PERSON

2024.08.05

もし部下の企画が、あなたが“すべて理解できるもの”になったら要注意です

放送作家、NSC(吉本総合芸能学院)10年連続人気1位であり、王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2023年M-1決勝に輩出した・桝本壮志のコラム。

リーダーは「獲得すること」より「手放すこと」が大事なポジション

買い物で貯まるポイント、飛行機のマイルなど、私たちの日々は“獲得していく”ことを目指すように設計され、獲得したSNSフォロワーを競うようにゲーム化されています。

ビジネスシーンでも、数字、評価、ポジションなど“いかに獲得できるか?”がデキる人の指標になっています。

しかし、長年、若手育成を任されてきた僕の知見は、リーダー世代は“獲得していく”だけでなく“手放していく”ことも大切なポジションだということ。

一体どういうことか? 今回はそのあたりをほぐしていきましょう。

リーダー業に潜む「サイレントマウント」を手放す

劇場の下働き作家だったころ、先輩に誘われ「次世代のテレビを創る若手集団」なるチームに入ったことがあります。

リーダーの作家さんは、台本や企画づくりなど、いろはを丁寧に教えてくださる人でしたが、ちらほら僕にテレビの仕事が入りだすと様子が変わりました。

「君はまだテレビを主戦場にしないほうがいいよ」

「まだ君の企画力では太刀打ちできないと思うよ」

そう、表面上はいつもと変わらないが“無言のブロック”が始まったんです。

これは会社や組織でもあること。

リーダーは、若手や部下に仕事の手ほどきを教え、有望株を育てることを目指します。

が、彼らのスキルやパフォーマンスが向上していくと“自分を超えないように仕向けてしまう”。

そういったリーダーも生まれやすくなるんです。

後輩に追いこされる、上下関係が逆転するというのは、耐えがたく、ストレスを感じるものですが、顔には出さない無言の妨害“サイレントマウント”の存在に気づき、手放していくことがリーダー世代には必要です。

過信しがちな「トレンド力」を手放す

数年前、2つめの芸人学校に赴任したとき、若手の漫才を見て違和感を覚えました。

10代・20代なのに「固有名詞」が古いんです。

例えば、漫才中に登場する女性アイドルグループの名前は、時代とともに、モーニング娘。→AKB→ももクロなどに変化してきたのですが、彼らは「古めの名前」ばかりを使うのです。

理由はすぐに分かりました。

ネタのダメ出しをする講師や社員の年齢層が高いため、最近のトレンドの中心にいるK‐POPアイドルの名前は伝わらない。

そう、彼らは“組織の上の人に向けたネタ”を創っていたんです。

これもビジネスシーンでよくあること。

企画をジャッジする採択者の年齢が高く、権力を持ちすぎていると、若手は“その人の好みに合わせたクリエイション”になっていく。

つまり、本来届けるべき顧客やターゲットに向けたものではなく、権力者の好みに合わせた商品やサービスになっているということ。

こういった組織ではイノベーティブな創造性は生まれません。

多くの場合、このような状況は、リーダーが「オレの時代を読む目は確かだ」と過信していると生まれます。

もし部下や若手が提出する企画やプランを、あなたが“すべて理解できるもの”になったら要注意。

それは“あなたに合わせたもの”を創っているに過ぎないからです。

私たちリーダー世代は経験も場数も豊富なので、サッカーで言うところの「ゴールの嗅覚」や「得点力」はかなり高い。

しかし、ゴールを決めるためには“より良いボールが集まること”“供給されやすいポジションをとること”も大切。

私たちは、若手から“生きたボール”を受けられるよう、過信しているトレンド力を手放し、自分が理解できないプランが集まるような組織を目指す。

合点がいかない発想が届く状況を喜び、楽しむ。

そして、若手に「教えて!」と言える勇気を持つ。

これが必要なんですね。        

ではまた来週、別のテーマでお逢いしましょう。

桝本 壮志/Soushi Masumoto
1975年広島県生まれ。放送作家として多数の番組を担当。タレント養成所・吉本総合芸能学院(NSC)講師。王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2023年M-1決勝に輩出。

COMPOSITION=古澤誠一郎

TEXT=桝本壮志

PHOTOGRAPH=杉田裕一

PICK UP

STORY 連載

MAGAZINE 最新号

2025年1月号

シャンパーニュの魔力

最新号を見る

定期購読はこちら

バックナンバー一覧

MAGAZINE 最新号

2025年1月号

シャンパーニュの魔力

仕事に遊びに一切妥協できない男たちが、人生を謳歌するためのライフスタイル誌『ゲーテ1月号』が2024年11月25日に発売となる。今回の特集は“シャンパーニュの魔力”。日本とシャンパーニュの親和性の高さの理由に迫る。表紙は三代目 J SOUL BROTHERS。メンバー同士がお互いを撮り下ろした、貴重なビジュアルカットは必見だ。

最新号を購入する

電子版も発売中!

バックナンバー一覧

SALON MEMBER ゲーテサロン

会員登録をすると、エクスクルーシブなイベントの数々や、スペシャルなプレゼント情報へアクセスが可能に。会員の皆様に、非日常な体験ができる機会をご提供します。

SALON MEMBERになる