1923年に山崎蒸溜所が誕生して以来、長い歴史のなかでさまざまな個性を開花させてきたジャパニーズウイスキー。これまでの長い歴史を辿りながら、これからの100年に思いを馳せてみるのもいいだろう。【特集 情熱の酒】
100年の時を経て、続々と花開く新しい個性
日本初のウイスキー専門蒸溜所が誕生してから約100年、日本のウイスキー市場は、山あり谷あり、起伏の激しいドラマチックな歴史を歩んできた。山崎蒸溜所でサントリーの国産ウイスキー第1号「白札」が誕生したのは、蒸溜所開設から6年後の1929年。当時の“舶来盲信の時代は去れり”という広告コピーは、新しい時代の幕開けを宣言する、鮮烈なメッセージとなった。以来、国産ウイスキーは着々と人々の生活のなかに溶けこんでいき、ついにʼ80年には、サントリーの「オールド」が、1240万ケースという酒類史上空前の大ヒットを記録。しかし、突然訪れたウイスキーブームもʼ85年ごろにはピークを迎え、徐々に終焉へと向かっていった。
その後、長く続いた氷河期にひと筋の光が射したのは、2001年のこと。イギリスのウイスキー専門誌が主催するコンペティションで、ニッカの「シングルカスク余市10年」が世界総合第1位に選ばれたのだ。それ以降、ジャパニーズウイスキーの品質の高さや多様な個性は国内外で高く評価されるようになり、今日まで続く、世界的なジャパニーズウイスキーブームの時代が到来した。
当初はサントリーやニッカといった大手メーカーが牽引していたジャパニーズウイスキーブームだが、小規模かつインディペンデントなベンチャーウイスキーが世界の檜舞台へと躍りでてきたことによって、その状況は一変した。どんなに小規模でも、名前が知られていなくても、よいものをつくればきっと、世界は認めてくれる。誰もがそう確信し、異業種から新たに参入したり、個人で蒸溜所を立ち上げたりと、全国に大小さまざまなクラフトディスティラリーズが林立していった。
今ではスコッチ、アイリッシュ、カナディアン、アメリカンとともに、「世界5大ウイスキー」に名を連ねているジャパニーズウイスキー。次の100年に向けて、今業界全体が、大きな追い風に帆を膨らませている。
1923年:日本に初めてウイスキー専門の蒸溜所が誕生
2008年:秩父蒸溜所が完成! 世界から注目される
2016年:全国にクラフトディスティラリーズが林立
2000年代には全国に十数ヵ所を数えるのみだったウイスキー蒸溜所だが、秩父蒸溜所を皮切りにその数は続々と増え続け、ʼ16年からさらに新興蒸溜所の設立ラッシュとなった。ʼ22年現在は、建設中のものも含めると、北海道から沖縄まで、全国に約50ヵ所まで増えている。
2021年:ジャパニーズウイスキーの表示基準制定
日本洋酒酒造組合は、「ジャパニーズウイスキー」を名乗るうえでの自主基準を制定。それまでは明確な基準が定められてなかったため、日本の酒税法上ウイスキーとは呼べないものや、海外から仕入れた原酒を国内でボトリングし、漢字入りのラベルをつけて、ジャパニーズウイスキーとして海外向けに販売する業者も散見された。
世界的なブームとクラフトディスティラリーズが林立する状況のなかで、今後もジャパニーズウイスキーの価値を守り、その魅力を広く正しく伝えていくためにも、この表示基準の制定はとても意義深いものといえる。
2023年:ジャパニーズウイスキー100周年
既存の大手メーカーはもちろんのこと、2010年代に新設されたクラフトディスティラリーズの多くも、本来ならば、ʼ20年に予定されていた東京オリンピックに合わせて商品化ができるように、大量の原酒を仕込み、貯蔵してきたはずだ。
しかし新型コロナウイルスの影響でインバウンド需要が低迷し続けるなかで、その原酒の数々は、貯蔵庫の中でさらに熟成を深めていることだろう。いよいよ来年に迫った100周年のメモリアルイヤーに、全国各地で花開くであろう新しいジャパニーズウイスキーの数々は、いったいどんな表情を見せてくれるのだろうか。