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2024.10.22

売上高2.5倍の10億ドルに! ナイキ、ディズニーを革新したやり手CEOは、フェンダーをどう変えたのか?

ギターの名門ブランド、フェンダーが元気だ。2015年にアンディ・ムーニー氏がCEO(最高経営責任者)に就任したときの年間売上は4億ドル(約587億円)だったが、規模は倍増。2024年には10億ドル(約1467億円)に迫ろうとしている。

クラプトン、ジェフ・ベック、桑田佳祐、山下達郎世界中のギタリストが愛用するフェンダー

フェンダーには世界的なミュージシャンが憧れ、名曲を生み演奏してきた歴史を持つ。ストラトキャスターやテレキャスターをはじめ、ジャガーやマスタング、ベース・ギターではジャズベースやプレシジョンなど名器は多く、1960年代から今にいたるまで、多くのロック・ミュージシャンに愛されている。

エリック・クラプトン、ジェフ・ベック、ジミ・ヘンドリックス、キース・リチャーズ(ローリーング・ストーンズ)、リッチー・ブラックモア、ジョン・メイヤー……など。

日本人でも、桑田佳祐、山下達郎、Char、常田大希などが愛用している。山下はステージではデビュー以来ほぼフェンダー・テレキャスター。ライヴで毎回のように1曲目で演奏する「SPARKLE」のイントロはテレキャスターそのものの鳴りを活かしたカッティングのリフを荒々しく披露している。Charはマスタングを演奏し続けている。ライヴのクライマックスで演奏する「Smoky」では、弦を歪ませながらのソロ、間奏ではカッティングを弾きまくる。

そんなフェンダーが業績をアップさせている理由について、来日したアンディさんにインタビューした。

ナイキ、ディズニーでの実績がフェンダーの経営に活かされている

アンディさんはCEOとしてフェンダーに招かれる前、スポーツ・ブランドのナイキ、アミューズメント・パークやエンタテインメント事業を展開するディズニー・コンシューマー・プロダクツなどでCFO(最高財務責任者)やCMO(最高マーケティング責任者)としてキャリアを重ねている。

「私がフェンダーに招かれた理由は2つです。経営者としてのキャリアを評価していただいたこと。そして、ギターへの愛情と情熱です。まずは、経営者としてのキャリアについてお話しましょう。私がナイキのイギリス支社に入社したのは25歳のときでした」

アンディさんは財務のセクションに配属され、CFOの役職を得た。

「でも、当時の若かった私には財務や会計がそれほど魅力的なセクションに感じられませんでした。トップを目指すには、会社を知り、会社のつくる商品を知り抜くことが大切と判断したのです」

アンディさんはナイキの購買者を知ることから始めた。

「まずはナイキのシューズを購入し、歩き、走り、その感触を体験しました。次に、セールスのスタッフに同行して小売店に脚を運び、他社のシューズとの違いを確認しました。さらに、マラソン大会にも脚を運んでいます。ゴールしたばかりで肩で息をしているランナーに駆け寄り、ナイキのシューズのすぐれているところや改善するべき点についてインタビューを重ねました。自社商品を深く深く知ろうと務めたのです」

こうして得たデータは、開発チームに還元させた。

「CFOとして2年も経たないうちに、私に異動の辞令が告げられました。CMO、つまりマーケティングの責任者としてのポジションを得ることができたのです。これまでのキャリアで私が成功してきたとしたら、その理由の1つは成功する環境を自分の手で作り上げてきたことだと思っています」

アンディさんによると、経営側になることは、経営者で構成される業種を超えた“サロン”のメンバーになることでもある。

「各社のオーナーたちは、そのサロンにいるなかから自社のかじ取りを任せる人材を探します。だから多くの経営者がまた別の会社の経営者になり、サロンのなかで人材が流動し、キャリアをアップさせていきます」

