今、チェックしておきたい音楽をゲーテ編集部が紹介。今回は、Blur(ブラー)の『The Ballad of Darren』。
人生を噛みしめる、ロックバンドの美学
歳を重ねることは、とても素敵なことだ。一度は道を違えたかつての仲間との関係性も、失ったものに思いを馳せるメランコリーも、音楽に昇華されることで、まるで極上のワインのような芳醇な味わいに結実する。
2023年夏のサマーソニックでも感動的なステージを見せたブラーの8年ぶり9作目のアルバム。一聴して感じるのは、ノスタルジックなテイストだ。
耽美的なメロディを奏でる1曲目の「The Ballad」やアコースティックギターに乗せて噛みしめるように歌う「The Everglades(For Leonard)」など、デーモン・アルバーンの気怠い歌声は、過去の追憶を美しく蘇らせる。エネルギッシュなギターリフを鳴らす「St. Charles Square」や快活な8ビートの「Barbaric」のように、’90年代の熱狂を思い起こさせるような曲もある。
ゴリラズで世界的な活躍を繰り広げてきたデーモン、ソロとしてキャリアを積み重ねてきたグレアム・コクソンなど、バラバラの道筋をたどった4人が再び集まった本作。ゲストやフィーチャリングを誰も迎えず全曲の作詞作曲クレジットに4人の名が並ぶことにも大きな意味があるはず。
歳を重ねたバンドならではの円熟した美学を今の時代に感じさせてくれる一枚だ。
Tomonori Shiba
音楽ジャーナリスト。音楽やカルチャー分野を中心に幅広く記事執筆を手がける。著書に『ヒットの崩壊』『平成のヒット曲』などがある。