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2024.03.27

稲葉篤紀が学んだ、野村克也の「言葉の力」【最終回】

戦後初の三冠王で、プロ野球4球団で指揮を執り、選手・監督として65年以上もプロ野球の世界で勝負してきた名将・野村克也監督。没後4年を経ても、野村語録に関する書籍は人気を誇る。それは彼の言葉に普遍性があるからだ。改めて野村監督の言葉を振り返り、一考のきっかけとしていただきたい。連載「ノムラの言霊」最終回。

野村克也連載・最終回/ 「言葉の力」で人を育てる。

「準備」する野球

ボヤキが代名詞だった野村克也だが、ヤクルト時代の教え子、稲葉篤紀、土橋勝征、真中満にいたっては「努力家三羽烏だ」と褒めることしきりだった。

だが、稲葉は1度だけ野村に強く叱責されたことがある。

稲葉がプロ3年目の1997年、西武との日本シリーズ。ヤクルト1勝で迎えた第2戦(西武球場)、5対5の延長10回表一死二塁、森慎二投手のフォークボールに稲葉は空振り三振を喫した。

「配球をもっと考えなさい! あそこは変化球で落として三振を取りに来るというのがわかるだろう。ストレートが来るわけない。何であの場面でフォークを簡単に振るんだ」

結局、試合はサヨナラ負け。野村が言わんとしたことは「配球を読む」、つまり「準備」することだ。

ダグアウトやネクストバッターズサークルで、相手バッテリーの配球を整理し、「準備」してから打席に臨む。そうすれば、いい結果につながる。

その後、稲葉が日本ハムファイターズに移籍して迎えた2006年、プレーオフ第2ステージでソフトバンクホークスと激突。日本ハムが初戦を勝ち、アドバンテージ1勝を含め、日本シリーズ出場に王手をかけた2戦目だった。

0対0の9回裏二死一・二塁。マウンドでは“負けないエース”斉藤和巳が、1回から投げ続けていた。

初球は151キロのストレート。しかし、稲葉はフォークボールしか待っていなかった。

1997年日本シリーズの森慎二との対戦が頭にあった。フォークを予測できた。しかも、それまでの3打席、稲葉はフォークを中心に打ち取られていた。

さらに初球にストレートを投じられた時点で、その予測は確信に変わった。

「ストレートは見せ球だ。次はもうフォークしかない」

フォークにアジャストした打球は、投手の足元を抜けた。二塁ベース後方で二塁手が好捕したが、二塁へのトスはセーフ、その間に二塁走者・森本稀哲(ひちょり)が三塁を回って生還し、サヨナラ勝ち。

敗戦の瞬間、斉藤は膝から崩れ落ちた。

野村が喜んだ「両チームでの胴上げ」

2009年を最後に勇退した野村は43年間のユニフォーム人生を回顧し、印象深かった3つの出来事を挙げた。

・1963年、シーズン52本塁打(当時の日本新記録)
・ヤクルト監督時代、4度の優勝
・2009年、楽天・日本ハムの合同胴上げ

2つめと3つめには、稲葉が絡んでいた。

2009年、「野村・楽天」と稲葉が所属する日本ハムは、日本シリーズ進出を決めるクライマックスシリーズ第2ステージで対戦(札幌ドーム)。

野村はこの年限りの退任が決まっており、選手たちは野村のラストゲーム後に、胴上げをすることを考えていた。しかし、楽天のリーダー格の山﨑武司は悩んでいた。

「出来ることなら、勝って野村監督を胴上げしたい。でも、もしここで負けてしまった場合、日本ハムの本拠地だからビジターの自分たちが勝手なことはやれない。どうしたらいいものか……」

試合は4対9で日本ハムが勝利し、楽天は敗退。楽天の選手たちが野村監督の胴上げを始めようとする輪に、稲葉は一目散に向かった。

「武司さん、入っていいですか」
「一緒にやろうよ! さあ、行くぞ!」

日本ハム側から吉井理人投手コーチ(1995~1997年に野村ヤクルトの下で3年連続2ケタ勝利/現・ロッテ監督)、森本稀哲も駆けつけてあの感動的な「両軍合同胴上げ」になった。

野村は5度宙に舞った。

「最後の合同胴上げは、幸せな瞬間だった。あのONだってあんなことはなかったぞ。ワシのこれまでの野球界へのせめてもの貢献を、野球人の後輩たちは認めてくれていたのかなぁ。最後の最後に、野球の神様がご褒美をくれたのかなぁ」

野村監督に教えられた「言葉の力」 

稲葉は述懐する。

「野村監督から学んだことは『準備』、そして『言葉の力』です」

東京五輪の監督を務めた稲葉は、大会直前にこう話した。

「ひと昔前と違い、最近は選手としっかりとコミュニケーションを取っていく時代に変わってきました。どういう言葉がこのチームにとって前向きになるのか、口先だけではなく、しっかりと相手に伝えていくことを大事にやっていこうと考えています」

結果、見事金メダルに輝いた。

監督、コーチにメダルが用意されていなかったが、選手が自分のメダルを外して稲葉監督の首にかけたシーンは、稲葉監督と選手の心が通い合っていたのを感じさせたシーンだった。

稲葉は2024年シーズンから、日本ハムの2軍監督を務める。2軍で調整する1軍の選手、2軍から1軍昇格をめざす若手選手など、すなわち「1軍準備」選手たちの指導だ。

稲葉と新庄剛志1軍監督とは、現役時代から心が通い合っている。

2年連続最下位に沈んだ日本ハムの「3年目の逆襲」に向けて、期待は高まるばかりだ。

まとめ
野球でもビジネスでも、あらゆる状況に備えて「準備」することが大切。そして、人を育てるのは「言葉の力」である。

著者:中街秀正/Hidemasa Nakamachi
大学院にてスポーツクラブ・マネジメント(スポーツ組織の管理運営、選手のセカンドキャリアなど)を学ぶ。またプロ野球記者として現場取材歴30年。野村克也氏の書籍10冊以上の企画・取材に携わる

TEXT=中街秀正

PHOTOGRAPH=毎日新聞社/アフロ

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