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2023.12.10

【松本幸四郎・市川染五郎】息子が演技に取り入れた、父も気づかぬ“クセ”とは? 新・鬼平犯科帳で親子共演

時代小説の大家・池波正太郎生誕100年を記念し、代表作「鬼平犯科帳」の新たな映像化が2024年1月より始まる。今回、鬼平こと長谷川平蔵を歌舞伎俳優・松本幸四郎さんが、そして息子である市川染五郎さんが若き日の鬼平・長谷川銕三郎を演じる。そんなおふたりに、新たな「鬼平犯科帳」SEASON1、そして親子での共演にかける思いを語ってもらった。

松本幸四郎 市川染五郎

長谷川銕三郎の存在が、鬼平が“鬼”である意味を解く鍵に

池波正太郎三大シリーズのひとつであり、累計発行部数3,000万部を超える大ベストセラー時代小説「鬼平犯科帳」。若い頃は“本所の銕” と呼ばれ放蕩無頼の暮らしを送っていたが、長じてからは無類の剣の技術と鋭い洞察力で火付盗賊改方(ひつけとうぞくあらためかた)の長官になった、“鬼平”こと長谷川平蔵が、配下や密偵とともに江戸を騒がす凶悪な盗賊を取り締まる物語だ。

1969年には初代松本白鸚主演で初めてテレビドラマ化され、以来4度に渡り映像化。なかでも二代目中村吉右衛門が主演したシリーズは、28年に渡り放映され平成を代表する時代劇となった。

そんな今もなお多くの人に愛される時代劇の金字塔が、キャストを一新し2024年1月新たに映像化される。

今回、“鬼平”こと長谷川平蔵を演じるのは松本幸四郎さん、そして若かりし頃の平蔵、長谷川銕三郎(てつさぶろう)役を息子である市川染五郎さんが務め、鬼平の人生を親子で演じることとなった。

歌舞伎では共に舞台に立ち、映像でも共演経験のあるふたり。撮影に入るにあたり、取り立てて親子で特別な話はしなかったというが、「叔父(二代目中村吉右衛門)が演じていた鬼平だけでもたくさんの作品がありますし、小説自体膨大な話がある。私自身もリアルタイムで叔父の映像を見ていました。ですので、これまで築かれてきた鬼平や池波正太郎先生の世界観や、時代劇の熱さのようなものを大事にして作ろうという話をしました」と幸四郎さんは語る。

対する染五郎さんも、父が貸してくれた「鬼平犯科帳」の人物解説が書かれた本を読み込み、時代や登場人物の背景を勉強し、撮影に臨んだ。

「大叔父が演じたシリーズでは銕三郎時代のシーンはあまり描かれていないのですが、それでも何かを感じ取れたらと、そのシーンだけを何度も何度も観ました。理屈ではなく、とにかく銕三郎を自分に染みつかせて演じようと思ったんです。銕三郎というのは、鬼平がやんちゃしていた時代。ギラギラしている危なっかしさみたいなところを出せたらと思って演じました」

松本幸四郎 市川染五郎
松本幸四郎/Koshiro Matsumoto
1973年東京都生まれ。二代目松本白鸚の長男として生まれる。1979年3月、歌舞伎座『侠客春雨傘』で三代目松本金太郎を襲名して初舞台を踏む。1981年10月、歌舞伎座『仮名手本忠臣蔵』七段目の大星力弥ほかで七代目市川染五郎を襲名。2018年1月、歌舞伎座 高麗屋三代襲名披露公演『壽 初春大歌舞伎』で十代目松本幸四郎を襲名。

当時の重罪である火付け(放火)・盗賊(押し込み強盗団)・賭博を取り締まる火付盗賊改方として容赦なく凶悪な盗賊を捕縛しながらも、美味しい料理に目がなく人情味にも溢れるのが平蔵だ。そんな平蔵の若き日、銕三郎をどう描くか。それが「新たな鬼平犯科帳」の重要な鍵になることは幸四郎さんも感じていたという。

「悪に徹底的に対峙することから“鬼の平蔵”いわゆる鬼平と言われていたわけですが、その原点が銕三郎の姿にあると思うんです。若い頃は“本所の銕” と呼ばれていたようにとにかく悪童、簡単に言えば悪い奴(笑)。それが今では悪党を徹底的に取り締まるトップになっているわけです。それも凶悪犯担当だから怪しいと思えばとことん追うし、斬ってくるなら斬り返す。そういう強さの源というか、なぜ“鬼の平蔵”と言われたのかということをすごく大事にして作られたのが、今回の作品です。そういう意味でも、銕三郎という存在は、この作品の核になる役だと思っています」

