スマホに代わる次世代デバイスとして注目されるApple Vision Pro(以下AVP)が2024年6月28日、遂に日本上陸を果たした。AVP初の解説書『スマホがなくなる日』を上梓した、ITベンチャーSTYLYの渡邊信彦COOは、「近い将来スマホを持つ人はいなくなり、人類はメガネ型デバイスをかけて生活も仕事もするようになる」と断言する。今回はそんな渡邊氏と、渋谷PARCOなどでXR技術を使ったイベントを積極的に行うJ.フロント リテイリング 執行役常務 デジタル戦略統括部長 林直孝氏との対談が実現! PARCOの屋上で花火を見ることが新カルチャーになる!? XR技術によって実現可能になる、未来の体験型商業施設とは。※本記事は、『スマホがなくなる日』より、内容を一部抜粋、再構成したものです。
VRとの出会い、そして可能性を感じた瞬間は?
「買い物をする場所じゃなくて、新たな体験ができる場所」。そんなアイデンティティーを持つ商業施設PARCO。2019年の渋谷PARCOリニューアルオープン後は、吹き抜け空間を使ったバーチャルアート展示など“VR技術”の活用に乗り出している。当時のPARCOの担当者が語る、“新しい買い物体験”とは?
渡邊 PARCOでは、VRやメタバースという言葉が流行る前からイベントなどをやっていましたが、私たちSTYLYが提唱する、「空間を身にまとう世界がやってくる」というフレーズの、どんな部分に共感いただけたんでしょうか?
林 我々としては、2016年が節目でして。その年は「バーチャルリアリティ元年」とか「VR元年」と言われていた年で、世の中がかなり盛り上がったんですよね。 たまたまその時期に、渋谷のPARCOが建て替えのため一回クローズすることになり、その一環でVRイベントをやったんですよ。
渡邊 どんなイベントだったんですか?
林 VRを活用した野外シークレットライブを行いました。ライブ会場はPARCOの屋上。渋谷の街なかなので大きな音は出せませんし、屋上のスペースも限られているので、観客のみなさんにはヘッドフォンをつけてライブを楽しんでもらいました。同時に試みたのが、館内にも別会場を作り、VRゴーグルをかけてもらって、リアルなライブ映像をお届けしたんです。しかもライブ中のアーティストから見たアングルの映像を中継しました。
私も体験したのですが、バンドの一員になったかのような、屋上のライブ会場でも味わえない感覚で……。「VRってこういうことができるんだ」と、新鮮で衝撃的でした。また、その頃ちょうど『Pokémon GO』のアプリがリリースされたんです。VRとARを通して「自分たちのビジネスにこれらの技術が活かせるのでは?」とワクワクしたのを覚えていますね。
渡邊 それは面白いですね。単なる商業施設という枠を超えて一つのカルチャーを築いていらっしゃるなと思うのですが、今後はバーチャル空間を活用してどんなことを発信していこうと考えているのですか?
林 そのシークレットライブの後にどうARやVRを活用してお客さんに楽しんでもらうかを考えまして、3年後の2019年にグランドオープンした新生渋谷PARCOには、館内の吹き抜け空間に3Dアートを展示して体験してもらうエリアをSTYLYと作りました。それがXRへのチャレンジの始まりでした。他にも、アートやファッション、ショッピングなど様々なジャンルで、少しずつ、バーチャルな仕掛けを取り入れています。
渡邊 スマートフォンのように、当たり前にApple Vision Proのような次世代デバイスを持つ時代が来
たら、生活やショッピングの体験はどのように変わると想像しますか?
林 色々な体験が圧倒的に変わりそうで、特にショッピング体験などはすごく変わると思っています。現代のネットショッピングのようなものではなく、どこにいても実際のショップを訪れたような体験ができそうですよね。
商業施設の価値をさらに高めるには?
