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2026.01.22

「強い鹿児島を取り戻す」サッカー神村学園初優勝の裏側。進化した指導論と恩師・松澤先生の遺志

2025年度の全国高校サッカー選手権は、神村学園(鹿児島)の初優勝で幕を閉じた。指揮を執った有村圭一郎監督は、鹿児島実業高校OBで、1995年度大会の優勝メンバー。恩師であり、2017年に76歳で他界した松澤隆司氏の遺志を継ぎ、「強い鹿児島を取り戻す」を目標に掲げて歩んできた。その挑戦は、全国3,735校の頂点に立つという最高の形で結実した。

【全国高校サッカー】神村学園を初優勝に導いた有村圭一郎監督「強い鹿児島を取り戻す」恩師の遺志と進化する指導論

「子どもが躍動してこそ勝利がある」有村流サッカー哲学

愛する郷土に、21年ぶりに優勝旗をもたらした。

鹿児島勢としては、2004年度大会の鹿児島実以来となる全国制覇。国立競技場で歓喜の瞬間を迎えた神村学園の有村監督は、空を見上げた。

「松澤先生が来てくれているかな」

1995年、2004年と鹿児島実を全国制覇に導いた名将・松澤隆司氏。その存在は、今も有村監督の指導の根幹にある。

有村監督は、2014年に神村学園中等部から高等部の監督に就任。技術を重んじ、選手の個性を尊重してきた。

「一番大事なのは子供たちが躍動すること。子供が輝いた先に勝利がある」

それは、堅守速攻を軸に鹿児島実を全国屈指の強豪へと押し上げた恩師・松澤氏とは、異なるアプローチだった。

“うまさ”の限界と向き合い、フィジカル改革へ

2017年8月に松澤氏が死去。1990~2000年代に上位進出が当たり前だった鹿児島県勢の勢いが衰え、全国で苦戦が続いた時期と重なった。

有村監督は「松沢先生が亡くなった時に、これはもう危機的な状況だなと思った。誰かが引き継がないといけないという思いに駆られた」と回想する。恩師との別れは「強い鹿児島を取り戻す」との思いを強くした瞬間でもあった。

恩師の亡くなった2017年度の冬、就任後初めて選手権の全国大会に進出したが、3回戦で敗退。翌2018年度の選手権も初戦で敗れると“うまさ”だけに限界を感じてフィジカル面の改革に着手した。

科学的走力強化が生んだ、「即時奪回」で完成した鹿児島らしさのハイブリッド

2019年から有村監督の小中高の1学年先輩で、群馬などJクラブの指導経験を持つ東輝明フィジカルコーチを招聘。「時速22.5km以上で多く走らせる」という科学的アプローチで走力強化を進めた。

週1回、多い時は40mのダッシュを100本こなす。走り負けはなくなった。

積み上げてきた「うまさ」に「タフさ」が加わり、2022年度には福田師王(カールスルーエ)らを擁して4強入り。強豪の礎を築いたメソッドは徹底した体力強化で黄金期を築いた鹿児島実と重なる部分もあった。

2025年度大会は「即時奪回」を掲げ、ボールを失ってから5秒はダッシュで帰陣する約束事を徹底。Jリーグ内定選手3人を擁するタレント軍団は、5試合で18得点2失点と圧倒的な強さで頂点に駆け上がった。

有村監督は「攻守の切り替え、タフさ、球際とか、より鹿児島らしく、そのなかでサッカーの上手な子が躍動する。ハイブリッドだと思っています」と強調した。

松澤イズムは今も──理不尽を“想定外”に変える指導

指導歴を重ねるほど、松澤氏の偉大さを実感する。選手を観察して、ささいな変化を見逃さない姿勢、言葉をかけるタイミングなど手本にする部分は多い。

大切にしている言葉「日常生活に勝負の秘訣あり」も恩師から教えられたものだ。

「その都度その都度言うと子供は反発する。よく観察しているからこそ松澤先生は言うタイミングが絶妙だった。今思えば、手の上で転がされていたのだということがよく分かります」

松澤氏は極寒の1月に選手に滝行を課し、超過酷な走り込みを実施するなど“理不尽”とも思われかねないトレーニングもあったが、情熱を持って接してもらったOBは感謝の声を口にすることが多い。

有村監督もそのひとり。自身が鍛えられた昭和の指導法は現在に当てはめられないが、「理不尽」を「想定外」に変換し選手を育ててきた。

総体決勝翌日に練習試合を3試合組んだり、今回の選手権で応援に回ったBチームの選手を各実家から神奈川県内のホテルに現地集合させたのもその一環。非日常で生徒に考えさせる手法には“松澤イズム”が流れている。

全国総体に続く夏冬連覇は、史上6校目の快挙。選手、監督での日本一は2011~19年に市船橋(千葉)を率いた朝岡隆蔵氏以来となった。

「たいした監督でもないのに、2回も優勝させてくれて、素晴らしい子供たちだと思っています。未来のある小さい子たちが夢を持ってサッカーを続けてくれることができれば、(強い鹿児島を取り戻すという願いは)少しはかなったのかなっていう風に思います」

有村圭一郎/Keiichirou Arimura
1977年6月19日、鹿児島生まれ。鹿児島実高時代は右サイドバックとして1995年度の全国選手権優勝を経験。福岡教育大学卒業後、神村学園に赴任。高等部女子コーチ、中等部男子監督を経て、2014年より高等部男子監督に就任。保健体育教諭。趣味は料理。

TEXT=木本新也

PHOTOGRAPH=西村尚己/アフロスポーツ

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