放送作家、NSC(吉本総合芸能学院)10年連続人気1位であり、王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2023年M-1決勝に輩出した・桝本壮志のコラム。
新入社員や部下に「夢を持て」と言ってませんか? 「夢を語らない若者」にイライラしてないですか?
一般企業に就職した教え子からは、「会社がやたら“10年後になりたい自分”を聞いてくる」という愚痴を聞くし、知人のリーダーポジションからは、あいかわらず「最近の若いやつは夢を持ってないし語らない」という愚痴を聞きます。
なぜ、若者は夢を語らないのか? そもそも語らせたり、発表させたりすることは正しいのか?
今回は、僕なりの知見と持論をシェアしていきたいと思います。
若者に「夢を持て」「語れ」は、ありがた迷惑
まず、なぜ若者は夢を語らないのか?
それは、目上の人に「なりたい自分」を語ると、“そこを掴まれコントロールされる”ことを知っているから。
そもそも夢なんて「語るもの」でなく「秘めるもの」なのに、やたら大人は「夢はないのか?」と迫る。
まともに答えると、それを使って「ならば君はこうするべきだ」と、年下をコントロールする材料にしてしまう。
彼らは賢いので、この構造を知っているんです。
以前、芸人学校の卒業講義で、あえて真顔で「君たちの夢は?」と聞いたら、彼らは「なりたい自分」を掴まれるのがイヤなので、大ボケ祭りになりました。
M‐1王者・令和ロマンなんて、「フジテレビを救いたい」とワケの分からぬことを抜かしたほどです。
それから7年経ちますが、今では「夢を語りたがらない生徒」がますます増えました。
原因は若者でなく、僕ら大人です。
大谷翔平選手の「人生設計ノート」が注目され、自室で一人、将来設計をしたためる若者が増えたのは事実。これはよかったこと。
しかし、ビジネスシーンで「夢は宣言すると叶う」という風潮が強まり、わざわざ大勢の前で夢を発表させたり、レポートを提出させる企業が増殖してしまったことも事実。
その中には、集約した「なりたい自分」を、査定の補助線にしたり、コントロールの道具に使ったりする大人たちがいることを、彼らは察知しはじめているんです。
ただでさえ若者は、「夢を持つ」ことに強迫観念を持ちすぎてしまう世代。なのに今では、大人まで「若者に夢を持たせなければ」という強迫観念を持っている。
これはもはや、ありがた迷惑の域ではないでしょうか?
49%の職業がなくなる時代の「夢」ってなんだ?
冒頭でもふれましたが、社員に「10年後になりたい自分は?」を問う企業は多いようです。
しかし、この問いが今の時代にマッチしているのかどうかはかなり疑問です。
オックスフォード大学の調査だと、「10~20年後には、49%の職業が消える」そう。
ということは、取引先、業務内容、ツール、企画の立脚点、転職先の候補も一変するということ。
そんな不確かな時代にあって、「10年後になりたい自分を教えろ」というのは、けっこう乱暴だし、重要な問いではないと思っています。
では、リーダーは、若手の将来をどのようにして導くべきなんでしょう?
「先が読めない時代」は、浮き沈みが激しい芸人稼業に似ています。
僕が芸人学校で重視してきたのは、若手に「不確かな未来」を語らせるのではなく、こちらから「科学的な裏づけがある未来」を伝えて励ますこと。
その一つが「人生のピーク年齢」です。
人間は人生の中で「もっとも〇〇ができる」ピーク年齢があり、「もっとも人の名前を覚えられるのは22歳」「もっとも顔を覚えられるのは32歳」などのデータがあります。
これを使って、例えば24歳の生徒に、「一番マッチングアプリで異性にモテるのは25歳らしいから、いい恋をして、来年あたり恋愛コントを作ってみたら?」とか、まだ芽が出ていない30代の芸人に、「もっとも集中力が高まるのは43歳らしいで。まだまだこれからやな」と言ったりする。
こういった交流のほうが、若者の目の輝きは増すんです。気になった方は、ぜひ試してみてください。
ではまた来週お逢いしましょう。