渡邊 2024年2月に渋谷PARCO屋上で開催した「MIRAI HANABI」は、一緒にやらせていただいてとても楽しかったです! 屋上で、スマートフォン越しにARの花火が映し出されるという無料のイベントでしたが、企画段階の際、林さんは「本物の花火に近づけたい!」と、精度にすごくこだわっていましたよね。
林 そうでしたね(笑)。渋谷の街に特大の花火を上げることは危険なのでできません。それに花火は夏の風物詩ですので、「冬に花火大会」「渋谷の街なかで花火大会」という、通常では体験できないものをお客さんに提供したかったんです。 みなさんが見たい花火って何だろう? と考えた時、シンプルにリアルな花火なのではないかと思ったんです。ですので今回はリアルさにはこだわらせていただきました!
渡邊 私たちは「ファミコン風の花火はどうか?」など、デジタルにしかできない方向に振ろうとしてしまいがちなんですよね。「本物にはやはり勝てない」と、私は思っていましたから。でも、お客さんはデジタルフリークの方というより、花火が好きな方のほうが多い印象でした。本物にも負けないリアルな迫力が出せる未来を見据えて、今回、林さんがとことんリアルにこだわったのは大成功だったと感じています。林さんは、このイベントを通して、どんなことを感じていたんですか?
林 もう自信が確信に変わりました! 今回のイベントはスマートフォン越しに花火を見たんですが、これをApple Vision Pro越しに見たらどんなにすごいんだろうなぁ! と勝手に想像しながら私も体験していましたね(笑)。同時に、商業施設の役割も大きく変わっていくんだろうという思いも抱きました。
渡邊 具体的に、どのように変わっていくと感じましたか?
林 たとえば花火大会を例に出すと、今までは浴衣は商業施設で買って、それを着て週末あたりに河川敷などで開催している花火大会に行く、というのが一般的でした。でも商業施設の屋上で花火大会を体験できるのであれば、浴衣を買って、その場で着付けをしてもらって、屋上に上がれば花火大会を楽しむことができる。これぞ価値の拡張ですし、可能性を感じますよね!
空間もファッションになる時代の到来
渡邊 今後、やってみたいと思っているアイデアはありますか?
林 今渋谷PARCOの6階フロアは、日本が誇るキャラクターが集うフロアなんですが、そこをまるごと現実×バーチャルの空間にしたら面白そうですよね。フロアに足を踏み入れた瞬間に、目の前にキャラクターがいたり、ゲームの世界そのものに自分が入り込めるような体験をしながら買い物ができたら面白いですよね。
渡邊 ゆくゆくはこの空間自体を、自分のファッションとして取り扱う時代がやってくると思うんです。空間に好きなものを浮かべたり、気分が高揚したらハートが飛んでいたりとか。考えられる限りなんでもできるし、色々なことが起きると思うんです。PARCOの中のショップに入ると、ブランドそれぞれに表現されたものが空間として存在して、それが人それぞれ変えられたり、それ自体を販売できたりということが起きてくるような気がするんです。そしてまた、空間を彩るという新しい文化・カルチャーが生まれていくような気がします。
スマホがなくなる日、どんなことをしてみたい?
林 空間コンピューティングは、「タイムマシーン」になるなと思っています。というのも2019年、渋谷PARCOリニューアルオープン前の工事中、施設を覆う壁一面を大友克洋先生の漫画『AKIRA』の名シーンのアートボードにしたじゃないですか。そのアートボードを撤去する前に、STYLYさんが画像をキャプチャしてくれたものを、PARCOのオープン後にバーチャルに再現してくれて……。「未来にも行けるし、過去にも戻れちゃうんだ!」って感じたんです。当時を懐かしみながら、当時のスタイルの買い物ができるとかも夢ではないと思いました。ですから、スマホがなくなる日、昔のPARCOで買い物を楽しんでみたいですね。
渡邊 ぜひ、過去での買い物体験、洋服なんかも当時流行したものを取り揃えて、タイムスリップショッピングを実現させましょう!