『80歳の壁』著者・63歳和田秀樹が、“長生きの真意”に迫る対談連載企画「医者ではなく、大先輩に聞け!」。初回ゲストは解剖学者・86歳養老孟司。『バカの壁』と『80歳の壁』。記録的な大ヒット本を生んだ二人に共通する人生哲学とは。話の随所から、楽に生きるためのヒントが飛び出てきます。その第6回。【連載記事はコチラ】
AIの時代に人間は?
和田 たしかに努力の時代は終わりかもしれません。象徴的なのはAIです。少なくとも勉強では人間がどれだけ頑張ってもAIには勝てない。閃きとかアホなことを思いつくとかなら、AIと違う答えが出せるかもしれませんが。
養老 人工知能という言葉が使われ出した頃に思ったのだけど。「世界には70億も人がいて、70億の脳みそがあるのに、なぜわざわざ人工で作らなくちゃいけないんだ。今あるものをもっと上手に使えばいいのに」と。
和田 確かにそうですね。だけどこうなった以上、後戻りもできないし、歯止めも効かない。養老先生が仰るように、努力が意味をなさない世の中になってくる気がします。
養老 そうでしょうね。
和田 矩を知るって言うんですかね。人間には本来、限界があるはずなんです。なのに「努力すればなんでもできる」みたいに錯覚して、ひたすら頑張る。「努力しても限界がある。これ以上は無理だよね」って思えたら、もう少し自然に、楽に生きられると思うのですが。
養老 自分を押し殺して頑張ってしまうんですよね。だから辛くなる。
和田 養老先生が仰るように、70億の脳に自然に考えさせておけば、70億の考え方や見方をするはずなんです。だけど変に教育をしたり、決まりきった価値観を押し付けたりするから、人工知能以下の当たり前の答えしか出せなくなる。好き勝手にさせておいた方が、よっぽど凄い発想や思考が出てくると思いますよ。養老先生のように。
養老 ひとりでにこうなっちゃうんだから仕方がない(笑)。
和田 放っておけばいいんですよ。なのに、周囲の圧力やおかしな教育が、それを縛ったり邪魔したり、方向づけたりする。本来の力がそうやって奪われている気がしますね。医療にも同じことが言えます。
養老 仰る通りです。
和田 現代医療なるものは自然な形とは程遠い。もちろんそのおかげで助かる命も多くあります。だけど本来、そこは哲学の領域です。「不自然なことをしてまで長生きした方がいいのか、自然なままで放っておいた方がいいのか」という話なんです。
ただ、自然なまま放っておくと早く死ぬか、と言うとそうでもない。栄養状態がよくなって、人間は長生きするようになったからです。ヨーロッパがいい例で、高齢者にほとんど薬を飲ませません。なのに、平均寿命は日本と2歳くらいしか違わない。自然に任せておいてもそうそう死ぬものではないんです。
本来の健康は数値に合わせる。ではなく楽に生きること
和田 なんでもかんでも数字に合わせようとしすぎですね。
養老 そうやって自分の首を絞めている。
和田 世間が言う「健康」も不自然な概念だと僕は思っています。「好きなことをして生きる」とか「楽に生きる」のが健康なのに、数値に合わせるのが健康だと思わされている。健康ってもっと自然なものなんじゃないのかな。早く死ぬ人はどうやっても早く死ぬし、逆に、自然に任せて100歳まで生きる人もいるわけですから。
養老 目標を作って辿り着くようなものじゃないんですよ。自然のものはみんなそうでしょ。ひとりでにそうなっていくのだから、無駄な抵抗はやめた方がいい。
和田 養老先生は具合が悪い時には病院に行きますか?
養老 行きますよ。僕もこの歳で、痛いとか苦しいとかは嫌なんでね。体の具合は大事です。一番重要なのは「気分がいい」ということです。
和田 今を居心地がいい状態にする。
養老 そうそう。みんなが居心地のいい場所にいて、気分がよければ、ウクライナの問題とかガザの問題とかも起こらないはずなんです。プーチンなんか何を考えてるのかわからないが、あの人をどういう状態に置いたら居心地がよくて満足するんですかね?
和田 プーチンにとっては、今の状態がいいのかも。戦争は勝ってる状態が気分はいいはずですから。アメリカが戦争をやめないのも同じでしょう。
養老 今のコンプライアンスの問題はどうなんですかね。若い人は気の毒な気がします。僕らの頃は、万事がもっと緩かったですから。
和田 今は縛られた感じが当たり前になっています。それはとても不自然な気がします。僕が子供の頃は、世の中は自由になるって期待感がありました。だけど現実は、どんどん窮屈になっていっています。僕はもう若くはありませんが、息が詰まる感じはしますね。
養老 なんでみんなで一生懸命に窮屈にしているんだろうね。気楽で居心地がいいようにすればいいのに。号令かけてやろうとするといけないんだけど。
和田 「居心地よくしなきゃダメ」って、みんながお互いを縛って窮屈にしちゃう(笑)。
養老 人のことは放っておいて、気楽に生きましょうよ。