放送作家を中心に活躍する傍ら、NSC(吉本総合芸能学院)の講師として10年以上にわたって人気投票数1位を獲得している桝本壮志さんが、人気芸人・クリエイターと対談する本連載。今回のゲストはNSC大阪校13期で同期だった、次長課長・河本準一さん。駆け出し時代の青春の日々や、多くの大御所から可愛がられる河本さんの社交術、生活保護受給問題や感極まって涙を流した先輩芸人への思いなどを全7回にわたって聞いた。第7回。
多くの人は俳優・河本準一の実力をまだ知らない
河本 マスマン(桝本)って、バラエティーの作家じゃなくても、物語で泣かせるのメッチャ上手。何でかっていうと、人の感情の一番いいところをくすぐるのが得意だから。僕は先日亡くなられた西田(敏行)さんにはかわいがってもらっていたんだけど、『釣りバカ日誌』みたいな映画をやりたいってマスマンにずっと言ってるよね。あと寅さん(『男はつらいよ』)みたいな、メッチャ笑いがあるのに最後に泣ける、泣き笑いの映画。NetflixとかAmazonプライムでも、今勢いのあるU-NEXTでも、そういうのやったら面白いと思うよ。
桝本 僕が河本準一を見てきて思うのは、芝居的なものにめちゃめちゃ才能がある人だということ。
河本 マスマンに俺からお願いしたことはないって言ったけど、これは初めてお願いするかもしれない。人が笑って泣ける脚本を書いてほしい!
桝本 僕じゃなくても、例えばもし若い映像クリエイターで作品をつくっている人がいたら、俺は河本に打診してほしい。準ちゃんの芝居には、心がある。
河本 クリエイター、募集しよう!
桝本 俺はNSCで講師やっていて分かるんだけど、20代の子って俺らと考え方とかぜんぜん違うから、若い子と組むと新しいことができると思う。あと準が副業みたいな感覚じゃなく、俳優業に本気なのを僕は知ってて。この前、2人で一緒に都内で仕事があった時に、僕が「寅さんってここの神社に通っていたんだよ」と言ったら、「じゃあ一緒に行こう!」と準が言って2人でその神社に行った。
河本 小野照崎神社という、渥美清さんが「大好きだったタバコをやめるから主役を1本くれ」と願掛けしたといわれる有名な神社で、そこから寅さんが決まったんだよね。で、その神社に行く途中は雨だったけど、俺らのお参りが終わったら雨が止んだ。その時の写真、今でも大事に持ってるわ。
桝本 青空を背景にした準ちゃんの後ろ姿を、俺が撮った。あの日の準ちゃんの様子を見て、彼にはお笑いと同じくらいの熱量がお芝居に対してあるなと感じたよ。そういう気持ち、あるよね?
河本 もちろん!
西田敏行「僕の秀吉と違ってずいぶん自然体だね」
桝本 準ちゃんと西田敏行さんの関係、もう少し聞かせてほしいな。
河本 サッポロの黒ラベルのビールのCMと連動してつくられた『火天の城』(2009年)という映画で、西田さんが岡部又右衛門という宮大工の役で主演を務めてて、そこで僕の役は豊臣秀吉だった。西田さんは以前に豊臣秀吉を演じているんだけど(1981年の大河ドラマ『おんな太閤記』)、僕の秀吉を見て「河本君の秀吉は、僕の秀吉と違ってずいぶん自然体だね。河本君らしさが出ているし、これが豊臣秀吉に一番似ているかもしれない」って言ってくれた。その言葉は僕にとって宝で。
そのサッポロの黒ラベルのCMを西田さんと寺島進さんと撮った時、西田さんが「ノンアルコールビールだと乗らないねぇ……」と小声でポロッと言ったのを聞いて、僕が監督さんに「サッポロの本当のビールを出してください。絶対に面白いCM撮れますから!」って直訴した。それで本番は本物のビールで2時間飲み倒してベロベロになって、めちゃめちゃ面白いCM撮れて。スタッフも含めてみんな喜んで、飲んで帰った。で、その後に僕が『フライデー』撮られた(笑)。キリンのビールを持って女の子とチューしたとこ。それでサッポロ激怒。
桝本 芸人やな(笑)。
河本 俺も思った。「何で俺、キリン持ってたんや!」って。まあでも、それも全部、僕らしいなと思ってる。
平泉成も「映画の世界にすぐ飛び込んできなさい」と進言
河本 『一人二役』って本には書いているけど、僕は本当に悲しい環境で育ったので、何とかして自分が先頭に立って笑っていないと生きていけなかった。毎日家族が泣いていて、だからみんなを笑わすことが自分の生きるすべだった。それで、お笑いの世界に入った。
でも、『釣りバカ日誌』みたいに、めっちゃ笑えるのに最後に何だか泣ける芝居をやることが、自分の人生がいちばん出せる場面なのかもと思ったりもしてる。そもそも僕、芝居がめっちゃ好き。他の同期はほぼ全員サボってたけど、NSCでも芝居の授業を1年間ずっと受けてたから。
桝本 俺は行ってないなぁ。
河本 15万も払わなあかんのに、もったいない! マスマンは発声練習すら来たことなかったけど、野爆のくっきー!もロッシーと一緒にずっと出ていて、僕はそれで主役取った。
桝本 準ちゃんもすごいけど、野爆の2人はあんな感じで実はまじめ。
河本 だから面白い。僕はその後で吉本興業がつくった「G.V.」という演劇ユニットにも参加して、元ハリガネロックや中川家、2丁拳銃、野爆とか一緒に出演してた。そこでは演出家に、「お前、絶対に芝居やれ」って言われて。あと日テレの『くりぃむしちゅーのたりらリラ〜ン』(2005~6年)で共演した平泉成さんにも「河本君、君のお笑いは十分に分かったから、映画の世界にすぐ飛び込んできてお芝居やりなさい」と言われて、とても嬉しかった。
桝本 準ちゃんは『14才の母』(2006年のテレビドラマ)からいっぱいドラマ経験あるし、錚々たる俳優の方々にも評価されてきた人だから、そこにも道があるんじゃないかと思ってる。
河本 「こいつ見てたら泣けるなあ」「明日また俺も生きれるわ」とか思われる「ほっこり泣き笑い」をできる俳優を目指したい。本当に勝手な話だけど、西田さんの遺志を継げたらなと思ってるし。今年で僕は50歳なんで、70歳までの20年間で20作品くらい出られたら嬉しいな。