いよいよ始まったWBC2026。連覇を目指し、井端ジャパンはまず東京ラウンドを戦う。今大会は、「過去最強のアメリカ代表」と言われるなど、各国が超一流の選手を招集している。前回大会で指揮官を務めた栗山英樹にWBCのこと、そして2026年4月17日(金)より発売予定のユニクロとのチャリティTシャツプロジェクトについて話を聞いた。インタビュー後編。【前編はコチラ】

エース・伊藤大海、種市篤暉、北山亘基が勝敗を左右する
日本中が期待する連覇への鍵はどこにあるのか。侍ジャパン前監督の栗山英樹は「ピッチャーの交代」を上げる。
「WBCは球数制限があります。加えて選手を預かっている立場として、所属する球団に対して(シーズンに向けて)ある程度、投げさせてあげないと、という思いもよぎるんですね。このあたりは、一度経験しないとなかなかわからないところもあるので、本当に難しいと思います。
前回大会で言えば、宇田川(優希)と伊藤大海、二人がイニングの途中からでも投げる準備をしてくれて、結果も残してくれました。今回で言えば、伊藤大海に加えて種市(篤暉)、北山(亘基)といった右ピッチャーをどう使っていくかが鍵……というより優勝の絶対条件だろうな、という感じはしています」
宇田川、伊藤は前回大会で大谷翔平やダルビッシュ有ほど注目を集めたわけではなかったが、チームに大きな安心感をもたらしていた。それは影のMVPといっていいほどだ。
采配を振るう監督目線で考えたとき、今大会も同じような想定が必要になる。そして栗山が名前を挙げた三人の投手がその役割を期待されるが、……特に伊藤大海においては、昨シーズン(2025年)、沢村賞を獲得するほど絶対的な存在にまで上り詰めた。
果たしてそれほどの投手を「第二先発」あるいは「中継ぎ」として起用するのはもったいなくないだろうか。あるいは、伊藤の思いを勝手に想像すると悔しさはないか――?
そう尋ねると栗山は断言した。
「確かに前回大会とは全然、立場が違いますよね。日本のエースになっているわけですから。でも大海なら、大丈夫です。彼は性格的にも、ちゃんと話せば大丈夫だと思います」
世界一の裏にあった先発・佐々木朗希、第二先発・山本由伸という投手起用の意図
野球の面白さは、いろんな所に潜んでいる。
この質問をしたのは、世界一となった前回大会に、投手起用そしてマネジメントにおける栗山と吉井(理人)投手コーチの妙があったことが、背景にある。
メキシコ代表と戦った準決勝。あと一つ勝てば、栗山が最大のライバルと目し、絶対に勝たなければいけないと考えていたアメリカと決勝を戦える――そんな試合は不振を極めた村上宗隆の逆転サヨナラ打もあって多くの野球ファンの記憶に残っているだろう。
しかしこの試合のポイントはもう一つ前にもあった。それが先発ピッチャー・佐々木朗希、第二先発・山本由伸という投手起用だ。
当時、オリックスにいた山本は2021年、2022年と2年続で投手タイトルを総なめし沢村賞を受賞する(ちなみにこの2023年も沢村賞に輝いている)、日本球界ナンバーワン投手だった。
その山本を先発ではなく第二先発に回し、21歳で1軍登板デビューを果たしてから2年しか経っていない佐々木を先発させた。
正直驚いた。もちろん佐々木のポテンシャルは誰もが知るところである。けれど、ふつうに考えれば山本由伸が正攻法だったはず。そして頭をよぎったのが、「山本は納得していたのか?」ということだった。
日の丸のユニフォームを着て、国を背負う最高の舞台。そこに個人のエゴは排されるべきだし、その程度のことを気にするはずがない。正論だ。あくまで筆者の推測であって山本自身はモチベーションを持ってマウンドに上がったはずである。
ただ、それでも大エースを先発に据えないという起用は細心の注意が必要だったはずなのだ。
