多くのエグゼクティブが愛用するヴァシュロン・コンスタンタンのタイムピースのなかでも、「パトリモニー」は特に人気が高い。シンプルなデザインに秘められた普遍性の真価に迫る。
さらに洗練されたミニマリズムは時代を超越する
「パトリモニー」は、2004年の発表から2024年で20周年を迎えた。1755年創業のヴァシュロン・コンスタンタンにおいてその歴史はまだ浅いが、風格漂う存在感を放ち、メゾンを代表するコレクションである。高く支持される理由のひとつは、1957年に発表されたドレスウォッチを原点とした、王道のラウンドスタイルだ。
1950年代、戦後復興とともに技術は進化し、社会も大きな変化を遂げた。時計も例に違わず自動巻きなどの新機構に加え、デザインにも新たな息吹が注がれた。なかでもモダニズムを代表するバウハウスは、伝統様式と人間工学を組み合わせ、機能美を追求。タイムピースのデザインにも大きな影響を与えた。「パトリモニー」に宿るのもそうしたモダニズムのDNAである。
ベーシックなラウンドケースはベゼル幅を抑え、文字盤には楔(くさび)形がアクセントの4つの細長いインデックスに、パール状のミニッツトラックが配されている。バトン型針がドーム状の文字盤に沿って緩やかにカーブする、エレガントなスタイルが特徴だ。
控えめで、装飾性をそぎ落としたミニマリズムには洗練された美意識が漂う。デザインはシンプルであればあるほど難しく、実力が試されるといわれる。それはまさに歴史ある名門の本領発揮だ。
20周年を祝し、アンティークシルバーの文字盤やこれまでにないストラップカラー、39㎜径のケースを加えた。1950年代に人気のあった温かみを感じさせる文字盤に、アジュールブルーやオリーブグリーンのエレガントなカラーを組み合わせることで、モダニティを演出する。
「パトリモニー」の名は「遺産」の意味を持つ。それを受け入れ、現代の感性を吹きこみ、ひねりを入れる。そんな自在な発想と品格が多くのエグゼクティブを虜にするのである。
威厳に満ちた格式高いディテール
創業から変わらない“挑戦のDNA”
ヴァシュロン・コンスタンタンが手がける超絶技巧のタイムピースのなかには、表には出ない作品も少なくない。それでも挑戦を続ける理由について、開発ディレクターに聞いた。
ヴァシュロン・コンスタンタンには、市販される通常の時計製造からは独立した専門部署がある。それは17世紀、卓越した技術を持った時計師たちが作業に勤しんだ屋根裏の工房にちなみ、「レ・キャビノティエ」と呼ばれる。ここでは主に特別な顧客からの依頼に応えて、1点もののタイムピースを製造しているが、ほとんど一般に公開されることはない。
だが2024年、「レ・キャビノティエ」が製作したユニークピースが発表された。初の中国暦パーペチュアルカレンダーを含む、63の複雑機能を搭載した懐中時計だ。研究開発から完成まで11年を要したという。
プロダクトマーケティング・アンド・イノベーションディレクターを務めるサンドリン・ドンガイ氏は、「レ・キャビノティエ」についてこう説明する。
「部署には50人のスタッフが所属し、4人の時計師とふたりのデザイナーを筆頭に管理スタッフ、PRやマーケティングスタッフもいます。彼らはそれぞれチームを組み、完成まで独自のスケジュールで作業を進めます。公表するものもあれば、ひとりの顧客のために世界にひとつの時計をつくることもあります」
手がける時計には、メティエ・ダールと呼ばれる手作業による伝統的な装飾技法が施され、機構やムーブメントをゼロから開発することもあり、長期にわたって時計師が専任で関わることも多いという。
「試行錯誤を続け、挫折もたくさんあります。それでも信じて忍耐強く続けること。大切なのは、到達するまでの過程であり、結果でもあり、どちらも必要。それをどう活かすかですね。でも、その探求は時計師にとってとても楽しいと思いますよ。彼らはチャレンジャーですからね」
こうして実現した独創的な技術や機構は、市販モデルにもフィードバックされ、メゾンにとって大きな財産になっている。
さらに時計師の技術習得や、有形無形のノウハウを次世代につなげるという点も見逃せない。超複雑機構への挑戦を通して、時計の可能性をさらに広げ、その感動を伝えていくことは、来年創業270周年を迎える、現存する最古のマニュファクチュールの責務でもあるのだ。
問い合わせ
ヴァシュロン・コンスタンタン TEL:0120-63-1755