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2026.03.23

「日本は積み重ね型、ヨーロッパはビジョンありきの逆算式」マリノスの再建、マンCが強豪クラブに変貌した理由③

2014年から2023年末まで、シティ・フットボール・グループ日本法人代表として、横浜F・マリノスの経営に携わった利重孝夫氏。サポーターやメディアからのバッシングも受けた激動の10年間について語ってもらう。第3回。

「日本は積み重ね型、ヨーロッパはビジョンありきの逆算式」マリノスの再建、マンCが強豪クラブに変貌した理由③

2016年はバッシングの嵐だった

2014年5月、横浜F・マリノスは、シティ・フットボール・グループ(以降CFG)と資本提携を伴うパートナーシップを締結したことを発表した。CFGは同クラブの少数株主となり、チームづくりだけでなく、経営のノウハウ提供にまで携わるというニュースは、日本サッカー界にある種の衝撃を与えた。

それまでも、Jリーグのチームが海外クラブと提携するケースはあったが、資本が入るのは初めだ。ポジティブな反応もあったものの、「マリノスはどうなってしまうのか」という不安の声も少なくはなかった。欧州サッカーは、ビッグマネーが動くがゆえに、不振が続けば監督を即日解任するなど、ビジネスライクな印象がある。そうした側面への注目が勝っていたのだろう。

「(マリノスの親会社である)日産とCFGの資本提携が成立した時、まずはコンサルタント的な立場で、両者の間に入ることになりました。良く言えば橋渡し、悪く言えば、板挟みみたいなポジションですね。それまでのクラブ経営のやり方を変えていくのが役割ですから、板挟みになるのは当然です。辛抱強く、時に大胆に板挟み役を演じながら、気が付けば橋渡し役を果たしていたとなれば理想的、と思いながら仕事していました」

とはいえ、マリノスのJ1年間順位は、2014年と2015年シーズンは7位、2016年は10位、2017年5位、2018年12位と低迷。とくに2016年シーズンは、それまでクラブに多大な貢献をしてきたスター選手たちに対する条件提示の仕方や他クラブへの移籍などを巡り、CFGはサポーターやメディアから激しく非難されることになる。

利重孝夫
利重孝夫/Takao Toshishige
1965年東京都生まれ。東京大学卒業後、日本興業銀行などを経て、2000年に楽天入社。東京ヴェルディメインスポンサー、ヴィッセル神戸経営権取得、FCバルセロナとの提携案件を主導する。2014年から10年に渡り、シティ・フットボール・グループ日本法人代表を務め、2016年には横浜F・マリノスで取締役とチーム統括部長を兼任。2024年、出島フットボールを設立。サッカーメディアfootballistaを発行するソル・メディア代表取締役、東京大学ア式蹴球部総監督、FC今治エグゼクティブアドバイザーなども務める。

ビジョンありきで逆算するのがヨーロッパ式

本来はコンサルティングという立場で、チーム編成に関わることがなかった利重氏だが、2016年7月から翌年2月までは、改革推進のためにチーム統括本部長を務めていた。その最中に起こったバッシングに心労はいかばかりだったかと思うが、「日本は、チームではなく選手のファンという人も多いので、移籍に関して敏感になるのはよくわかります。それに、大変と言えば大変でしたが、2019年と22年の優勝で大いに報われました」と、笑顔を浮かべる。

「サッカーに限りませんが、毎日1%ずつでも細かく改善を積み重ねて成果を上げる、結果を出していくのが日本式。一方、ヨーロッパはまずビジョンありきで、そこから逆算しておおざっぱな経営計画を立て、組織を改革し、大胆に実行していきます。(CFGを率いる)フェラン・ソリアーノのビジネスは、まさにそのスタイルでした。

マンチェスター・シティも、以前はマンチェスターにある“ユナイテッドではないもう一つのクラブ”に過ぎなかった。それが、ペップ・グアルディオラを監督に招いてからプレミアリーグを6度制するなど、今や押しも押されもせぬ強豪クラブになりました。フェランにとっては、当初から思い描いていた絵であったはずで、ペップを呼ぶことも初めから構想にあり、そのための環境を整えることから始めたのではないかと」

CFGが先駆けとなった、マルチオーナーシップ(複数のチームをひとつの母体が保有、運営する方式)も同様だ。

「フェランはこの構想を20年も前から口にしていましたが、当時は多くの人から『そんなの実現するわけがない』と、冷めた目で見られていました。しかし、今ではその数が爆発的に増えており、世界中で100以上のオーナーグループ、400以上のクラブが存在すると言われています。

CFGにいた10年間で、マンCがジャイアントクラブになった奇跡を当事者の一人として見られたことも含め、“絵空事と思われたことを現実のものとする”経験を積めたことは、僕にとって大きかったですね」

※4回目に続く

TEXT=村上早苗

PHOTOGRAPH=鈴木規仁

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