放送作家、NSC(吉本総合芸能学院)10年連続人気1位であり、王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2023年M-1決勝に輩出した・桝本壮志のコラム。
「新年度から、若手を育成するポジションになったのですが、思うようにいきません。桝本さんのコーチング法があれば公開してもらえませんか?」という依頼をいただきました。
「コーチング」とは、部下のモチベーション向上や主体的な行動をうながす育成手段のことですが、近年、似たような悩みをもつリーダーポジションの方も多いようです。
ということで今週は、約1万人の猛々しい芸人の卵たちに実践してきたコーチング法をシェアしてみたいと思います。
コーチングで大切なのは「ゴミ袋」の意識
まず、部下を育成していく「心がまえ」として、僕は「ゴミ袋」を意識しています。
なんやそれ? と思われるでしょうが、こんな3つの意味があります。
①録音されてもいい透明性はあるか?
部下へのコーチングは、ついつい相手の心をくじいたり、声を荒げがち。さらに、会話を録音されてパワハラ事案になることもある時代です。
なので僕は、半透明のゴミ袋のように“誰が見ても、やましくない内容物”を心がけて育成していますし、すべての授業を録画OKにして透明性を担保しています。
②詰め込まない。きつく縛らない
ゴミ袋は詰め込みすぎると結べなくなるし、強く縛ると割り箸が飛び出してきたりしますよね?
それと同じで、部下にマニュアルを詰め込もうとしたり、発言や行動の自由を縛ったりすると「破れる(辞める)」可能性が高くなります。
適量を入れ、軽く縛って、可燃や不燃ゴミがあるように、適材適所に置いて放置する(見守る)感覚も必要です。
③しょせん、自分の教えなんて「ゴミ」。という意識
僕は生徒らに「いろんなことを伝えるけど、君にとって多くはゴミかもしれんわ。けど、たまに“よく考えたら使えるモノ”が混ざってるかもしれんから、それを見落とさんといてな」と伝えています。
私たちリーダーは“偉い人”ではなく“伴走者”。主役のランナーである部下を、励まし、叱咤し、勇気づけながらゴールに導く脇役なので、自分の指導を「金言」でなく「戯言」くらいのイメージで差し出していくことも大切なんですね。
部下こそ接待する。任せてみる
上司や取引先への接待を重視しているビジネスパーソンは多いでしょうが、僕は教え子(部下)こそ接待しています。
令和ロマンとサシで飲むし、ぼる塾の女子会に1人で加わるし、無名の新人芸人にも月に4~5回は接待してるんです。
なぜなら、私たちリーダーは、よく部下に「困ったらいつでも声をかけて」と言いますが、ほとんどアクションされず、彼らはいろんなストレスを溜め込んでいくからです。
部下への接待は効果てき面です。人間は、街中では無視し合うのに、登山やハイキングでは、他人に「こんにちは」と言える生き物。同じ空間や行動を共有することで、口は滑らかになり、日頃のよもやま、仕事やチームのことをビックリするほど語ってくれます。
コンビニのイートインでも1本の缶コーヒーでもいいので、こちらから誘い、お店を選び、同じ景色を見ながら接待してみてください。
また僕は、課題へのアプローチを、できる限り生徒(部下)に任せるようにしています。
きっかけは14年前、彼らに「どんなときにモチベーションが上がる?」と聞いたら、「任せてもらったとき」が一番多かったからです。
例えば、僕の授業には、生徒からの発案ではじまった「左手で書いたネタ王」というものがあります。
これは、いつも漫才をやっている人はコント、ピン芸人は即席コンビを結成、コント師は初めて漫才に挑戦など、「普段やらないジャンル=利き手を使わず遊び感覚で書いたネタ」で勝負するといった大会で、僕はいっさいネタ作りに口出しをしません。
最初は、「大丈夫か?」「おもしろくなるか?」と疑念をもっていましたが、フタを開けてみると、これが抜群に面白い。
生徒らが自発し、主体的に考案したネタは、僕には創れない切り口、展開、突破口にあふれており、大会開始から14年間、毎年もっとも人気で盛り上がる授業になっています。
“まだ任せられない。だからこそ任せてみる”。
こういった逆転の発想もオススメです。