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2023.10.13

「お客さんに空気を読んでもらう」約20年ぶりの【くるり】はなぜ、効率とは程遠い音楽作りをするのか

ロックバンド「くるり」のアルバム制作現場に密着した映画『くるりのえいが』が絶賛公開されている。オリジナルメンバーである森信行が参加していることでも話題となっている本作について、岸田繁、佐藤征史、そして森信行にインタビュー。前後編でお届けする。後編は映画『くるりのえいが』やニューアルバム『感覚は道標』を通して伝えたかったことについて。前編はこちら

くるり

『くるりのえいが』が今の音楽シーンに放つもの

――音楽フェスでもライブでも、プレイヤーの演奏とオケを同期させる同期演奏が多くなっているので、セットリストはしっかり固定されているということを若い世代のバンドから聞く機会が増えています。また、イントロやアウトロを飛ばしてサビだけ聴くというデジタル世代のリスナーも多く、音楽の効率化を享受する身ではありますが、音楽業界の流れについて不自由さを感じることもあります。そういった流れに風穴を開けるのが、この『くるりのえいが』ではないかとも思いますが、岸田さん、佐藤さん、森さんは今の音楽シーンをどう見ていらっしゃいますか。

岸田 言いたいことは山のようにあるのは事実なんですけど、それはどの世代の方でもあると思います。例えば、音楽フェスでいえば、お客さんの目線に立つと、転換が早くて、次々と好きなバンドが出てきて、音源と遜色のない演奏や、わかりやすい照明がほしいというのは正直な気持ちだと思うんですよね。ただそれは時代の変化、思考の変化っていうよりはシステム自体の変化だと僕は思っている。そのことに諸手を挙げて“素晴らしい時代になりましたね”とは言わないのですが、そうなることは、ある種、必然的なことだと思うんです。

で、我々くるりの思考として、さっき佐藤さんともっくんの2人が言ってくれたように、感覚的なものを重要視したり、アルバムの制作においてトライアンドエラーをしつこくやるような体質というのは、効率とは程遠いわけですよ。僕達のやっていることは、ギャンブルっぽかったり、無駄になってしまうものが多い。でも、別のやり方をしっかり説得力をもって示せたら、音楽ビジネスなのか、あるいはバンドのフォーマット論なのか分からないですが、一般的にこうだと言われている流れに対して、いや、そうじゃないと言えるのではないか、と。その方法として実際に自分たちのやり方を見せるのが一番早い。それが『くるりのえいが』なんです。

もちろん、僕達のやり方が1番正しいわけじゃない。たださっき、佐藤さんも言っていましたが、同業者の反応が見たい。僕らのことを好きな人たちだけじゃなくて、実際に音楽とかバンドとかに関わってる人たちが観て、どう思うか。そこがこの映画の持つ、結構大きな意味なんじゃないかと、期待はしています。

佐藤 今までもずっとそうだったと思うんですけど、音楽の聴き方であったり、意義みたいなものって、時代ごとにちょっとずつ変わっていく。例えば、自分たちが学生の頃に聴いていた音楽って、どこかずれているんです。縦のリズムもそうだし、音程的なとこもそう。それが当たり前だと思って、聴いていた世代だと思うんですよね。それが近年、そういうバンドがいなくなっている。全部が全部、音が綺麗に整音されている。自分たちのラジオで古い音楽をかけたりすると、音が歪んで録音されていて、最初は少し違和感を覚えるんですけど、昔はそれが当たり前だった。そういう流れもいつかまた巡ってくるとは思うんですよね。

ざっくりした言い方になりますけど、 先日、細野晴臣さんとお会いして、『感覚は道標』のアルバムを聴いていただいた感想として、“なんか、楽ちんだね”みたいなこと言っていただいて。肩肘張らずにリラックスして聴ける音楽だと。それも音楽のひとつのあり方として、絶対にずっとあるはずのものなんです。それをこの『くるりのえいが』は作品として残せた感じがするんですよね。

今のくるりのリスナーは、2世代に渡っていて、ツアーでは3世代で来てくれるお客さんもいるんですけど、またそのお子さんの子供がアルバムを聴いて、ライブに来てくれると嬉しいですね。

くるり
佐藤征史/Masashi Sato
1977年京都府生まれ。くるりのベーシスト。数多くのミュージシャンのレコーディングへ参加し、ツアーサポートなどでも活躍。室内楽からサイケ・オルタナ・フォークまでさまざまな要素をリズム&ブルース・マナーで演奏。

