実母との関係について綴ったエッセイ『Dear ママ』を上梓した吉川ひなのさん。インタビュー前編では過去を乗り越えるために考えてきたこと、そして、子供たちと過ごす今について語る。
ずっとずっと私は母を愛しています。大嫌いだけど大好きでした
“ああよかった、大丈夫だ。
うちの子たちはわたしのようには、誰もなっていない”
これまで明かすことのなかった幼少期の心の傷、実母との複雑な関係、母の死を経た現在までの心の機微とその壮絶な体験を、2年の歳月をかけて綴った吉川ひなのさんの著書『Dear ママ』。そのなかには、上記のような一文がある。
「私は子供を産まない。若い頃はずっとそう思っていました。
けれど夫に『なぜそんなことを決めてしまうのか』と言われて、そこから『もし、子供を産むことになったら、私はどうすべきなのか』をすごく考えてきました。そうやって妊娠する前からずーっとひたすらに、子供たちのこと、自分の新しい家族のことを考え続けてきたから、実際に生まれて子育てしていくなかで、悩んだことは実はあまりないんです」
本書の中で、一人で眠るのが怖かったと綴る吉川さん。大人になってからも誰かがそばにいないと「怖い夢を見たらどうしよう」など、まだ起きてもないことを考えすぎて眠れなくなってしまうという。
けれど3児の母になった今、吉川さんの子供たちは、元気に部屋をかけまわり、11歳になる長女は、吉川さんの幼少時代とは違って「暗いとよく眠れる」と、暗闇を怖がることは決してない。
“ああよかった、大丈夫だ。
うちの子たちはわたしのようには、誰もなっていない”
そう思うことができたから、これまで蓋をしていた母親への思いに向き合うことができたという。
「母が生きている時に、一度だけ言ったことがあるんです。『ママも、もっと誰かに大切にされなければいけなかった。もっと愛されたかった、抱きしめられたかったんだね』と。勇気を出して言ったけれど、母は何も答えませんでした。そこから、母について考えるのはやめていたんです。けれど子供たちを見ていて、もう思い出しても大丈夫なのではないかと。
子供の頃から、何をされても私は母を愛しています。大嫌いだけど大好きでした。それを私もうまく伝えられていなかった。でもこうして今、母とのことを考えて、一冊の本を書き上げられました。
あの時の小さな私のままではなく、少しずつ前へ進めているからだと思います」
自己嫌悪になるより先に、子供たちに謝る
子供たちと接するにあたり、意識していることがある。それは尊重すること、恐怖を植えつけないこと、支配しないこと。
「なんでも子供の意見をちゃんと聞いて、どうしたいか、家族みんなで話し合うようにしています。例えば私は大きい音が苦手で、特に夜、大きい音を聞くと疲れてしまう。
そういう時は、子供たちに理由を説明して、『19時以降は寝る準備に入る時間だし、静かに過ごすと決めるのはどうかな』と提案するようにしています。
『夜は静かにするものなの!』とか『ダメなものはダメ! 理由なんてない!』というふうに大人の権力を使って、理由を説明せずに支配しようとしないこと。『寝ないとお化けが来るよ』と恐怖を植えつけるようなことは絶対にしません」
それでも、子供を注意する時「ああ、嫌な言い方してしまったな」と思うことがあるという。急いでいるからきつい言い方になる、疲れているから冷たい言い方になる……。世の母親・父親は、そのことで自己嫌悪に陥ることもあるだろう。
「私は自己嫌悪になるより先に、すぐ子供たちに謝るようにしています。『さっき急いでいて、嫌な言い方しちゃってごめんね』『まだママ修行中なんだ(笑)。ごめんね』と」
子供の立場になって、考えてみたら納得できた
11歳、6歳、2歳の子供たちの育児は、毎日がカオスであろうことは想像に難くない。
「特に下の2人は、『ここから飛び降りてみよう』とか、『なんでこんなに命懸けの遊びをしてるの!?』っていうようなことばかりなんですよ(笑)。この前もどこからかたくさんの棒を持ってきて、『どこで拾ったのー!?』と思ったら、テーブルの足が1本なくなっていたり(笑)。もうなんで私はこんなに日々くたくたなのか、これについても、ちょっと考えてみたんです」
吉川さんが考えた末に辿り着いた結論、それは「意外と3人とも我慢してくれている」ということだった。
子供が1人や2人であれば、子供たちはそこまで自己主張をしなくても、希望を両親に叶えてもらえる。けれど3人になると、そうもいかない。朝起きてから眠るまで、そして自分の希望を叶えてもらうまで、彼らは自己主張を続ける。
考えてみると、子供のうちは、まだまだ自分のやりたいこと、希望を言わないと自分ではできないことだらけなんですよね。
特に、下2人はお腹が空いたからといって自分で何かを用意することはできないし、公園に行きたいとか、眠いとか、彼らの希望というのは全部生きていくために大事なことだらけなんです。
ああ、この子たちなりに頑張って我慢してくれているんだ。何も意味なく、ママのことを邪魔しているんじゃないよねと思ったらスッキリしました。同時に愛おしくなって『いいよ、もっと希望言ってよ』という気持ちになりましたね(笑)」
このインタビューで吉川さんは、何度も「考える」という言葉を使った。妊娠前から、子供を産んだらどうすべきか考え、実母について考え、今、目の前の育児の課題についても考えてきた。
「なぜ、そうなのだろうか」。どんなことにも一度まっすぐに向き合い、考える。だからこそ今、過去を自ら断ち切り、日常の瑣末(さまつ)な問題に心を乱されることなく、彼女は笑顔でいられるのかもしれない。
後編ではパートナーとの関係性について聞く。
吉川さん着用衣装:ワンピース¥ 89,100(edit & co. Dress Me / edit & co. TEL:03-5464-7767) ネックレス ¥6,000(グレイ/ブランドニュース TEL:03-3797-3673) ピアス ¥24,090(ripsalis)、リング ¥38,500(タラッタ/ともにロードス TEL:03-6416-1995)