2018年にLVMHグループの時計部門の社長を退任したジャン-クロード・ビバー氏だが、今新たな挑戦をスタートさせた理由をこう話す。
自身のブランド「BIVER」を本格始動!
「情熱的な人間にとって、情熱を失うことは“死”を意味します。私は業界の第一線を退いても、時計への情熱がなくなることはありませんでした。ただ、これまでのキャリアと同じことをしても面白くない。そこで自分の名を冠した時計ブランドを立ち上げることにしたのです」
しかも、家族経営のとても小さな時計ブランドだ。
「培ってきた知識をすべて、私の子供たちに与えたい。そして今まで実現できなかったコンセプトをカタチにしたいと思いました。それは“目に見えない所まで完璧な時計”。人間とはみんな不完全であり、完璧を目指すのは神の領域に近づくということでもあります」
現在は高級時計市場が活況で、マイクロメゾンと呼ばれる小規模ブランドの人気も高い。しかし、それは追い風にはならないとビバー氏は身を引き締める。
「むしろ現在の高級時計を取り巻く状況は、難しいと思っています。なぜなら大手ブランドが需要に対応できずに納品が滞っているため、マイクロメゾンに注目が集まっているにすぎないからです。大手ブランドの時計が市場に流れるようになれば、マイクロメゾンの売り上げは低下するでしょう。だから私はとても慎重に戦略を練っています」
その戦略のひとつが、自身の名「BIVER」をブランド名としたことだ。ビバー氏は常々、ブランドの理想的な姿とはクリエイターとブランドが一体化することだと考えていた。
「私とブランドは完全に統合されていて、ファミリーのビジョンが明確に表れている。それこそが最も重要なことなのです」
もうひとつの戦略が、どこで時計を扱うか。ビバー氏が手を組んだのが、アジアを中心に10の都市で展開する高級時計専門店、アワーグラスだ。
「アワーグラスは優れた審美眼を持つ時計愛好家が多いシンガポールや日本などにも、素晴らしいネットワークを持っている。強力なパートナーです」
事実、少量生産で美しく、メカニズムの魅力も深い“完璧な時計”は、豊富な経験と高い格がある時計店でなければ、その魅力を正しく伝えることはできない。そしてアワーグラスこそが、時計業界の大物がキャリアの最後に手がける時計と向き合う最良の場所となるのだ。