PERSON

2026.03.19

指導者・2児の父、長谷部誠「『時間がない』という言葉や考え方が好きじゃない」

2024年5月、22年に及んだ現役生活を退き、指導者の道を歩み始めた長谷部誠。「現役生活とは違う疲労に直面している」という今、どう心と身体を整えているのか。常にベストパフォーマンスを発揮するための秘訣を紐解く。インタビュアーは、159万部とベストセラーとなった著書『心を整える。』の編集を担当した二本柳陵介が務めた。

長谷部誠氏

選手と指導者とでは、疲れの種類が違う

16年もの間ドイツ1部リーグで活躍し、長きに渡って日本代表キャプテンとしても存在感を示した長谷部誠が、2023-2024シーズンをもって現役を引退した。引退後に選んだのは、指導者の道。2024-2025シーズンからは自らが所属していたアイントラハト・フランクフルトU-21(以降フランクフルトU-21)のアシスタントコーチを務めつつ、UEFA指導者ライセンスA級及びProライセンス取得を目指すなど、新しいキャリアの構築に挑んでいる。

長谷部が、40歳という節目の年まで第一線で戦い続けられたのは、常にベストパフォーマンスが狙えるよう、心身のコンディショニングを整えてきたことが一因だ。それは、指導者になった今も変わらない。

「現役時代も今も、コンディショニングの3本柱は、睡眠・食事・トレーニングです。ただ、現役の時は、トレーニングによる身体的な疲労が大きかったんですが、指導者になってからは、それとは違う疲労、特に頭の疲れを感じています。

また、選手としては、これをすればいいという疲労回復策というかルーティーンがありましたが、今は変化が多い日常を送っているので、なかなかそうはいきません。スケジュールが日々違うこともありますし、移動も多いので、『ここでしっかり休んでおこう』と、調整しながら心身のメンテナンスをするようになりました」

指導者転身後は早朝から夜遅くまで、トレーニングの指導をはじめ、練習メニューの確認、トレーニング映像のチェック、対戦チームの分析など、さまざまなタスクに追われている。現役時代はアップや練習後のケアを含め、サッカーに携わる時間は5時間程度だったというから、指導者になってからの方がタイトな日々を送っているのは間違いない。加えて、2016年に結婚し、一男一女の父という顔も持つ。自宅で過ごす時間を含め、自身のメンテナンスに当てる時間を確保するのが難しい気がするが、「僕は、『時間がない』という言葉や考え方が、好きじゃないんです」という。

「時間というのはつくるもの。たとえ環境が変わっても、それに適応し、周りに理解してもらった上で、自分で確保するものだというのが、僕の考え。そして、確保した時間を何に使うか、取捨選択が大事だと思っています。もっとも、子どもたちは、僕が家にいる時間が少ないこともあって、不満に思っているかもしれませんが。いつか理解してくれる日がくるだろうと願っています」

毎日必ず“ひとりでじっくり考える時間”を持つ

長谷部が指摘する通り、1日24時間という誰にも平等に与えられている時間は、何にどう使うかによって、自分に返ってくる成果が大きく変わってくる。指導者となってからは、練習中に身体を動かす機会がめっきり減ったが、「週4、5回、1回10km目安に走っています」と、長谷部。

「歩くことも好きで、出張先でもホテルからスタジアムまでとか、5km以内の距離ならタクシーや電車を使わず、歩きます。歩くのは、身体にもいいし、クルマに乗っていたら気づかないものに気づけたり、見えたりするのも楽しいんですよ。つい最近も、タクシーが拾えなくて、(イタリアの)ボローニャのスタジアムから空港近くのホテルまで8kmくらい、グーグルマップを見ながら帰りました。夜で真っ暗だったので、さすがに歩くわけにいかず、走りましたが(笑)」

意識して身体を動かすことと同時に、長谷部が必ず確保しているのが、“心を鎮め、じっくりと考える時間”だ。

「走っている時も、じっくり考える時間にはなっていますが、それとは別に、毎日寝る前に、心を鎮め、頭の中を整理する時間をとっています。5分の時もあれば10分の時もありますし、ぐるぐると考えてしまって30分とか60分に及ぶこともありますが(苦笑)。頭をクリアにし、考えることに集中しなければ、相手への対策や新しい戦術など新しいアイデアは出てこないと思うんですよね」

自著『心を整える。』では、2010年ワールドカップ中、限られたプライベートな時間を、選手のリフレッシュのために用意された卓球やゲームなどに興じるのではなく、自室のベッドに横たわり、心を鎮めることに費やしたと綴られている。そして、この作業によって、「どんなに葛藤を抱えていても、翌朝には平常心で部屋を出ることができた」とも。

「サッカーに限らずビジネスの世界も、日々時間に追われていると思います。だからこそ、1日の終わりにきちんとリカバリーすることが大事なのではないでしょうか」

後編(3月20日公開)では、新たに加わった身体を整える術について語ってもらう。

長谷部誠/Makoto Hasebe
1984年静岡県生まれ。2002年浦和レッズに入団。2008年ドイツ1部リーグのヴォルフスブルクに移籍し、2013年はニュルンベルク、2014年から2024年までアイントラハト・フランクフルトでプレー。日本代表として、ワールドカップに3度出場し、キャプテンも務めた。現役引退後は、ドイツを拠点に指導者の道を歩んでいる。2011年刊行の著書『心を整える。』は159万部のベストセラーに。

TEXT=村上早苗

PHOTOGRAPH=長山一樹

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