『SMAP×SMAP』『めちゃ²イケてるッ!』など数々のテレビ、ラジオ番組を手掛けてきた放送作家の鈴木おさむが、放送作家業と脚本業を辞めると発表した。30代後半、40代になると、仕事に対して新たな不安や戸惑い、疑念が出てくる。32年間続けてきた仕事をなぜ、今辞めるのか。インタビュー後編。 #前編
51歳から目指す“新しい場所”
2024年3月31日をもって放送作家を辞める鈴木おさむが書いた、最初で最後のビジネス書『仕事の辞め方』が発売された。
大学を中退して放送作家となり、数々の伝説的な番組に携わってきた超売れっ子がなぜそのキャリアを捨て、新しい道に進もうとしているのか。引退を発表してから、わずか1ヵ月弱で書かれた本書では、自身の会社員人生を俯瞰で見ることを勧めている。
僕はたまに、今の自分がドラマの出演者だったらどんな役でどんな風に見えているだろうと考えます。ドラマ『半沢直樹』だったら、自分はどの役なんだろうと。
『仕事の辞め方』
そうすることによって、「あれ、今の自分、めちゃくちゃ嫌な役じゃない?」と気づけたりします。
(中略)まるで他人の人生を振り返るように、俯瞰で見てみるのです。
3〜5年単位で区切ってみて、自分の人生を俯瞰で見ると、この人の人生、生き方は「おもしろいか?」「おもしろくないか?」がわかってきます。
放送作家という仕事に以前ほどワクワクしなくなった鈴木が2024年4月から始めるのは、若い人たちを応援、支援する仕事だという。
「人が好きなので、人を育てたい。詳しいことはまだ話せませんが、テレビで伝説をつくることができたので、新しい場所でも伝説に残るようなことをやりたいと思っています。
テレビの世界に戻ることはもうないと思います。『めざましテレビ』の司会をやれといわれたら考えるかもしれないけど(笑)。あとはNHKの大河ドラマと朝ドラの仕事だったらやってみたいですね。両方ともアイデアはあるんですよ。それが実現するとしたら、戻るかもしれません」
『スマスマ』が時代を変えた
30年以上にわたったテレビの世界の仕事でいちばん印象に残っているのは?
「やっぱり『SMAP×SMAP』ですかね。20年間SMAPのメンバーと向き合って、僕自身の人生も大きく変わった。1996年4月16日にあの番組が始まり、大きな成功をおさめたことで旧ジャニーズ事務所の力が強くなり、メディアを支配していくことになった。そして最後は2016年に悲劇的な結末を迎えるんですが、それが現在までつながる流れとなった。その台風の目の中に、僕はいたわけです。
以前は自分の代表作が『スマスマ』だと言うことに抵抗があったんですけど、今は胸を張って言えますね。時代を変える番組を自分は作っていたんだと」
鈴木が去ろうとしているテレビの世界は、今激動の変革期を迎えている。
「僕が辞めると聞いて『いいときに逃げますよね』みたいなことを言う人もいた。そんなつもりはまったくないし、引退の決断は自分自身の理由でしかない。これからどんどんテレビのルールというか作り方も変わってくると思うんですけど、そこに僕がワクワクできるかというと、そうは思えない。それより新しい場所に向かいたいなと」
妻・大島美幸は欠かせない存在
妻で芸人の大島美幸は鈴木の引退の決断を「いいじゃん」と受け止めてくれたという。
「彼女は僕の仕事に興味ないから(笑)。でもやっぱり妻は自分が戻る場所、リセットできる場所。
調子に乗っているときはそう言われるし、いま気持ち悪いよって言ってくれる。自分がいるべき座標軸を確認するために欠かせない存在です。
僕らの関係性がこれからも変わることはないと思いますけど、これから老いていき、いずれ死を迎える。このままの関係が続くわけではない。そのときにどうすべきかみたいなことはすごく考えていますね」
『仕事の辞め方』に書かれている「つらい現実があるなら、次を目指そう」というメッセージは、未来ある若い人には当たり前のことなのかもしれない。でも鈴木がそう伝えたいのは、もう決して若いといえない40代、50代のビジネスパーソンだ。
キャリアを積んできた。老後も迫っている。それでも立ち止まらず、一歩前に進もう。彼の言葉は、迷っている人々に大きな力を与えてくれるかもしれない。
鈴木おさむ/Osamu Suzuki
1972年千葉県生まれ。大学生のときから放送作家として活動開始。『SMAP×SMAP』『めちゃ²イケてるッ!』など数々のテレビ、ラジオ番組で活躍。『奪い愛、冬』『M 愛すべき人がいて』など人気ドラマの脚本を手掛ける。2023年10月、2024年3月31日で放送作家を辞めることを発表。現在、最後の脚本作となる地上波連続ドラマ『離婚しない男 ―サレ夫と悪嫁の騙し愛―』が放送中。