アンディさんは、ナイキの業績に大きく貢献した。

「私が入社したときのナイキの売上は約$4億でした。辞めることには100億ドル(約14670億円)になっていました」

その功績が評価された。

フェンダーの購買層の50%が女性10人に9人がギターを挫折している

フェンダーのCEOになったアンディさんは、さっそく購買層を知ろうとする。

「フェンダーのギターは誰が買っているのか教えてほしい」

社内で問いかけると、さまざまな意見が集まった。しかし、もっとも大きな購買層はどこにあるのかがさっぱりわからない。そこで新たにマーケティング・リサーチをかけた。フェンダーでは、それまでは市場に大きくリサーチをかけてこなかったのだ。

調査した結果、次のことが明らかになった。

①フェンダーの購買者の約45%が初めてギターを手にする層
②そのうち約50%が女性
③初めてギターを購入する人の約90%が1年以内にギターをやめる
④継続してギターを弾く約10%のほとんどが一生弾き続ける
⑤アメリカではその多くがオンラインでギターを学んでいる
⑥ギターを継続する層は、上達するにつれて計5~7本のギターを購入。平均1万ドル(約144万円)くらいギターに使う

このリサーチの結果から、アンディさんは経営のプランを立てた。

「私たちはショート・スケールのギターに力を入れました。女性のギター・プレイヤーをより強く意識したのです」

ショート・スケールとは、その名称のとおりサイズの小さなギター。女性や子どもなど手が小さくても弾けるようにプランされている。ボディは軽く、ネックが短く細いので、握りやすい。弦も押さえやすい。男性でも、たとえばジョン・レノンは手が小さく、ショート・スケールのギターを好んで弾いていた。また実際には、プロギタリストやスタジオ・ミュージシャンもあえて愛用する人が多い。

「ニルヴァーナのカート・コバーンはジャガーやマスタングを好んで演奏していましたが、曲作りにはショート・スケールを使っていたといいます。扱いやすかったのでしょう。ショート・スケールに力を入れると、女性の購買層が広がっていきました。男性と比べて、女性同士はよくコミュニケーションをとりますよね。フェンダーのショート・スケールが弦を押さえやすく、指も痛くならないという評判が伝わっていったのだと思います」

ショート・スケールのストラトキャスターやテレキャスターは、それまで以上に女性のマーケットに広がっていった。実際に東京・原宿にオープンした旗艦店Fender Flagship Tokyoを訪れると、ショート・スケールのギターのラインナップが充実していた。

「あくまでも私の個人的な意見ですが、幼いころから大人になるにしたがって次のような段階でギターをサイズ・アップしていけば挫折することなく技術を身に着けられるでしょう」

①ウクレレ
②ショート・スケールのエレキ・ギター
③スタンダードのエレキ・ギター
④スティール弦のアコースティック・ギター

「親はまず子どもにアコースティック・ギターを与えがちです。でも、アコギよりもエレキのほうが弾きやすい。弦が軟らかくて押さえやすいからです」

オンライン・ギター・レッスン「Fender Play」をスタート

ギターがオンライン・ショップでよく買われているというリサーチ結果も想定外だった。ギターは手の大きさや、指の長さや、身体とのフィット感が大切。服を選ぶのと同じように、自分に合うモデルを店舗で実際に手に取って選ぶのがスタンダードとされてきた。

「リサーチの結果が示していたのは、初心者が200ドルくらいのギターを購入する場合はオンライン・ショップで選んでいるということでした。技術が向上して、高度な音楽を演奏するようになると、もっとハイレベルのギターがほしくなります。そのときは、店舗に足を運び、試し弾きした上で1000ドルを超えるモデルを選んでいるようです」

また、10人に9人がギターを挫折している現実とも真剣に向き合った。継続するプレイヤーを増やし、マーケットを広げるのは急務。そこで、アンディさんはギターのオンライン・レッスンのアプリもスタートする。「Fender Play」だ。

「Fender Playは好評で、現状サブスクリプションベースで多くの方が利用してくれており利用者は平均約14カ月継続しています。12カ月レッスンを受けた利用者のほとんどはギターをやめていません。Fender Playの利用者のうちどのくらいの数の人がフェンダーのギターを買ってくれているかまではまだ追い切れていませんが、このアプリについてはかなり期待しています」

後編に続く

TEXT=神舘和典

PHOTOGRAPH=鈴木規仁

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