放送作家、NSC(吉本総合芸能学院)10年連続人気1位であり、王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2024年M-1決勝に輩出した・桝本壮志のコラム。

今春も芸人の卵たちが巣立っていきました。最後の授業を終えると、なぜか生徒らに卒業証書を渡されました。
「必ず売れます」「漫才を極めます」などの宣言、「仕事くれ」「飯に連れていけ」などの要求、「主よ救いたまえ」「ワンピースを読みます」などの理解不能なメッセージを眺めながら、「よしよし、これでいいよ」と一息つきました。
入学から卒業まで、僕が一貫して伝えてきたのは、他者や周囲に“自分の存在を伝える、自分の考えをオープンする「主張力」の大切さ”だったからです。
なぜ僕が、育成の柱にソレを置いているのか? 今回は、「現代の若者にもっとも必要な『主張力』の大切さ」についてシェアしていきたいと思います。

ブレイクスルーを妨げる「いつか見つかる」という風潮
芸人を目指している若者であっても、入学当初は大部分の生徒が、手を挙げて発言しないし、自己アピールもしません。正確にいうと、できる能力はあるのに、周りの目を気にして「しない」を選択しているんですね。
SNS誕生前から育成現場にいる肌感覚だと、この「できるけどしない若者」は増加しています。
これは、現代の若者が内向的になったのではなく、SNSにアップした一つの投稿文や楽曲で、震えるほどフォロワーが増えたり大ブレイクしたりする時代だから。
学校や職場といった「その他大勢」の中で自分をアピールせずとも、スマホという自分の箱の中でアピールしていけば、「いつか見つかる」「見つけてもらえる」という思考になっているんですね。
しかし、そういったマインドの若者は“集団の中から突き抜けていく力”が求められる「社会人」になると、どう振舞っていけばいいか分からず、迷子になってしまう確率が高くなるんです。
なので僕は、こんなふうに生徒たちに伝えています。
「迷子になった子供はどうする? そう、大声で泣いて自分の存在を知らせ、大人たちのサポートを受けるよね? これは仕事場でも同じで、『自分はココにいます』と主張しない若手は、誰からも気づいてもらえないし、誰からもサポートされないんだよ」と。
芸人として売れた、ブレイクスルーを果たした教え子たちに共通しているのは、周囲に自分の存在を伝え、自分の考えをオープンする「主張力」があったこと。
メンター(指導者)に見つけてもらうまで「待つ」のではなく、主張することで提案やサポートを受けやすい自分になる。言わば“キャッチアップされやすい人材になろう”という思考を採用しているんですね。
エラい人ほど若手の主張に応えてくれます
社長やリーダーポジション、私たち若手育成のトップに配置されている、いわゆる「エラい人」を言い換えると「孤独な人」です。
会社のために心を鬼にして、難しいタスクを与えたり、嫌われ役になったり、動じない自分を演じていたりしますし、エラくなればなるほど気を許せる仲間は減り、なじみの小料理屋で一人酒をしている重鎮も多いですからね。
そういったエラい人たちは、若手から声をかけられる、無邪気に接してもらえると、やたら喜びますし、「サポートしたい」という感情も駆動します。志村けんさんと千鳥の大悟さんが飲み仲間になっていたのも、その一例ですね。
数日前、僕にもこんなことがありました。エンタメ界の裏方で働く人材を育てる学校で、なかなか自己開示をしてこなかった一人の生徒が、卒業前に「桝本さん、いつか担当したい番組があるんです!」と主張してきたんです。
声をかけてくれたことが嬉しかったので、僕は「制作会社を調べて、次に会ったら教えて」と伝えました。
後日、彼がリサーチしてきた会社に、たまたま僕が知っているプロデューサーさんがいたので、「お世話になれないか?」と聞いてみると、前向きに検討してくれたんです。
まだ本決まりではないのですが、彼が憧れていた番組の一員になれるかもしれない。そのチャンスをたぐり寄せたのは、彼自身の「主張」にあったことは言うまでもないんですね。
ではまた来週、別のテーマでお逢いしましょう。

1975年広島県生まれ。放送作家として多数の番組を担当。タレント養成所・吉本総合芸能学院(NSC)講師。王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2024年M-1決勝に輩出。