演じるのは同一人物。互いの演技に役の神髄を見る

今回ひとつの役の異なる世代を演じるため、ふたりが同じシーンに登場することはないのだが、お互いに演じている撮影現場は必ず見学していたという。

「演じるうえで、やはり銕三郎があって自分の平蔵がある。銕三郎がどういうキャラクターになっているかを知るためにも、撮影現場に見に行っていました」

染五郎さんも父である幸四郎さんの演技を見ることは、とても大事だったと語る。

「父の平蔵と僕の銕三郎は同一人物。父の平蔵の演技を見て、銕三郎がこの姿になる過程のひと場面を自分が演じるのだと意識することができました。自分が演技をする時も、父の平蔵の姿へと向かっていく感覚を大事にしていました。ただ自分の未来を見ているような、不思議な感覚にもなりましたね」

現場で父の平蔵を見て、染五郎さんが役に活かしたこと、それは父も気づかない小さな仕草だったという。

「平蔵が歩くとき、裾を少し持っていたんです。だから自分も歩くシーンでは同じように裾を持って歩いていました。実は父は普段もそうなので、小さなことですが取り入れてみたんです」

「そうだったの? それは今初めて知りました(笑)」と驚きながらも、染五郎さんの鋭い観察眼を誇らしく思っていることは、その笑顔からもうかがい知ることができる。

松本幸四郎 市川染五郎
市川染五郎/Somegoro Ichikawa
2005年東京都生まれ。十代目松本幸四郎の長男。2007年6月、歌舞伎座『侠客春雨傘』で初お目見え。2009年6月、歌舞伎座『門出祝寿連獅子』で四代目松本金太郎を名乗り初舞台。2018年1月、歌舞伎座 三代襲名披露興行『勧進帳』源義経ほかで八代目市川染五郎を襲名。

役を追求する、その努力はこれからの時代劇の戦力に

染五郎さんの現場を見るのは、やはり親としての心配も?と聞いてみれば、「いやぁ、やっぱりなんとなく気になるでしょう(笑)」と父としての本音も。

ただそんな心配を振り払うかのように、役者の先輩として改めて気づくこともあったという。

「いや、“意外に”という言葉をまずはつけたいのですが(笑)、我が子ながら、時代劇において意外と戦力になるなと。私自身、この鬼平犯科帳だけではなく、時代劇全体を何とかしたいという思いがあるのですが、その視点で見た時に、彼は時代劇の戦力になるものを十分に持っているのではないかと感じたんです」

その裏には、「殺陣が好き」という染五郎さんが、この作品のために殺陣を徹底的に稽古した努力があり、それが演技者の先輩からの率直な評価を得たとい言うことだろう。

ただ今回の銕三郎役の殺陣は、かなり苦労したと染五郎さんは語る。

「殺陣といっても、実は刀を使っていないんです。刀を腰に差しているのに、銕三郎はそれを抜かずに拾ったような木の棒を使うので、斬る・刺すではなく、殴ったり突いたりという殺陣です。振り下ろす動作でも、普通の殺陣のように斬るように見せるのではなく、殴っているように見せなくてはいけない。それがすごく難しかったですね。

でもそこがまさに銕三郎らしさでもあるんです。『俺は刀なんか使わなくたって倒せるんだ』というプライドがある。『俺が一番だ』という自信が垣間見える、やんちゃな銕三郎を表現する大事な要素だったと思います」

後編では仕事だけではなく、父と子としてふたりの関係性についても話を聞く。

池波正太郎生誕100年企画「鬼平犯科帳」SEASON1
テレビスペシャル『鬼平犯科帳本所・桜屋敷』:2024年1月8日(月・祝)13:00〜/19:00〜
劇場版『鬼平犯科帳 血闘』:2024年5月10日(金)公開
連続シリーズ『鬼平犯科帳 でくの十蔵』『鬼平犯科帳 血頭の丹兵衛』は2024年5月以降、「時代劇専門チャンネル」にて放送
出演:松本幸四郎、仙道敦子、中村ゆり、火野正平、市川染五郎ほか豪華キャスト

<衣装 ※松本幸四郎さん着用分>
ジャケット、シャツ、チーフ/すべてブリオーニ(ブリオーニ クライアントサービス TEL:0120-200-185)、その 他スタイリスト私物

<衣装 ※市川染五郎さん着用分>
ニット¥147,400、ジャケット¥528,000、パンツ¥187,000、ベルト¥106,150、ブーツ¥403,700(ベルルッティ/ベルルッティ・インフォメーション・デスク TEL:0120−961−859)、その他スタイリスト私物

TEXT=牛丸由紀子

PHOTOGRAPH=倭田宏樹(TRON)

STYLING=川田真梨子(松本幸四郎)、中西ナオ(市川染五郎)

HAIR&MAKE-UP=林摩規子(松本幸四郎)、AKANE(市川染五郎)

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