「形式ばって人から言われると少しショックだなって思うことって、ありませんか?」人から言われた何気ない一言を、最近新たな一つの個性として静かに受け入れたと語るYUさん。第8回は「寄り目」をテーマにお届けする。連載「大川放送局」とは
第8回「寄り目」
先日、コンタクトレンズを買うための処方箋をもらいに(めんどくさいんだけど)眼科にいったのだが、僕の検査を担当してくれた方は何やらプンスカしていた(年末だからなのだと思う)。そして、その何やらプンスカしている検査を担当してくれた方は、プンスカしながら僕に簡単な視力検査を施した。僕は、上ですとか、下ですとか、口の空いた丸の向きを順番に答えていく羽目になった。わからなかった時はこんなこともわからない愚かな僕でごめんなさい。という気持ちをこめて、わからないです。と答えた。
いつもの検査のあと、何やら別の部屋に連れて行かれた。これはいつもの流れとは違った。次はこの光を見なさいと言われ、(いや、実際には見てくださいと言われたと思う)
僕は言われるがままに、ぴこん、ぴこんと光る、映画『未知との遭遇』に出てくる宇宙船みたいな光の集合体を見せられたわけである。
結果分かったのは、僕の目は人よりちょっと「寄り目」だということだ。
だから何?と言われても、困っちゃうんだけど、僕の黒目はその距離が人よりもいくらか近い、という話である。あっそう。と言われたら、はい。そうなんです。としか答えようがないんだけれど、まあとにかく特にそれに問題があるというわけでもなさそうなので、僕も僕で、ああ。そうですか。確かにそうですね。という感じで、その突きつけられたささやかな身体的欠陥を、新たな一つの個性として静かに受け入れたというだけの話です。でも、考えてみればまったく心当たりがなかったというわけでもなかった。
思い返してみると、割と昔から写真に映る自分の顔はなんだかいつも目が寄っているなあー。なんでだろうと思っていた。愚考した結果、そうか。カメラのレンズの真ん中を凝視しすぎなのか。もう少し優しくレンズを見なければ目というのは寄って写ってしまうのか、カメラ映りって難しいなあと思っていた。
また、以前付き合っていた恋人に“あなたってちょっと寄り目なんじゃない?”と言われ、「まさか」と答えた覚えがある。とまあ、記憶を辿れば、今回が突然突きつけられた宣告というわけでもないし、衝撃の事実発覚というわけでもなかった。
ただライトの消された暗い診察室で、スクリーンに浮かび上がる僕の両目の写真を前に、“お前の黒目は本来あるべき場所にいない”そう告げられると、僕は僕で、本来あるべき場所にいない...僕の黒目はいったい何を象徴しているのだろう。などと、ついくだらないことを考えてしまう。(象徴もクソもなく、ただ僕の目が寄っているだけなんだよなあ)
とまあ、自分でも薄々わかっていたことだけど、改めて形式ばって人から言われるとなんかこう、少しショックだなって思うことって、ありませんか?
なんてコラムを書いていたら2023年もあと少しで終わってしまうところまできてしまったようだ。年の瀬だからなのか、年のセイだからなのか、(なんかライムしてしまった)最近よくこんなことを思うのです。「いつも、こう、もっともっと、って前のめりで、頑張るのもいいけど、たまにはちょっと力を抜いて、生きてみるってのもありなんじゃないか」と。どうせ生きて死んでいくのなら豊かに生きて豊かに死にたい。でも、じゃあ君の思う豊かさって何?って言われると、視力検査の時にボンヤリしてどこに穴が空いているのかを、答えられなかった時のことを思い出す。
自分にとって何が幸せだとか何が豊かさなのか。そういうのって世間やメディアに流されるのもいいんだけど、もしかしたらその流れの先は断崖絶壁が待ち構えているのかもしれないので、僕は今一度、僕の乗るイカダの進路について考える必要があるのかもしれない。
カーペットの上でゴロゴロ寝ている冬の陽だまりのような匂いのする飼い猫の匂いをクンクンと嗅ぎながら、片付けなければならない仕事をほっぽり投げて、ゴロゴロしながら考える。
やっぱり僕って寄り目なのかな?
■連載「大川放送局」とは
80'sサウンドをルーツに持ちながら、邦楽と洋楽の垣根を超えていく4人組ロックバンドI Don't Like Mondays.のボーカルYUの連載「大川放送局」。ステージ上では大人の色気を漂わせ、音楽で人の心を掴んでいく姿を見せる一方で、ひとたびステージを降りた彼の頭の中はまるで壮大な宇宙のようだ。そんな彼の脳内を巡るあれこれを、ラジオのようにゆるりとお届け。