1923年に山崎蒸溜所が誕生して以来、長い歴史のなかでさまざまな個性を開花させてきたジャパニーズウイスキー。日本全国に蒸溜所を構えるクラフトディスティラリーズを巡りながら、これからの100年に思いを馳せてみるのもいいだろう。【特集 情熱の酒】
嘉之助蒸溜所(鹿児島県日置市)
南国の気候を味方に、個性豊かな原酒を育む
焼酎を樽熟成させた「メローコヅル」を展開してきた小正醸造が、自社で長年培ってきた蒸溜と樽熟成のノウハウを活かして、2017年にウイスキー製造業をスタート。多様な原酒のつくり分けを行いながら、メロー(まろやか)で豊かな味わいのウイスキーを生産している。ポットスチルは初溜釜1基と、それぞれ形状の異なる再溜釜を2基使用。今年に入ってからウォッシュバックを5基から11基に増設し、生産量の拡大を目指している。
さらに、焼酎用の蒸溜施設である日置蒸溜蔵ではグレーンウイスキーの蒸溜も開始しており、将来的にモルトもグレーンも自社で蒸溜、熟成させた原酒を使用した、純国産のブレンデッドウイスキーを生産していく予定だ。ここ数年で各地に新しい蒸溜所が林立し、現在では全国に約50ヵ所の蒸溜所があるが、グレーンウイスキーを自社で蒸溜できる蒸溜所はほんのひと握り。熟成を早く進めるといわれる南国の気候が、今後貯蔵庫に眠るさまざまなタイプの原酒にいかなる個性を与えていくのか、楽しみでならない。
ガイアフロー 静岡蒸溜所(静岡県静岡市)
モルトファンの夢が詰まった奥静岡の美しき蒸溜所
もともと静岡市内で精密部品メーカーを経営していた中村大航氏は、「静岡らしいウイスキーをつくりたい」という大きな夢をかなえるために、2016年からウイスキーの生産を開始。メルシャン軽井沢蒸溜所から移設した設備なども使用している。’20年に初めて「シングルモルト日本ウイスキー 静岡 プロローグK」をリリース。
それに続き、蒸溜器の違いによる味わいの違いに着目した「プロローグW」や「コンタクトS」をリリースし、国内外のファンから高い評価を獲得している。
若鶴酒造 三郎丸蒸溜所(富山県砺波市)
世界初の鋳造製蒸溜器で挑む、唯一無二のウイスキーづくり
1952年からウイスキーづくりを続ける若鶴酒造は、2016年に「三郎丸蒸溜所改修プロジェクト」を立ち上げ、クラウドファンディングを受けて60年以上使い続けてきた建屋をリニューアルした。さらに’19年には、梵鐘造りの名匠である老子製作所との共同開発で、世界初の鋳造製蒸溜器「ZEMON(ゼモン)」を開発。
’23年に稼働予定の飛驒高山蒸溜所でもゼモンが採用される予定だ。若鶴酒造で昔から使われてきたヘビリーピーテッドのモルトのみを用いた、スモーキーなウイスキーづくりが特徴。
本坊酒造 マルス津貫蒸溜所(鹿児島県南さつま市)
信州、津貫、屋久島の3拠点で育まれるそれぞれの個性
本坊酒造は1949年にウイスキー製造免許を取得し、’85年にはマルス信州蒸溜所の稼働を開始したが、需要の低迷にともない’92年に蒸溜を休止。2011年に再開するまでは、貯蔵庫のストックを使って「駒ヶ岳」などを生産してきた。’16年には長野県とは気候がまったく違う鹿児島県にマルス津貫蒸溜所を新設。
同時に同社の焼酎蔵がある屋久島にも「エイジングセラー」を建設し、ふたつの蒸溜所のウイスキーを貯蔵している。気候条件の異なる地に蒸溜所と貯蔵庫を構えることで、表現の幅は格段に広がっていく。