最強のレストランガイド「ゲーテイスト2022」から、中田英寿が全国を旅するなかで見つけた、地方の名店をピックアップ! ※GOETHE2022年7月号掲載記事を再編。
1.情緒ある雰囲気のなかで食べる、岐阜の高級洋食店「洋食 つばき」
最高クラスの銘柄牛を一頭飼いし、肉割烹や焼肉店を展開している雪月花グループの洋食店。古民家の佇まいも美しく、ワインとともに上質の洋食を楽しむことができる。
「岐阜駅からクルマで20分くらいの里山にあって、ナビがないと辿りつけなかったかも。門を入って、小道を進んでいくと夜の闇に古民家が浮かび上がってくる、その美しさに感動しました。
富山の築150年の古民家を移築したそうです。建物も庭も手入れが行き届いていて。情緒ある雰囲気のなかで食べる高級洋食……。味だけでなく、美しい情景も心に刻まれました。
名物のビーフカツの銘柄は仕入れによって違うそうですが、飛騨牛のことが多いと。柔らかくて旨味があって、美味しかったです。お肉だけでなく、火入れや調理法にも料理人さんの腕のよさを感じます。
コースでもアラカルトでも。ステーキ、ハンバーグやメンチカツなど自慢の銘柄牛を使った料理だけでなく、ナポリタンやオムライス、グラタンなどもあって、東京にもこういう高級感のある洋食店があればいいのにと思いました。値段はかなりリーズナブルでしたが、東京だったら、倍くらいの値段になってしまうのかな……」
2.ミシュラン一つ星を3年目で獲得「旬房 さかい」
店主の酒井浩平氏は、大阪の浪速割烹の名店や金沢の名割烹『浜長』で修業し、2013年に独立。3年目でミシュラン一つ星を獲得する実力店だ。
「石川県の銘酒『手取川』の蔵元に紹介されたお店です。金沢もいろいろ行きましたが、ここが一番好きかも。日本酒に関してもとても勉強熱心で、地酒だけでなく季節のお酒も交えて楽しませてくれますよ。
一品一品丁寧ですけど懐石というイメージではなく、もっと直球勝負。北陸ならではのよい素材を生かしながら、出汁や煎り酒などを上手に使っています。雑味がなく、優しいのに味がしっかり感じられる。こういう絶妙のバランスって難しいと思うんです。」
3.鮨職人の美しき所作に心酔。伊勢の名店「こま田」
東京で江戸前を極める鮨店もあれば、地方で土地の利を生かした仕事を追求する店もある。伊勢の「こま田」は全国の鮨好きが目指す店。研ぎ澄まされた技と細部に宿る美意識が食べ手の心を強く惹きつける。
「地方でもよく鮨店にうかがうのですが、木屋正酒造の大西(唯克)さんに教えていただいた伊勢の『こま田』は印象的です。
店主の駒田(権利/けんり)さんはもともと松阪の出身で、地元でお店を開いた後にやっぱり、東京の鮨を見たいと奥様と一緒に上京されて。上野毛時代の『あら輝』で修業されていたと聞きました。
伊勢の駅からクルマで10分もいかないところに河崎というとても雰囲気のいい町があるんです。江戸時代は商人の町として栄えた場所で、古い蔵や切妻妻入(きりづまつまい)りの建物が残っていて、とても趣がある。そこにお店を出されたのが10年前だそうです。
つまみが数品出て、一貫目は鮪です。そのあと、白身にいく流れですね。しゃりに使う米は、産地とか品種よりも寝かせることでいかに粘りを少なく、鮨向きにするかということを考えているとおっしゃられていて。地物の魚も使うけれど、そこに捉われすぎているわけでもなく、すべてにおいて自然体なところがいいなと思いました」