PERSON

2025.06.13

「検索するな、観察しろ」連続起業家・福田淳が新入社員に伝えたい、“師匠”に学ぶビジネスの極意

まだまだ謎に包まれた男、福田淳(あつし)。なぜだかいつも周りの人間から頼られ、案件を持ち込まれ、奔走する。そして常に国内外を飛び回り、一日一日を本気で楽しむ。タブーをタブー視せず、変化を模索する福田淳という男の連載、第5回目は新入社員を迎えるこの時期、大切にしたい「師匠と弟子」のこと。

福田淳連載第5回目

“叱る”と“怒る”の違い。師匠から受け継ぐ帝王学

「優しく仕事を教えてください」──。新入社員からそんなメッセージを見つけた時、僕は正直なところ、複雑な気持ちになりました。パワハラを肯定しているわけではありません。ただ、“怒られ”と“叱られ”って違うことなんじゃないかなと思ったんです。辞書を引いてみれば“怒る”は「腹を立てる」、“叱る”は「改善の余地があることを指摘する」というような意味も持ちます。

そりゃ、感情的に怒りまくるボスはよくないでしょうが、“叱られ”がない世界で新入社員の方がひたすら“優しく”という言葉に頼っていては、成長には届かないんじゃないかな、とそんな気がしたのです。そもそも上司と部下ではなく「師匠と弟子」、そんなふうに上司との関係を考えられるなら、社会人としてのスタートラインに立てるのではないでしょうか(偉そーにすみません)。

僕自身も、これまでの人生で多くの師匠に出会ってきました。なかには厳しい人もいましたが彼らの優れた部分を観察し、盗み、自分のものにしていこうと決めていました。僕がいちいち反発するから、僕の師匠だった人は本当に大変だったと思います(若気の至りとはこのことよ)。

その師匠のうちのひとりに、内田勝さんという天才編集者がいます。1965年に『週刊少年マガジン』の3代目編集長に抜擢され、『巨人の星』『あしたのジョー』『タイガーマスク』を立て続けにヒットさせた人です。紙芝居作家の水木しげるさんに『ゲゲゲの鬼太郎』を、貸本作家だった楳図かずおさんに『ウルトラマン』のコミカライズを描かせた人物でもあります。僕がソニーにいた時代に、アニマックスの仕事でご一緒させていただき、以来師匠と慕ってきました。

僕が初めて「社長」という立場に就いた時には(ソニー・デジタル・エンタテインメントが最初の社長経験でした)、アドバイザーになってくださいと依頼したのですが、引き受ける条件が「アイデアは出すけど議論はしない」こと。新米社長の私にはこの真意がわからなかったのですが、後から「決めるのはすべて君なんだよ」という帝王学だったと知りました。

以来私も、会社のスタッフや若い人に「僕がアドバイスしても、無視してもいいからね」と言っています。アドバイスがその人の頭の片隅に残ればそれでいいんです。あとは、当事者の判断でいいんです。内田さんのこのスタイルがカッコいい! 内田さんは間違いなく弟子想いの師匠でした。

内田勝氏と福田淳氏
福田さんが大事な師匠のひとりだと語る内田勝さんと(2006年)。撮影者はなんと藤子不二雄さん。

客観ではなく客体化すること

「検索するな、観察しろ」。これは最近強く感じていることです。ネットで検索すればすぐに答えが出るけれど、それによって人間の観察力が失われてしまう。マーケターにとって必要なのは、検索ではなく“マーケットを観察する力”なんです。この力がないと、いくら上司が教えても、仕事は自分の身につかない。だからこそ「優しく教えてもらう」のではなく、自らが情報を取りに行く、主体的な姿勢が求められていると思います。

