もう買う時計がない。そう感じても嘆く必要はない。懐中時計や置時計という新しい時計の世界があなたを待っているのだから。今回は懐中時計を紹介する。【特集 人生を豊かにするLUXURY WATCH】

懐中時計という次なる愉しみ
時計の歴史を紐解けば、時計の進化とは小型化の歴史といえる。教会の塔時計として開発された機械式時計が、携帯できるサイズになったのが15世紀後期。さらに小型化が進行し、懐中時計を経て20世紀初期に腕時計へとたどり着く。
もちろん現在は腕時計の全盛期だが、それでも表現力や機能性などに関しては、ケースが大きな懐中時計が有利であることは間違いない。そのため多くの時計ブランドでは、今でも懐中時計をクリエイティヴィティの最後の砦と考え、表現豊かな懐中時計をつくり続けており、一部の時計愛好家から熱狂的に支持されている。
大型ケースだからこそ可能な表現がある
大型ケースというサイズのメリットを生かして、超複雑機構を組みこんだのがオーデマ ピゲ。ブランド初となるユニバーサルカレンダーを搭載した美しき天文時計「“150周年ヘリテージ”懐中時計」は、複雑な機構だけでなくグラン・フーエナメルやハンドエングレービングの装飾など、美的表現でもハイレベルな表現を取り入れた。
ピアジェはオーナメンタルストーンをくり抜き、時計を収めた「スウィンギング ぺブル」を発表。これはもはや身につけられる芸術作品である。
エルメス「スリム ドゥ エルメス ポケット ROAAAAAR!」は、ヘリンボーンパターンのグラン・フーエナメル製ダイヤルを持つシンプルな2針時計を覆う開閉式の蓋には、咆哮(ほうこう)する獅子の姿が。これはイギリス人アーティストのアリス・シャーリーが、元はシルクスカーフのために描いたもの。さまざまな色彩の木材の小片を組み合わせるウッドマルケトリ技法で、ダイナミックな獅子の姿を描いている。
腕時計という小さな世界で繰り広げられる精密なものづくりも素晴らしいが、どうしてもサイズという制限がつきまとうもの。だからこそ、クリエイションの制限を設けないために、敢えて懐中時計を選ぶという考え方も、時計愛好家であれば納得できるだろう。かつてはクラシカルな象徴だった懐中時計だが、今では時計ブランドの創造性を楽しむジャンルとなっているのだ。
1.オーデマ ピゲ|“150周年ヘリテージ”懐中時計
時計側には、グランドソヌリやパーペチュアルカレンダー、フライングトゥールビヨンなど22の複雑機構を。ケースバック側には、太陽暦や太陰暦の祝祭日、イースターなどを示す8つの複雑機構を搭載する。世界限定2本。
2.ピアジェ|スウィンギング ぺブル
美しいオーナメンタルストーンに宝飾技術、そして時計技術を駆使したソートワールウォッチ。石をくりぬき、薄型のクオーツウォッチを収める。

3.エルメス|スリム ドゥ エルメス ポケット ROAAAAAR!
メティエ・ダール技法のひとつであるウッドマルケトリで、開閉式の蓋にライオンを描いた懐中時計。この蓋を開けると時計が現れるというアートピースのような作品だ。ちなみに“ロアー”とは、ライオンの咆哮の擬音とのこと。世界限定3本。

この記事はGOETHE 2026年8月号「総力特集:人生を豊かにするLUXURY WATCH」に掲載。▶︎▶︎ 購入はこちら



