サッカー日本代表の頼れるキャプテン遠藤航は、2023年にイングランド・プレミアリーグの名門リバプールに移籍。しかし、移籍当初はリーグのスピード感やチームの戦術に戸惑い、周囲から批判の声にさらされた。そんななかでも遠藤は腐らず考え続け、自分がやるべきことを分析し、実践することによって「替えの利かない選手」へと成長していった。
リオデジャネイロ五輪で感じた危機感
「ステップアップリーグへの遅い移籍」
(遠藤航・著『DUEL』)
僕の選択はギリギリの判断だったかもしれません。
けれど、その後の僕は「ステップアップできている」という実感を持てています。
ベルギーのシント=トロイデンからブンデスリーガのシュツットガルトへの移籍、そのチームではキャプテンを務め、さらには二年連続「デュエル勝利数1位」を実現させてくれました。
(南野)拓実も超ビッグクラブのリバプールへとステップアップし、いまでは日本代表の中心選手としてともに戦うようになりました。お互い、苦しい経験をしていたからこそ、カタールワールドカップ出場を決めたオーストラリア戦後の会話はとても感慨深いものがありました。
ともにまだまだ上がるべき階段はありますが、少しずつ成長できていると思います。
「正解を作らないこと」。ここをスタートにすることが、大きな成長のチャンスになると実感しています。
2022年に出した『DUEL』という本で書いた一節です。同世代の拓実とはリオデジャネイロ五輪でともに戦い、その失意の敗戦について語り合いました。詳しくは本書に譲りますが、「このままじゃ、誰もステップアップできない」と。
同じような話はシント=トロイデンの頃の(鎌田)大地、冨安(健洋)ともしたことがあります。シント=トロイデンというクラブに対しては言い尽くせないほどの感謝がありますが、その環境は決して恵まれたものではありませんでした。
当時、一緒にプレーしていた大地と冨安と「こういう環境でしっかり結果を出して、いつかプレミアリーグでできたらいいね」と言い合いました。
イングランドのプレミアリーグはサッカー選手なら誰もが憧れる最高峰のリーグで、レベルはもちろんのこと、サッカーをするための素晴らしい環境が整っていると聞いていました。それが今シーズン(2024-2025年)にかなったことはすごいことだなと実感しています。
「最適解探し」を続けることでステップアップしてきた
拓実にしても大地、冨安、そして自分自身も含め、ちょっとずつ成長ができている実感があります。
他のみんながどうやってそれを実現しているのかはわかりませんが、僕自身はとにかく「正解がないなかで考え続ける」ことが重要だったと思っています。
リバプールに移籍した当初は多くの批判がありました。プレミアに適応できていない、リバプールのレベルにない、など。周りからそれを伝えられることもしばしば。
僕のプレーがリバプールにフィットしていないことは確かでした。でも、正直に言えば批判自体はまったく気になっていなかった。
実力がないという意見には、まったく違った考えを持っていました。それは「リバプールが獲得してくれた事実が、リバプールでできることを証明している」ということであり、結果が出ていないのは「慣れ」と「理解度」だと思っていたからです。
特に、自分自身がチームメイトのやりたいプレーを理解し、チームメイトが僕自身のプレースタイルを理解する、という点ではまだまだ足りないことが多かった。
だからクルマの中や寝る前、ひとりの時間など、「どうすればリバプールにフィットできるか」「自分のプレーをどう適応させていくべきか」を、ずっと考え続けていました。
そのとき重要だったのが、正解を作らなかったこと。
こうすればこうなる、みたいな正解を決めてしまうと、それに合わない結果になったときに不安になってしまいます。
一方でこの場合はこう、こういうときはこっちの選択肢もある、といった「最適解」を探す感覚でいると、応用が効く。
振り返ってみれば僕自身、この「最適解探し」をずっと続けてここまで来た、と思っています。答えを定めず、その状況にもっともいいと思えることを選択する。
誤解を恐れずに言えば、僕はあまり他人に興味がありません。他の選手がどう、とか、あの人がこう言っている、といったことに無頓着です。
それは元来の性格もありますが、比較することで他人を正解だと思いこんでしまう、みたいなことを避ける意味もあったのかなと思っています。
遠藤航/Wataru Endo
1993年生まれ。2010年に湘南ベルマーレに加入後、浦和レッズを経て海外に。ベルギー、ドイツでキャリアを積み、イングランド・プレミアリーグの名門リバプールの中心選手として活躍する。1対1の強さに定評のあるミッドフィルダー。サッカー日本代表のキャプテンも務めている。著書に『DUEL』などがある。