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2024.05.11

AIを音楽にどう活用するのか? YouTube Musicトップが考える音楽業界の現在地

今やミュージッククリップをアップしないアーティストはまずいないだろう。世界の音楽シーンを大きく変えたYouTube。その音楽部門トップであり、音楽業界の変遷を長年に渡って見届けてきたリオ・コーエンは、今をどう見ているか。

YouTubeとGoogleの音楽部門のグローバル責任者を務めている、リオ・コーエン

サブスク1億人超えのYouTube Music

米国の音楽産業における重鎮が、2017年以来の来日を果たした。現在は、YouTubeとGoogleの音楽部門のグローバル責任者を務めている、リオ・コーエンだ。

久しぶりの来日の目的は、うねりを上げて変わりつつある日本の音楽マーケットを体感すること。

「前回来日した2017年当時は、YouTubeに動画をアップする日本のアーティストは半分にも満たない状況でした。ところが今やほぼ100%になっています。しかも、CDの売り上げも伸びている。

日本のマーケットはとてもユニークなんです。そのマーケットを遠くから知ろうとしても無理。やっぱり直接、日本に来て、アーティストが何を考え、どんな不安を持ち、またどんな夢があるのか、じかにじっくり聞かないとダメですね」

リオ・コーエン/Lyor Cohen
1959年生まれ。ラッシュ音楽事務所、デフ・ジャム・レコードを経て、ワーナー・ミュージック・グループ音楽部門の会長兼CEOに。レコードレーベル「300 Entertainment」創設を経て、2016年よりYouTube 音楽部門グローバル責任者。

アーティストたちが動画をアップするのは、当然だろう。YouTubeの成長ぶりは、すさまじい。今や世界中で毎日数十億人が見ているのだ。

また、YouTube Premium(広告なしの動画視聴とYouTube Musicの利用が可能)に関しては、サブスクが世界で1億人を超える規模になっている。

「日本の音楽マーケットは、アメリカに次いで世界で2番目の大きさです。アーティストは、日本のマーケットで成功すれば、それで十分かもしれない。でも、これからは世界で競ってほしいのです。もっともっと大きなものを目指してほしいし、グローバルに挑んでほしいと思います。」

そして今、音楽サブスクリプションは、音楽業界にとってピンチなのか、チャンスなのか、改めて問うてみた。

「今度、日本に来る時には、もうこの質問はしないでほしいですね(笑)。本当にもはや時代遅れな考えじゃないかと思います。全くピンチなんかではないと思います。なぜなら、何よりユーザーがどんどん増えているから。アーティストも大切だけれど、同時にユーザーの立場も考えないといけません」

ユーザーの増加は、広告収益、サブスクの収益に直結する。そのスケールが今、加速度的に大きくなっている。アーティストの収益も、そのスケールに伴って大きくなっていくということだ。

「しかも、もうレコードやCDを製造したり、輸送費をかけたり、お店の家賃もいらなくなりました。サブスクは、革命的に音楽ビジネスを変えたのです」

生成AIは、世界の音楽シーンをどう変えるのか

さらに音楽業界に大きなインパクトをもたらそうとしているのが、生成AIだ。このまったく新しいテクノロジーについては、過去と同じ過ちを繰り返さないことが大事だとコーエンは語る。

「音楽業界には、これまで黒歴史がありましたからね。デジタルが出てきたときも、ファイル交換ソフトが出てきたときも、音楽業界は守りに入ってしまった。この波が過ぎ去ってくれれば、と見えないふりをしていたのです。ちゃんと向き合わなかったから、うまくやれなかった」

生成AIについては、その反省を踏まえたいという。

「守り、ディフェンスで行くのではなく、大胆かつ責任を守りながら行く。AIはアーティストに取って代わるものではなく、クリエイティビティをサポートするものだからです」

YouTubeでは、AIを音楽に活用する基本的な考えをまとめたという。重要なポイントは3つ。収益性、使う使わないはアーティストが決められること、そして帰属性。

「今、我々はスイスのチューリッヒのキャンパスで、既存のコミュニティを守りながら、AIをどう導入できるか、いろいろな実験を重ねています」

懸念ばかりが取りざたされがちだが、ポテンシャルの大きさも実感しているという。

「例えば、ギターが弾けなくても、鼻歌で歌ったものがギター演奏になったりします。それだけじゃなくて、サックスにしたらどうなるか、なんてことも簡単にできます。曲のアレンジを、R&Bかカントリーか、なんていろいろ試してみたりもできますよ」

生成AIは、創作意欲やインスピレーションを掻き立てる、格好のツールになる可能性を秘めているのだ。必要なのは、それを最大限にする基盤づくり。

「そのためにも、アーティストの話を聞かなければいけないのです。すべては、そこから始まるから」

世界の音楽シーンの構造変化は、まだまだ止まらないようだ。

TEXT=上阪徹

PHOTOGRAPH=倭田宏樹

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