2023年、ジャパニーズウイスキーは100周年を迎える。その歴史はサントリー創業者・鳥井信治郎氏が、日本で初めての本格国産ウイスキーづくりに向け「山崎蒸溜所」の建設に着手したことに始まる。今や世界的に評価されるジャパニーズウイスキーの原点である山崎蒸溜所。その歴史ある蒸溜所を見学し、貴重な原酒のテイスティングを体験してきた。
ウイスキーづくりに適した名水の地
今やスコッチ、アイリッシュ、カナディアン、アメリカンと並び、「世界5大ウイスキー」に名を連ねるジャパニーズウイスキー。その歴史を語るうえでハズせないのが、日本最古のモルトウイスキー蒸溜所である「山崎蒸溜所」の存在だ。
京都駅から電車と徒歩で約30分、京都府と大阪府の境目に位置する山崎蒸溜所は、サントリー創業者・鳥井信治郎氏の「国産のウイスキーをつくりたい」という強い想いから1923年、建設が着手された。
山崎は、かつて千利休が茶室「妙喜庵待庵」を設けたほど水質が良く、名水100選に選定されている名水の地である。ウイスキーの原料となる水は、最終的なウイスキーの出来映えを左右するといっていいほど重要な役割を担うため、山崎の水は仕込み水に最適。また、桂川、宇治川、木津川という3本の河川が合流する場所であり、その湿潤な環境がウイスキーの熟成に適した土地でもあるのだという。
売れない時代もあったジャパニーズウイスキー
今回参加した取材会では、蒸溜所を見学して回りながら、山崎の立地や歴史、タイプの異なる発酵槽、多種多様な樽、多彩な原酒、テイスティングの方法から、その香りの表現方法に至るまで、ウイスキーにまつわるすべてを体系的に解説してもらった。
まずはウイスキー一筋38年の第20代・藤井敬久工場長のユーモアを交えた自己紹介からスタート。蒸溜所工程見学の前に、サントリーのウイスキーづくりの歴史について学んだ。
山崎蒸溜所の竣工から5年後の1929年、国産第1号となる本格ウイスキー「白札(しろふだ)」が誕生する。5年の歳月をかけて熟成し、満を辞して発売したが、スコッチウイスキー独特の焦げ臭さが当時の日本人には受け入れられなかった。それでも諦めずに日本人の舌に合うウイスキーを模索し続け、試行錯誤のブレンドの末、1937年に現在も人気のロングセラー「角瓶」が誕生。このヒットにより、サントリーは国産ウイスキーメーカーとしての地位を確立していった。
しかし、酒税法改正による値上げや、酎ハイや本格焼酎、ワインなどウイスキー以外の酒の登場によって1983年ごろをピークにウイスキー人気は右肩下がりを続ける。2003年には蒸溜所の名を冠した「山崎12年」が世界的な酒類コンペティションで国産ウイスキー初の金賞を受賞。2008年に「角ハイボール」がヒットしたことを機にウイスキー市場も回復していった。
それ以降、ジャパニーズウイスキーの品質の高さや多様な個性は国内外で高く評価されるようになり、サントリーが手がける「山崎」や「白州」をはじめ、世界的なジャパニーズウイスキーブームの時代が到来した。
ハイボールの大ヒットや、ジャパニーズウイスキーの世界的ブームの裏には、独自のブレンド技術や製造ノウハウを蓄積していき、地道にジャパニーズウイスキーを世界ブランドにまで育て上げてきた、サントリーの堅実な努力があったのだ。
原酒の種類は100種類以上
続いて実際に稼働する蒸溜所内の見学へ。案内してくれたのは、山崎蒸溜所でウイスキーのセミナー講師を担当している尾下治さん。蒸溜所内を回りながら、山崎の立地や歴史、タイプの異なる発酵槽、多種多様な樽などを解説してくれた。
ウイスキーづくりの工程としてはスコットランドやアメリカと大きく違いはないという。しかし、ここ山崎蒸溜所ではあえて温度や衛生管理の難しい木製の発酵槽を使用したり、形の異なるポットスチル(蒸溜釜)やさまざまな材質・大きさの樽を使用することで、ここ山崎蒸溜所では100種類以上のウイスキー原酒をつくり分けている。
このように、さまざまなタイプのウイスキー原酒をひとつの蒸溜所でつくるのは珍しいという。多彩な原酒を使って、優秀なブレンダーによって美味しいウイスキーができる。それがサントリーのウイスキーが世界的に評価されている要因なのだ。
ウイスキーの奥深さにハマる
工場見学のあとは待ちに待ったテイスティングタイム。ここではマスター・オブ・ウイスキーの資格を持つ佐々木太一さんにテイスティング方法や、香りの表現方法などを教えてもらいながら、原酒を試飲した。原酒は一般販売されていない特別なものだ。
通常開催されている「山崎蒸溜所ツアー」では「山崎」の構成原酒だが、今回は特別に「響」の構成原酒、ホワイトオーク樽原酒・スパニッシュオーク樽原酒・ミズナラ樽原酒・スモーキー原酒の4種をテイスティング。
つくり手のこだわりを学んだからこそ、その味わいは格別。まずはそのまま味わい、次に加水してテイスティングしてみる。アルコール度数30度くらいが一番香りの花が開き、そのまま味わうよりも、少し加水をして調整するとより味わい深くなるそうだ。
原酒によって香りや味わいが異なるのは当たり前だが、同じ原酒でも水を加えることで香りが開き、また違った味わいになる。さらに、ビスケットの甘さと表現されるものは穀物の香りや、味や香りの表現方法も教えてもらうことができるので、新たなウイスキーの楽しみ方を発見できた。また、今回のテイスティングをとおして、サントリーが大事にしている原酒の幅広さの重要性を改めて感じることできた。
ちなみに、佐々木さんによると「響」の構成原酒は、「山崎」の構成原酒よりスパイシーな味わいがするそう。
ウイスキーにまつわるすべてを体系的に知ることができ、ウイスキーをより深く味わい楽しめる「山崎蒸溜所ツアー」は一見の価値あり。秋頃のリニューアルオープンへ向けて、蒸溜所の営業は5月以降一時休業とのことだが、リモートで体験できる見学ツアー「ルールのないウイスキーライブ」もあるので、ウイスキー好きはぜひ申し込んでみてはいかがだろうか。ウイスキーの奥深さにハマること間違いなしだ。