PERSON

2023.11.14

ジェンダーフルイドなデザイナー・進美影にとって、“ダイバーシティ”なファッションは存在しない

26歳で一般企業を辞め、アメリカのパーソンズ美術大学に入学。自身のブランド「MIKAGE SHIN」を立ち上げ、NYやパリのファッションウィークにコレクションを発表してきた進美影に、デザインの本質や“ダイバーシティ”の意義について聞いた。■連載「NEXT GENERATIONS」とは

進 美影/Mikage Shin
1991年東京都生まれ。早稲田大学卒業後、一般企業に入社。退社後、2017年にNYのパーソンズ美術大学に入学し、New York Fashion WeekやParis Fashion Weekなどで、自身のコレクションを発表。日本だけでなく「VOGUE ITALIA」や「ELLE」など、海外のメディアにも多数取り上げられる。

「VOGUE」にも紹介された新進気鋭デザイナー

今、日本だけでなく海外からも注目を集めているデザイナーがいる。

2019年、NYでブランド「MIKAGE SHIN」を立ち上げた、ファッションデザイナー・進美影だ。

26歳で大手広告代理店を辞め、デザインを学ぶために単身渡米。世界3大美大と呼ばれるNYのパーソンズ美術大学で、ファッションやアートの基礎を学び、デザイナーとしての活動をスタートする。

女性の内面的な美しさや力強さを表現した、独創的なスタイルが欧米で高い評価を受け、NYやパリのファッションウィークで自身のコレクションを発表した。

また日本でも、乃木坂46の楽曲「Actually...」のミュージックビデオで衣装デザインを担当。ドイツの哲学者・ニーチェの手記がプリントされた奇抜な衣装は、若い世代を中心にSNSなどで大きな話題になった。

哲学者・ニーチェの手記をテキスタイルに使用した乃木坂46の衣装デザイン。4つのパターンが用意されており、それぞれ生地の特質を生かしながら異なる印象を与える。

そんな進のデザインの特徴は、着る人の性別や年齢にとらわれず、各々が好きなスタイルでファッションを楽しめる“制限のなさ”にある。

「ジェンダーレス」「ボーダーレス」「エイジレス」という3つの“レス”をコンセプトに掲げ、あえてメンズやレディースに分けず、ユニセックスとしてデザインされたコレクションの数々は、男性でも着用できるドレスやスカートなど、独自の“美学”を世に打ち立ててきた。

2023年9月にオープンした初のMIKAGE SHIN直営店。建築家・小田切駿が内装デザインを担当し、長さ約40mの鋼材がハンガーラックの役割を果たしながら店内を縦横無尽に広がっている。

ダイバーシティなファッションは存在しない

「ここ数年、“ジェンダーレスファッション”についての取材を受けることが増えました。『ダイバーシティについてどう思いますか?』とか、『ジェンダーレスなファッションを作る意義とは?』って聞かれたりします。

でも、“ダイバーシティ”なファッションってないと思うんですよ。ファッションは、そもそも制限がないものですから。ただ着たいものを、着たい人が着ているだけで。自由に好きな服を着ている人を見て、周りの人が『ダイバーシティだ!』と言っているだけに過ぎないんじゃないかなって」

白いワンピースを着た男性モデルが、世界的なファッションショーでランウェイを歩く。そんなジェンダーの固定概念に縛られないスタイルを確立してきた進のデザインは、これまで“男性にも着やすいドレス”と多くのメディアに紹介されてきた。

実際にNYのファッションウィークで披露されたMIKAGE SHINのコレクション。

しかし、進自身は、もともと“ジェンダーレス”というコンセプトで服をデザインしていなかったという。

「デザインを学び始めた頃は、女性をエンパワーメントする服を作りたかったんです。女性だと学歴やキャリアがあっても意味がないとか、現代でもそもそもスタートが違い女性蔑視や生き辛さがある。

私自身も、身体を一々性的な目で見られることが嫌だったり、女性らしい服装を求められたりすることに違和感を持っていて。あえてメンズの服を着ることが多かったです。その影響もあってか、自然とデザインがユニセックスなものになっていきました」

