なる様子から、多くのインスピレーションを得て、作品に込めました。細やかな作業の繰り返しがやがて壮大なアートになるさまは、長い年月をかけ、ブドウから比類なきシャンパーニュが創り出される点と共通します」と語った。
彼女の作品に繰り返し登場するテーマに「森」がある。今回の展覧会でもひときわ目をひく、精密でありながら巨大な作品は、彼女が訪れたブドウ畑の地中を彷彿とさせるもの。そこはメゾンのセラー「クレイエル」を形成する白亜(チョーク)の地層だ。
古代の植物プランクトンが堆積して化石化した白亜は、いってしまえば大昔の海に生息した微生物の死骸。その白亜の土壌に根を張って生命力を漲らせるブドウの木々からは、自然のなかの生と死、癒やしとも畏怖ともとれる両義性や生物多様性など、その圧倒的なスケールに想像力を掻き立てられる。
手作業で忍耐強く長い時間をかけて作り上げられたジョスパン氏の作品とシャンパーニュづくりに共通するのは、丁寧な動作と時間の積み重ねの大切さだ。壮大でいて緻密に重ねられたインスタレーションの数々は、時空を超え、見るものをシャンパーニュ地方へと誘うものだった。
この「RUINART MAISON 1729」では、他にもメゾンの歴史やパッケージ「セカンドスキン」をはじめとするサステナビリティなどエココンシャスな取り組みを紹介。また、ルイナールとともにモダンフレンチレストラン「啓蟄」の松本祐季シェフのペアリングフードを楽しめたり、ギフトにぴったりなカスタマイズ商品が購入できたりなど、ルイナールの世界観を知るのに最適な機会となった。
ルイナールにとってアートは欠かせないものだ。創造性と革新性を追求する世界最古のシャンパーニュ・メゾンは、その伝統と歴史、サヴォアフェールを現代アートで表現する。
ルイナールとアートは好相性であり、そのマリアージュは最高に幸せなものなのだ。
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