 音楽の仕事の効率化ということでは、機械を使って、打ち込みでリズムを構築することはありますが、そこから影響を受けて、逆に人間が機械的なリズムを目指すことも実はあったりします。打ち込みのカッコよさをピックアップして、機械的なリズムをあえて人間が取り入れて作った曲もあるし。いかにも人間が形作るリズム、すごい古い言い方で言うと、魂とか、ダイナミックとか、曖昧さとか、そういうノリで勝手に体が動いて、心も動く。その姿勢でアルバム全体が作れたことはすごく良かった。いいものができたという感触があります。

『感覚は道標』は空気を使っている

――具体的に言うと、打ち込みのリズムが印象的な曲と、魂が入った曲のタイトルはなんですか。

 僕の勝手な解釈ですけど「朝顔」は、シンバルもクラッシュシンバルも1枚も入れていないです。だけど、リズムパターンの変化とか、ハイハットを1枚裏で入れるとか、打ち込み的な楽しさを人間のリズムでやってみました。そういう試みの面白さがどこまで伝わるかはわからないですが、ちょっとクールなリズムなんだけど、やっぱり、人間の出しているものだからヒューマンなノリがある。

それとは真逆に「馬鹿な脳」は魂というか、炸裂するリズムで作った曲。最近、機械が人間のようなドラムの音を再現できるようになってきていて、逆に人間が機械に近づいていっている感じもある。だったら、思いっきり人間臭いことやってみようという感覚もありました。

くるり
森信行/Nobuyuki Mori
1975年徳島県生まれ、兵庫県育ち。1998年くるりのドラマーとしてメジャーデビュー。2002年脱退後、さまざまなミュージシャン、バンドのメンバー、サポートとして活躍中。

岸田 音というのは正直ですからね。気持ちが落ち込んでいるときに声を出したら、その声は暗い感じの空気の震えになりますし、楽しいときに手を叩いたら、それは楽しい感じの音に響きます。もちろん音は文脈と一緒で、音を切り取って、違う並べ方をしたら、違う意味を持つこともあります。

最近のソフトのBPMもライブの同期演奏のシステムも本当によくできている。その分、バンドはイヤモニ(※インイヤーモニター)をつけて、与えられたことをかなりカチカチに演奏しなくちゃいけなくて、それはあまりいい環境じゃないかもしれない。演奏を楽しむというよりも、固定化された環境で、一生懸命、アドレナリンやドーパミンを出してやっているかもしれない。そういう状況は、健全か不健全かっていう議論は置いといて、合う人と、合わない人がいるでしょう。

ただ、そのシステムに足りないものがあるとしたら、空気が足りていない。音って空気中じゃないと響かないじゃないですか。で、空気が足りないと、音がダイレクトになる。実際に会って、ひどいことを言われるのと、同じことをLINEで言われるのとを比べると、LINEのほうがより傷つくというのは、そこに空気があるかどうかの違いがあると思う。

くるり
岸田繁/Shigeru Kishida
1976年京都府生まれ。作曲家。くるりのボーカリスト/ギタリスト。『まほろ駅前多田便利軒』をはじめ『ちひろさん』、リラックマシリーズなどの劇伴音楽制作のほか、交響曲などの管弦楽作品や電子音楽作品、楽曲プロデュースも手がけている。

音楽も、打ち込みの音などダイレクトなもので美しい音もいっぱいあります。聴衆に寄り添っている曲もあるとは思うんですが、リバーブ(残響)ひとつとっても、広い部屋で響いた音を収音すると、全然違ってくる。

これは今のJ-POPに対する否定だと取らないでほしいんですけれども、最近のものは、非常に直接的な表現で情報量も多い。制作側は世相を読んで、音響的なコンプライアンスもしっかりして、気持ちよく届くように作っている。僕らの楽曲にも、それを目指して作ったものもあります。

でも、今回の『感覚は道標』はそうではなく、お客さんに空気を読んでもらう。こっちは空気を使って、行間いっぱい作って、その骨格をバンと出して、歌詞も何かを説明せず、「これ、どうなんですかね」と問いかけた曲が多い。 くるりの音楽は、リスナーが余地を持って考えないといけない音楽ではあるかもしれないんですけど、そういうものは今、あんまり存在していないから、僕たちはちょっと胸を張ってそこをやった。音楽のそういうところに育てられている意味で、この3人は割と共通してるんじゃないかなって思います。

前編はこちら

『くるりのえいが』
『くるりのえいが』
2023/日本 
監督:佐渡岳利 
出演:くるり(岸田繁、佐藤征史、森信行)
配給:KADOKAWA
2023年10月13日(金)より全国劇場3週間限定公開&デジタル配信
©2023「くるりのえいが」Film Partners

TEXT=金原由佳

PHOTOGRAPH=鈴木規仁

STYLING=森川雅代

HAIR&MAKE-UP=川島享子

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