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2025.05.23

制服無償化で話題の品川区長が語る、女性が政治に参加する意義とは?

2022年12月の区長選で品川区長に就任した森澤恭子さん。区内公立中学校の制服を所得制限なく無償化、返済義務のない大学進学のための奨学金創設、子育てサポートなど多くの政策を打ち出している。1回目では政策のスピード感とリーダーシップについて、2回目は政治家になった経緯、ここでは、女性の政治家の可能性について伺った。全3回のうちの第3回。【その他の記事はこちら】

品川区長森澤恭子さん

強固な男性中心社会の枠組みを変えていく

東京都知事は小池百合子さんだ。そして、東京23区には女性区長が森澤さん含め、現在7人(山田加奈子さん〈北区〉、清家愛さん〈港区〉、岸本聡子さん〈杉並区〉、高際みゆきさん〈豊島区〉、大久保朋果さん〈江東区〉、近藤やよいさん〈足立区〉)いる。いずれも民間企業や公務員として勤務経験があり、子育てをしている人もいる。女性の政治家、母でもある女性の政治家は、少しずつではあるが、増えている。

「女性が代表として選ばれる自治体が増えて、社会が少しづつ変わってきていると思います。まだまだ女性が子育てや介護を担っている場合が多く、女性が首長の自治体は、そういった政策に、細かいところまで目配りし取り組んでいる印象です。

生き生きと子育てをしている人が増えれば、若い世代が“子育てはリスクではない”と感じるようになり、少子高齢化対策にもつながっていくと思うのです」(以下「」・森澤さん)

女性区長の政策として知られているのは、足立区の『おいしい給食』などだ。

「私は都議時代から、子育て家庭への支援を課題にしてきました。やはり、多くの人が悩む仕事と子育ての両立は、行政レベルで取り組まなければなりません。特に、親も子も孤立しがちな0歳児時代については、品川区では産後女性の宿泊ケア(最大6泊7日)や乳房ケアへの助成金支給、0歳児がいる家庭を対象にアウトリーチ支援を行う、『見守りおむつ定期便』などの政策を行っています。

保育園の入園審査の採点方法についても、多胎児の場合、できるだけ同じ保育園に通えるよう見直しました。

シンガポールへの帯同から帰国して、再就職活動が大変だったお話をしましたが(記事はこちら)、あの話には続きがあります。再就職先は幸い決まったのですが、今度は、保育園が見つからない。結局2人の子どもをそれぞれ違う保育園に預けて仕事をしていたのです。朝夕の送り迎えが2ヵ所になる負担は、とても大きい。こういったことは私自身が経験し痛感したことでもあります」

品川区は、第二子の保育料が無償だ(2025年9月より第1子も無償化)。さらに、小中学校の給食や学用品費も無償、高校生までの医療費も無償であるほか、多くの政策がある。

森澤さんが区長に就任した2022年12月は、人口が40万人だったが、今は子育て世代を中心に人口が増え41万人に達している。子育て政策のほかにも、さまざまなバックグラウンドを持つ女性がリーダーになることの、社会的な意味は大きいことがわかる。

「多様な生き方、子育て、教育、介護、福祉、災害対策など多くのことに“女性の目”が入ることで、結果として、すべての人にとって生きやすい社会になると感じています。やはり、これまで築かれてきた“男性中心社会”の枠組みは強固です。男性も“男性らしさ”にとらわれて、生きづらさを感じている人もいると思うのです。そこを変えていくような取り組みができるのは、女性だと感じています」

品川区長森澤恭子さん
森澤恭子/Kyoko Morisawa
1978年神奈川県出身。慶應義塾大学法学部政治学科を卒業後、日本テレビに入社。日本テレビ報道局記者(社会部、外報部、政治部)時代の取材を通じて、社会問題の現場を知る。森ビル株式会社広報室などの勤務を経て結婚、出産。海外在住経験を経て帰国、待機児童問題に直面したことを機に小池百合子都知事の政治塾で学ぶ。2017年東京都議会議員選挙当選(2期)。2022年12月品川区長選で再選挙の末当選し現職。

東京都初の「ジェンダー平等」条例を制定

女性の政治家は少ない。世界経済フォーラムが発表した『ジェンダーギャップ指数2024』によると、日本のジェンダーギャップ指数は146カ国中118位で、G7で最下位だった。

「なかでも、経済と政治分野で管理職比率、政治参加などの評価が低い。賃金格差も依然として残っています。これを私は、どうしても変えたい。

そこで品川区では、2024年に区の条例として『品川区ジェンダー平等と性の多様性を尊重し合う社会を実現するための条例』を制定しました。これは都内で初めて“ジェンダー平等”を冠した条例。法が変われば、社会も変わっていくはずです」

そこで目指すのは、『誰もが生きがいを感じ、自分らしく暮らしていけるしながわ』だ。これも選挙活動時から一切ぶれていない。ただ、ここまでドラスティックに改革を行うと“敵”も増えるのではないだろうか。

「反対意見などもありますが、“そういう意見もあるんだ”と受け止めるようにしています。ただ、匿名での誹謗中傷については、社会全体で考えるべき課題なのではないでしょうか。私に限らず、多くの人は名前と顔を出して自分の意見を述べています。それに対する匿名の言葉の暴力で、前に進む力を奪われてはならないとも思っています」

子育て世代にいい政策は、別の世代にとっては好意的に受け取られないこともある。

「品川区は子育てだけでなく、例えば、高齢者や障がい者の施策はもちろんのこと、孤独を感じたり、メンタル不安の相談先の設置、住民同士のつながりの創出、災害対策など多岐にわたる行政サービスを提供しています。それらは区報やSNSで発信していますので、ぜひチェックしてください。また、2025年度から区民の声を区政に反映するデジタルプラットフォームも導入を予定しています。

他にも、地域経済活性化、スタートアップ支援についても取り組んでいます。参考にしているのは、福岡県福岡市の高島宗一郎市長の政策です。高島さんは“福岡市を経営する”という視点から、雇用創出や経済活性化を行ってきました。品川区は大崎・五反田エリア(五反田バレー)にIT企業が結集し、多くのイノベーションがうまれています。品川区のものづくりや価値創出の土壌はポテンシャルが高いと感じています」

品川区を“経営する”森澤さんが、最近嬉しかったこと。それは「品川区が住みやすくなったので、ふるさと納税をやめました」という区民からの言葉だったという。

森澤さんは、職員と一丸となって、今後も平和で安全で住みやすい品川区ひいては、そうした日本社会を目指し続ける。政策により、安心と安定が得られれば、人はすべきことに集中できる。そういう人が増えるほど、社会全体が活性化していく。この循環がつながり、連続した先に、いい未来があるはずだ。

【その他の記事はこちら】

TEXT=前川亜紀

PHOTOGRAPH=鮫島亜希子

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