観察したら、今度は仮説立案です。先輩が「走ってあれ取ってこい!」って言うなら、一応従うけれど、でも「先輩、そもそもあれ、こっちに置いておけばもっと便利じゃないですか?」って、ちょっと疑って複眼的に考えて仮説を立てる。生意気な奴だと思われて、怒られるかもしれませんが、決して思考停止せず、ものごとを客体化して見ることが大事です(生意気は成長の糧!)。これはもう新入社員に限ったことではありませんね。中堅もベテランもみんなが意識すべきこと。

客体化とは、自分自身の感情・状況を、俯瞰して捉える思考法です。客観と似ているようで異なります。客観は外部からの視点でものごとを見ること。一方の客体化は、自分の内面や置かれている状況に対して距離を取り、敢えて自分自身を“対象”として見つめ直すことです。自分を見つめ直し、一歩引いた位置から把握し、考えてみる。これができると、冷静な判断が下せるようになり、仕事のできる人になれると思うんです。

中心だけを見るのではない、周辺もまた観察を

あと、ビジネスパーソンにとって一番避けたいことは、変化できなくなることだと思います。時代に適応し、前に進み続けるには、常にチャレンジを続け、変わり続けないといけない。新入社員の方は新しい環境で自分を柔軟に変えながら、そして、キャリアを重ねた方はそのキャリアに固執せずに、新しいものを取り入れていけたら、変化に対応できる人間になれます。そうでなければリストラされる、なんてこともあっさり起こってしまいます。

キャリアがある分、その人の鍋にはたくさんの具材が放りこまれているでしょう(では、突然、鍋敷き理論へ突入します!)。つい、もうこれ以上鍋に具材は入らない! と考えてしまいます。鍋はひとつだけって思っているのは変化を拒む本人だけ。つまり、もうひとつ新しい鍋敷きを敷いて、新しい鍋を、新しい世界をつくればいい。多くの鍋敷きを敷いて広げられたら、たくさんの鍋を味わえます。いろんな世界を楽しみましょう。

変わり続けられる人ってどこか余裕がある。人間って追い詰められると思考が固まってしまいますからね。では、余裕を持つためにはどうすればいいのか。僕はやっぱり旅に出ることをお勧めします。でも新入社員の方は、まだまだ自分の時間をコントロールできないかもしれません。だったら目的地に行くまでの道すがら途中下車してみる。寄り道してみる。それも無理なら今いる場所から空を見上げてみる。視座を変えてみるのです。

例えば、輝きというのは常に周辺がつくりあげているもの。夜空がそうですよね。輝きそのものを知りたければ、その明るい星だけを見るのではなく、周りの星も見て、やっとその輝きの大きさがわかるようになるんですから。自分を、世の中を、そして周辺を観察し続けていきましょう。そしたら、きっと変化に敏感で変化し続ける社会人になれると思います。

新入社員を迎えて1ヵ月ちょっと、僕はそんなことを考えました。

Editor’s Note|万博のパビリオンに感動した夜

今号の取材の前日、大阪・関西万博に行っていたという福田さん。お土産のミャクミャクが描かれたパッケージのミニバウムクーヘンをつまみながら取材は行われました。なんでも万博には夕方に訪れたにもかかわらず、「あちこち回って1万3000歩も歩いた!」とのこと。建築家の板坂諭さんがデザインをしたパビリオン「PASONA NATUREVERSE」のアンモナイト型建築が素晴らしかったそうです。ちなみに「ミャクミャクって最初は気持ち悪かったけど、だんだんかわいく見えてきたから不思議ですね(笑)」と、つぶやかれ取材時は和やかな雰囲気に。

万博のパビリオン

福田淳/ATSUSHI FUKUDA
1965年大阪府生まれ。ソニー・ピクチャーズを経て、ソニー・デジタル・エンタテインメント創業。同社退職後、自身の会社スピーディ設立。LAでアートギャラリー、リゾート開発、沖縄で無農薬ファームなどの事業を行う。『好きな人が好きなことは好きになる』など著書多数。

TEXT=安井桃子

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