「あのときは(山本)由伸にもちゃんと説明しました。日本のエースを中継ぎで使うわけですから。それこそ対話なんですよ。(第一回参照)」

山本投手が「ムッと」する可能性だってあったはずではないですか? そう向けると栗山は言った。
「その意味で難しいなあと思ったのが、(メキシコ戦の前)準々決勝のイタリア戦のことです。先発をした(大谷)翔平が5回に2点取られて、4対2になった。一本打たれたら逆転になる、というところで翔平から大海にピッチャーを代えたんですけど、あそこは大海しかいなかったんです。
最初から、勝つカタチとして第二先発を用意しておくんですけど、それはイニングの頭から投げるピッチャーです。だから、もう一つのカタチとして、先発が打たれたら、ランナーがいる状態で投げてもらうピッチャーを用意しておく必要がありました。
これは、ある意味、一番信頼できるピッチャーじゃなきゃいけなかったんです。これは大海しかいない、と。それはヨシ(吉井理人ピッチングコーチ)とも認識が共通していた。だから大海には、いつでもいけるように初回からブルペンで準備をお願いしていたんですね」
伊藤は見事、期待に応え大谷のあとをしっかりと抑えきり、今永昇太、ダルビッシュ有、大勢と続いた「回の頭」から投げるピッチャーの継投を演出した。
「そしたら、大海が『ブルペンにいるってことは、僕は信頼されていないんですかね?』って言っていた、というのをあとから聞いたんです。いやいや、それは全く逆! 一番信頼しているから、大海しかいないからそこにいるんだよ、っていう。
そこでもう一回、きちんと話をしてもらったんですけど、対話をしないとこういうことが起こりえる。だから対話が大事なんです」
野球は生き物。だから対話がないと間違いが起こる
「対話がないまま、『分かりました』って言わせちゃうと、間違いが起こります。そういうものなんですよ、野球って。生き物なので」
日本中が熱狂した裏側には、たくさんのデータやマネジメントの経験知や理論があるはずだ。けれど実は「対話」に象徴される、面と向かって思いを伝え合うことが、肝になっていたことも忘れてはいけないだろう。
「僕はそこが肝かな、とは思います。バッター陣は、正直打率が1割でも全然OKです、ムネ(村上宗隆)みたいにここぞの場面で一発打ってくれればそれで十分。トータルの数字は気にする必要がないと思います。
これだけのメンバーがいるから、勝負できます。大丈夫だと思いますよ」
前編後編を通して見えてくるのは「対話」「直接話す」といった、昔からある「人と人とのカタチ」の重要性である。
最後に栗山は言った。
「なんか、自分の書いた本は『買ってください!』ってなかなか言えないですけど、このTシャツなら『あなたも貢献したことになれる、だから買ってください!』って言えるからいいですよね」
ジョークを交えた本音だ――そんなことも直接話しているからこそよく分かるのだった。
栗山英樹のユニクロ チャリティTシャツ登場!
栗山英樹が、ユニクロによるチャリティTシャツプロジェクト「PEACE FOR ALL」に参加。「便利な時代だからこそ直接会って話すことで、人がつながり幸せや平和に向かう第一歩となる」というメッセージを込めて、キャッチボールのイラストを裏表両面に描いた。2026年4月17日(金)より発売予定。
栗山英樹/Hideki Kuriyama
1961年東京都生まれ。東京学芸大学からヤクルトスワローズに入団。現役引退後はスポーツキャスター、大学教授などのキャリアを経て、北海道日本ハムファイターズの監督に就任。1年目の2012年にリーグ優勝、2016年にはチームを10年ぶりの日本一に導く。2023年、野球日本代表「侍ジャパン」の監督としてWBC(ワールドベースボールクラシック)世界一に。2024年、日本ハム球団の最高責任者であるCBO(チーフ・ベースボール・オフィサー)に就く。