女性のボディラインを過度に強調せず、個人の知性や内面性を表現する。自身が経験してきた“ルッキズム”に縛られない、自由なファッションスタイルを生みだすために、進はさまざまなデザインを模索してきた。

そんな進だが、パーソンズ美術大学でデザインを学ぶなかで、ファッションに対する考え方に少しずつ変化が生まれた。

「初めての学期で製作したコートを、クラスの男の子たちが『僕も着たい』って言ってくれたんです。レディースとして作っていたけれど、着たいと思ってくれるのであればこちらが制限する必要もないなって。

それに、すべての人がフラットに着られる服を作った方が、男性の自尊心も満たされるし、巡り巡って女性に対する扱い方もフラットになる。皆が生きやすくなるんじゃないかと思ったんです。それで、敢えて“ジェンダーレス”という言葉を使い始めました」

その後、進は男性モデルにスカートをスタイリングした写真をSNSに投稿。男性が自然にスカートを着こなす姿に、多くの人から「格好良い」や「着てみたい」というコメントが寄せられた。

大理石をテーマにデザインされた最新コレクション。日本の北陸で生産された肉厚なサテン生地を使用することで、袖に独特なボリューム感を持たせた。

現在、ブランド「MIKAGE SHIN」の購入者は、約7割が男性なのだとか。ファッションを“ジェンダーレス”とわざわざ言語化することは本意ではないと進は語るが、今はあえて3つの“レス”を掲げて販売をしている。

「“ダイバーシティ”や“ジェンダーレス”と言葉にすることで、『こういうスタイルもあるんだ』と、初めて認知してもらえることもある。今は日本のファションにおいてそれが黎明期なので、あえて言語化するようにしています。多様なファッションへの本質的な理解が広がればと思います。

ちょっとドライかもしれませんが『そういう考え方もあるよね』と、他人に過干渉にならず不干渉になる部分も必要だと思います。お互いへの尊厳を忘れずに、一定の距離で尊重し合えればいい。

そのためには、まず個々人が自分の人生をしっかりと生きることで、自己不満をなくしていく。そうすることで、他者への不必要な攻撃や過干渉がなくなり、それぞれの生き方への尊厳が保たれるんじゃないでしょうか」

自らが着たいと思うものを着る。それがファッションの本来の楽しみ方であり、ファッションが自己表現のツールであり個人の幸福になる方法でもある。そう考える進は、これからも独自のスタイルで真に“自由なファッション”を生みだし続ける。

■連載「NEXT GENERATIONS」とは
新世代のアーティストやクリエイター、表現者の仕事観に迫る連載。毎回、さまざまな業界で活躍する10~20代の“若手”に、現在の職業にいたった経緯や、今取り組んでいる仕事について、これからの展望などを聞き、それぞれが持つ独自の“仕事論”を紹介する。

↑TOPへ戻る

TEXT=坂本遼佑

PHOTOGRAPH=デレック槇島(StudioMAKISHIMA)

PICK UP

STORY 連載

MAGAZINE 最新号

2025年1月号

シャンパーニュの魔力

最新号を見る

定期購読はこちら

バックナンバー一覧

MAGAZINE 最新号

2025年1月号

シャンパーニュの魔力

仕事に遊びに一切妥協できない男たちが、人生を謳歌するためのライフスタイル誌『ゲーテ1月号』が2024年11月25日に発売となる。今回の特集は“シャンパーニュの魔力”。日本とシャンパーニュの親和性の高さの理由に迫る。表紙は三代目 J SOUL BROTHERS。メンバー同士がお互いを撮り下ろした、貴重なビジュアルカットは必見だ。

最新号を購入する

電子版も発売中!

バックナンバー一覧

SALON MEMBER ゲーテサロン

会員登録をすると、エクスクルーシブなイベントの数々や、スペシャルなプレゼント情報へアクセスが可能に。会員の皆様に、非日常な体験ができる機会をご提供します。

SALON MEMBERになる