2023年1月、多発性骨髄腫という血液のがんに罹患していることを知った岸博幸氏。余命10年を告げられた岸氏が、闘病の記録や今後の生き方、日本の未来への提案をつづった著書『余命10年。多発性骨髄腫になって、やめたこと・始めたこと。』を上梓。本書に入りきらなかった岸博幸理論を公開。今回は「オタクたること」。そのココロは?
ヤンキーは打たれ強く、反骨精神旺盛
「成功する人間はオタクもしくはヤンキー。僕は、そう思っています」と、岸氏。岸氏いわく、「ヤンキーの典型例は、カーネル・サンダース」。言わずと知れた、あのケンタッキーフライドチキンの創業者である。彼がこの世を去ったのは1980年。それから半世紀近く過ぎた今なお世界中で愛されるファストフード企業をつくった人物がヤンキー⁉
「実は若い時のカーネル・サンダースはけっこうやんちゃで、10代半ばで中学を辞めたり(金銭的な理由もあったかもしれないけれど)、母親の再婚相手との折り合いが悪くて家を飛び出したりと、ヤンキーの“あるある”エピソードを多数持っています。おまけに、16歳の時に年齢を偽って入隊した軍隊を1年で辞め、以降30代半ばにガソリンスタンドを興すまで、40種類以上もの職種を転々としているんですよ」
その後も、ガソリンスタンドの倒産や開いたレストランが火事で全焼するなど、カーネル・サンダースは数々の困難に見舞われ、65歳で一文無しに。そこで始めたのが、「フライドチキンのレシピを教えるかわりに、売れたチキン1つにつき5セント受けとる」という、世界初となるフランチャイズビジネス。その後8年ほどで、アメリカとカナダに600店を超えるフランチャイズ網を築き上げた。
「彼は、ワゴン車にスパイスを積み、全米のレストランを1軒、1軒回ったそうです。断られても、断られても、めげることなく、1010軒目でようやくフランチャイズ契約を取りつけたとか。
ヤンキーは打たれ強いし、反骨精神も旺盛。いざという時は“気合一発”で、高い壁をよじのぼる馬力があるし、ちょっとやそっとのことではめげないタフさがある。親に守られながら順風満帆に生きてきたエリートは、一度つまずくと中々立ち上がれないけれど、ヤンキーは転んだり、道に迷ったり、それたりしながらも自分の足で歩いてきているから、デカいことができるのだと思います。もっとも、中途半端なヤンキーは別ですが」
中高年がオタクを目指すべき理由
「昔はやんちゃだった」と自負する人は、ヤンキー精神をもう一度思い出し、これから大きなことに挑戦するのも良いだろう。けれど、大人になってから、いきなりヤンキーに転向するのは、少々無理があるような……。
「確かにヤンキー的なアプローチは、中高年には体力的にもきついでしょうね。なので、おすすめは、オタク。自分が熱中できるものを見つけ、とことん追求することです」
オタクの典型として岸氏が挙げてくれたのが、連載第7回でも紹介した「八ヶ岳食工房」の加藤公貞氏。加藤氏は、大好きな八ヶ岳に小屋を建て、週末に訪れてはベーコンやソーセージを趣味でつくっていたのだが、セカンドキャリアを考えるうちに、付加価値の高い生ハムづくりでの独立を目指すことを決心。以来、仕事の合間を縫って保健所に3年ほど通い、生ハムをつくるための資格を取得した。
「独学で麹菌について学び、5年の歳月をかけて北海道から沖縄に至るまで有名ブランド豚を仕入れ、試作を繰り返し……。そうやって18年もの歳月をかけ、生ハムづくりにのめりこんだからこそ、大手デパートからも引き合いがあるような人気商品を生み出すことができたのです。ひとつのことに夢中になり、徹底的にやる。そうしたオタク精神もまた、成功の秘訣だと思います。
オタク心なら、すでに持っている人もいるのではないでしょうか。そんなオタク心を発揮して、新しいことに挑戦する。それが、今後の人生を豊かにし、ひいては日本を救うカギになるかもしれません」
※続く