PERSON

2023.10.10

【YU】人との出会いは偶然ではなく、天文学的確率で我々は誰かと出会っている

日々さまざまな人が行き交う空港を奇妙な場所だと語るYUさん。第7回は「空港」をテーマにお届けする。連載「大川放送局」とは

第7回「空港」

空港というのは、実に奇妙な場所だ。ここのところ僕らのバンドが海外での公演が多かったりと、トランジットで一時的に滞在する空港を含めると割と多くの空港で過ごす時間がある。そしてまた今、ヒューストンの空港で成田行きの飛行機を待つまでの間、コーヒーを飲みながらブライアン・イーノの『Ambient1: Music for Airport』のアルバムを聴き、このコラムを書いている。

ご存知の方もいるかもしれないが、このアルバムは、Music for Airportという名の通り、空港のための音楽として作曲されたアンビエントミュージックだ。アンビエントミュージックとは環境音楽のことである。比較的静かな音響の繊細な変化の表現を基調として、特定の場所や空間に雰囲気を添えることを目的とし、1975年にブライアン・イーノが提唱した音楽様式のことである。どのようにして生まれたのかという話には諸説ある。

ある日、イーノは事故に遭う。病院のベッドに縛りつけられ、動けない状況にあったイーノのところへ友人のひとり、ジュディ・ナイロンがお見舞いにと、18世紀のハープのレコードを持ってきた。彼女が帰った後、イーノは悪戦苦闘の末やっとの思いでレコードをかけ、また横になった。すると、アンプのボリュームが小さすぎたのに加えて、片方のスピーカーが鳴っていないことに気がついた。しかし彼には直す元気がなかった。イーノは音がほとんど聞こえないまま、レコードを聴いた。そしてその時、“これは新しい音楽の聴き方だ”と気がつくわけである。彼は「その時の経験が、光の色や雨の音と同じように、環境の一部と化した音楽というものを教えてくれたのだ」と語っているという。

また、ドイツのケルン・ボン空港で、暇を持て余したイーノが「人を落ち着かせ、考える空間を作り出す音楽」というコンセプトを思いついたというシンプルな説もある。彼の日記によれば、作曲するにあたって、次の点に注意が払われたとのことだ。

●中断可能でなくてはならないこと(構内アナウンスがあるから)
●人々の会話の周波数から外れていること(コミュニケーションが混乱しないように)
●会話パターンとは違う速度であること(同上)
●空港が生み出すノイズと共存可能なこと
●空港という場所と目的に関係して、死に備えられるような音楽であること

彼の作ったこのアルバムは、実際にニューヨークのラガーディア空港で使用されたのだが、近年ではアルバム発売40周年を記念して、一日限定でロンドン・シティ空港でも流された。そして今、ヒューストン空港のフードコートの硬い椅子に座り、キーボードをパチパチする僕のJBLのヘッドホンから流されている。僕はイーノの意向に沿ってヘッドフォンのノイズキャンセルの機能を使わないことにした。音量も小さめにし、人の声やアナウンスが聞こえるようにした。すると、面白いぐらい、これまで雑音だと思っていた音も音楽の一部なのだと気がつく。そして僕もまた、イーノの日記に従って、死に備える。

話はだいぶ脱線してしまったが、空港という場所を僕が奇妙だと感じるのは、おそらくいくつかの要素が複雑に絡みあっているからだろう。まず、あらゆる人種、文化、言語、価値観、宗教観、死生観を持った人々がバーガーを買うために列をなしている。僕はそんな光景をみるたびに、『MEN IN BLACK(メン・イン・ブラック)』というSF映画に出てくる、さまざまな惑星からくるさまざまな姿形をしたエイリアンたちが行き交う空港のシーンを思い出す。僕はなぜかあのシーンがとてもワクワクして好きなのだ。

ただおそらく、地球じゃないにせよこの宇宙に存在する、空港的な立ち位置のものはおそらくどこも似たような雰囲気が漂う場所なのだろう。また、行き交う人々の多くはこの場所が最終目的地ではないということも、奇妙性というのをより高めている。空港で働く人以外の人々にとっては、ここはほんの通過点であり、さまざまな事情により一時的にここにいるに過ぎず、時間がくれば本当の目的地へと文字通り飛んでいく。

それは、過去に少なからずの間、僕の元にいた女性たちを連想する。彼女たちは、真実の愛を求めて僕の元から別の場所へと飛び立っていった。時間というのは流れ続けていくものなのだ。そんなことをぼんやりと考えている間も僕の前を白人の老夫婦が通り過ぎる。前の席では、ラテン系の家族が団らんとしている。そして、若い黒人のカップルたちがベーグルを注文している。そんな光景を目の当たりにすると、僕はおそらく彼らともう一生のうちに再び会うことはないだろう、そんなことを思う。

それぞれの世界線がほんの一瞬触れ合い、偶然同じ空間にいたという現象を生み出し、そして静かに離れていく。「出会い」というのは考えれば考えるほど、奇跡的な確率なのだと思えてならない。それはロマンチックな表現としての、この出会いは奇跡という話ではなく、論理的かつ統計的に考えて、天文学的確率で我々は誰かと出会っているのだと感心する。その出会いが良いか悪いかはさておき、どんな意味があるのか? 隠されたメッセージは何か? 僕はそれを探さずにはいられない。

YU
1989年2月26日生まれ。80'sサウンドをルーツに持ちながら、邦楽と洋楽の垣根を超えていく4人組ロックバンドI Don't Like Mondays.のボーカル。日本や海外での音楽活動やそのファッションセンスが多方面から注目を集めており、唯一無二の存在に。現在、YUがメインDJを務めるレギュラーラジオ番組、Interfm「 "I Don't Like Mondays. THE ONE"」、CROSS FM「GROW! I Don't Like Mondays. YUの "大人のレシピ"」が放送中。さらに、2023年10月1日(日)より、5枚目となるフルアルバム『RUNWAY』をひっさげた全国ツアー、2023 A/W TOUR "RUNWAY"が大好評開催中。

■連載「大川放送局」とは
80'sサウンドをルーツに持ちながら、邦楽と洋楽の垣根を超えていく4人組ロックバンドI Don't Like Mondays.のボーカルYUの連載「大川放送局」。ステージ上では大人の色気を漂わせ、音楽で人の心を掴んでいく姿を見せる一方で、ひとたびステージを降りた彼の頭の中はまるで壮大な宇宙のようだ。そんな彼の脳内を巡るあれこれを、ラジオのようにゆるりとお届け。

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TEXT=大川 悠

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