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2024.04.02

「車内ではスマホをいじらず、ぼーっと過ごす」岸博幸、個人の生産性UPのカギ“ウィルパワー”とは

2023年1月、多発性骨髄腫という血液のがんに罹患していることを知った岸博幸氏。余命10年を告げられた岸氏が、闘病の記録や今後の生き方、日本の未来への提案をつづった著書『余命10年。多発性骨髄腫になって、やめたこと・始めたこと。』を上梓。失われた30年で負け組となってしまった日本が復活するためのアドバイスを行っている。今回は、本書には掲載しなかった提言のひとつ、ウィルパワーについて紹介しよう。

ウィルパワーとは長期的な目標に向けて頑張る能力

”失われた30年”で経済力が格段に落ちてしまい、今やG7の中でも負け組になってしまった日本。挽回するには国の政策や社会構造の転換などが急務だが、同時に求められるのが、国民ひとりひとりが生産性を高めること。

「ウィルパワー(WILL POWER)という言葉を聞いたことがありますか? アメリカの心理学者、ロイ・バウマイスターが広めた理論で、彼は、『意志決定と実行を可能とする精神的なエネルギー』と定義しています。僕自身は、アメリカ心理学会の『短期の誘惑に耐え、長期的な目標に向けて頑張る能力』という定義の方がしっくりくるのですが、いずれにしても、現代の日本人が重視すべき能力だと思います」 

バウマイスターの研究によると、ウィルパワーの高さと学業や仕事での成功、リーダーシップ、良好な婚姻関係などの間には相関性が認められ、逆に、ウィルパワーが低いと過食や肥満、非行、犯罪、ギャンブルなどのリスクがアップ。確かに、後者は、目の前の誘惑に陥りやすく、意志の弱い人に多く見られる事象だ。

「1日に使えるウィルパワーの量には限りがあり、意思決定を行うたびに消費され、使い過ぎると疲労して質が落ちる上に、ストックが枯渇。最終的には機能しなくなってしまうのだとか。となると、直感や衝動によって短絡的な行動をとってしまったり、“何もしない”という安易な選択をしがちになります」 

大人は1日に3万5000回意思決定をしている

神経心理学者のバーバラ・サハキアンは、大人は1日に約3万5000回もの意思決定をしている(子供はその1/100の約3000回)という研究結果を発表している。「そんなに⁉」と驚かされる数字だが、朝何時に起きるかに始まって、朝食に何を食べるか、朝食の何から食べるか、どんな服を着るか、どのテレビ局でニュースをチェックするか、何時に家を出るかなどなど、私たちは、数分、いや、数秒ごとに意思決定をしている。そう考えると、この数字も頷けよう。

ウィルパワーは有限なので、無駄使いしていたら肝心な時に力を発揮できない。「大事なことは午前中に考え、決定した方がいい」と言われるのは、そうした意味合いもあるのだろう。

「アップル社の創業者、スティーブ・ジョブスはいつも黒のタートルネックのシャツにジーンズでしたが、これは服を選ぶことにウィルパワーを使わないためだったそう。ジョブズに限らず、欧米では、そうしたルーティンを持つ成功者が少なくありません。彼らは、ウィルパワーの重要性を認識しているから、“ここぞ”という時にそれを発揮できるよう、温存しているのでしょう」

ゲームやネットサーフィンはウィルパワーの無駄使い

「それに対して、日本ではウィルパワーの重要性を認識していないせいか、どうも無駄使いしている人が多い印象を受けます。たとえば、朝の通勤電車の中。スマホでゲームをしている人がたくさんいますが、スクリーン上に次々に出される課題をクリアするために、いったいどれだけのウィルパワーを使っていることか。朝っぱらからそんなことをしていては、ウィルパワーはすぐに枯渇し、仕事で重要な決断なんてできない気がします。少なくても、大きな成果は出せないでしょうね」

ネットサーフィンやSNSのチェックも同様。ドーパミンは新しい刺激を求める。ネットやSNSで次々と新たな情報がアップされれば、飛びつきたくなるのは人間の性ではあるものの、どのサイト、ページを見るかという“意思決定”をその度にすることになる。結果、ウィルパワーは大量に消費されてしまう。

「ちなみに僕は、電車の中ではスマホはいじらず、ぼーっと過ごすようにしています。皆さんにも経験があると思いますが、そうした時間に、悩んでいた問題の解決策が浮かんだり、新しい発想がひらめいたりすることが多々あるんですよ」

個々の生産性をあげるのに不可欠なウィルパワーの重要性、今一度考えてみたい。

※続く

TEXT=村上早苗

PHOTOGRAPH=杉田裕一

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