数多ある音楽、本、映画、漫画。選ぶのが難しいからこそ、カルチャーの目利きに最上級の1作品を厳選して語ってもらった。今回紹介するのは、デザイナーの三原康裕。【特集 最上級主義2024】
「僕の原点。11歳の時の福岡を思い出させてくれるヒップホップ」
「1982年、アフリカ・バンバータの『プラネット・ロック』をカセットテープがすり切れるほど聴きこみました。僕は福岡の小学生で、ブレイクダンスに夢中で、毎夜中洲にあったディスコ、『スーパー・スタジオ』に通っていた。
当時はヒップホップの黎明期で、ミクスチャーが大音量で鳴り響き、ディスコのDJには、発想はゼロから生まれるばかりではなく、体験から得た細かいエッセンスのミクスチャーでもあることを教わった。
店にいる子供は僕ひとり。お兄さんたちはダンスを教えてくれて、お姉さんたちはチークや膝枕もしてくれる。そんな風なので学校には当然なじめず、迷彩のカーゴ服で登校し、先生に叱られていました。子供らしさのない子供ですね。
数年後、東京の美術大学在学中にファッションブランドを興しました。すると、今度は学生なのに学生らしくなく、既存のファッションシーンのデザイナーらしくもない、異端児のように扱われた。でも、それは僕にとって思いのほか心地よかった。自分らしい立ち位置だと感じられたから。
あの時、ディスコに通っていた10代の頃を思い出したんですよ。子供らしくなく大人とも違う僕を。この“らしくない”に自分の居場所がある。既存のカテゴリーに属さないことに美意識を感じたのです。今でもこの曲を聴くと、福岡時代の自分に戻れる。あのサウンドが僕の原点です」
この記事はGOETHE 2024年2月号「総力特集:最上級主義 2024」に掲載。▶︎▶︎購入はこちら ▶︎▶︎特集のみ購入(¥499)はこちら