強豪国を破り、W杯ベスト16という結果を残したサッカー日本代表。だが、森保一監督への評価は少し複雑だった。それはなぜなのか。スポーツライター・金子達仁が各人へのインタビュー取材から迫る。連載4回目。【#1】【#2】【#3】
W杯後、森保監督の評価がイマイチだった理由
きっかけは、リーガ・エスパニョーラだった。
「ロナウジーニョが来る前のシーズンぐらいだったかな。ルイス・エンリケがまだ現役だったころ。彼とプジョールが大好きで。リーガ・エスパニョーラというか、バルセロナにハマりました」
1998年からJスカイ・スポーツ(現Jスポーツ)がバルセロナ戦、レアル・マドリード戦を中心に中継を開始したリーガ・エスパニョーラは、ほぼすべての試合で実況を担当した倉敷保雄アナの特徴的な言い回しもあって、カルト的な人気を博していた。とはいえ、放送される時間帯は深く、また、スペイン・サッカーの評価がイタリアやドイツ、イングランドに比べれば格段に低かったこともあり、視聴するのは相当にコアなファンに限られていた。
彼は、そんな中の一人だった。
やがて、リーガ・エスパニョーラの中継権はWOWOWへと渡り、バルセロナの監督にはペップ・グァルディオラが就任した。
「90分をフルに、真剣に見るようになったのはそのころからですかね。それまでは普通にファン目線で好き、ぐらいだったんですけど」
バルセロナの象徴として有名となった下部組織──ラ・マシアは、グァルディオラによって作られたわけではない。というより、他ならぬグァルディオラ自身が、ヨハン・クライフによって種が蒔かれたラ・マシアの出身だった。つまり、才能の泉ならば以前からあった。だが、そこから巣立った若者たちが世界を驚かせるほどのサッカーを展開するのは、間違いなくグァルディオラになってから、だった。
監督によって、サッカーは変わる。同じ素材を使っても、まったく違ったサッカーになることがある──バルサが宿命のライバル、いわゆる“銀河系軍団”に圧倒されていた時代にファンになったという彼は、そのことを強烈に思い知らされた。
元々はM-1優勝を目指していたお笑い芸人だった
いよいよサッカーの魅力に憑りつかれていった彼は、試合を見て感じたことをYouTubeという新しい媒体で語り始める。
「友達に言われて始めたんですよ。やってみないかって。言われてみたら、当時メジャーな方でサッカーのYouTubeをやってらっしゃる方っていなかったですし、これはちょっと面白いかもなって」
あくまでも気楽な気持ちで始めたYouTubeだった。大きな目標、ユーチューバーとしてこうなりたい、といった目標も定めなかった。
「一度、最終的な目標みたいなものを立てて、でもまるでダメだったことがあったんで。ぼく、もともとお笑い芸人をやっていて、M-1の優勝を目指していたんですよ」
大志を抱いて飛び込んだ世界は、残酷なまでに彼を跳ね返した。どれほどネタを吟味し、どれほど稽古を重ねたところでどうにもならないレベルの怪物がいることを、思い知らされた日々があった。
ただ、苦しかった日々は、無為には終わらなかった。お笑いという厳しい競争社会で勝ち残るべく磨いた話術は、思考の回転の速さは、YouTubeをやっていく上で大きな武器となった。本人がいう通り、まだサッカーのYouTubeに参入するビッグネームが少なかったこともあったが、彼はネット上のサッカーファンから注目を集める存在になっていった。
「もともと自分の失敗を言語化して、次に生かすみたいな性格なんですよ。正直、自分ではそれがいいのか悪いのかよくわからないところもあるんですが、皆さんに見ていただいて、コメントとかフィードバックとかいただいて、乗せられてったって感じですかね」
話術に長けたサッカー好きが、好きなチームや選手、ビッグゲームなどについて語っていく。当初、彼のYouTubeの基調となっていたのは分析と称賛だった。なぜこのチームは、選手は、凄いのか。視聴者にとってはもちろんのこと、配信している本人が楽しんでやっていたチャンネルだった。
「誰かを批判しようとか、そんなことは全然考えてなくて、純粋にいいところ、悪いところについて話してただけだったんですよ、最初のうちは。ただ、日本代表についてそれをやっていったら、だんだん悪いところが増えてきちゃった」
サッカー戦術分析YouTuber誕生
変化のきっかけとなったのは、2019年、アジアカップだった。
「それまでの親善試合とかだと、はっきり言って結果があんまり求められてなかったんで、ボロが出にくいところがあったと思うんです。なので、勝たなきゃいけない場面での交代策とか、修正策をまだ見せてもらってないんで、現時点で森保監督をどうこういうことはできないって大会前には言ってました」
新体制となって初めてとなる公式戦での戦いぶりに、彼は強烈な失望感を抱いた。
「準決勝のイラン戦。リスクを抑えてロングボールを多用するサッカーをやった。結果、勝った。まあ、いい。カタールとの決勝。相手が3バックで来るってことはわかってたし、評論家の人たちもそれに対しての対策だったり、どうするかみたいなのを話してた。さあ森保さんはどうするのかと思ってみてたら、ぼくの目には何もしなかったように見えた。で、3バックの起点をつぶせないところからやられて、試合後、選手たちから『何もなくて後手後手に回ってしまった』みたいなコメントが出てきた。もう、マジか、ですよ」
彼が抱いたような不満や失望は、彼一人のものではなかった。現地で取材にあたっていた記者や評論家の中にも、同様の思いを抱き、それを公にした者はいたはずである。
だが、YouTubeを主戦場とするサッカー関係者は、まだいなかった。
森保監督への不満、怒りをストレートにぶつけた彼のYouTubeは、爆発的な反響を得た。
スポーツライターの木崎伸也も、衝撃を受けた人間の一人だった。
「ぼくらは選手から直接話を聞くことができる。オフレコという前提で不満を漏らしてくれる選手もいる。これって、いやらしい話ですけど、ぼくらは知ってるけど、ファンの方々には伝わらない情報じゃないですか。ところが、そういう情報に接していないはずのレオさんのYouTubeが、ぼくからするとかなり核心というか、選手が感じてることをそのまま代弁してるように思えたんです」
木崎が衝撃を受けたのは、YouTubeの内容だけではなかった。
「試合が終わったら、まずレオさんがなんと言ってるのかをYouTubeでチェックするっていう代表選手がいたんですよ。ペンの人間としては、時代が変わったんだなっていうのを痛感せざるを得ませんでした」
あまりにも直截な物言いに、反発する声もなかったわけではない。だが、そうした声も含めて、レオザフットボールのYouTubeは、サッカーに関わる、携わる多くの人々にとって、無視できない存在となっていった。
※続く(6月17日10時公開)
金子達仁/Tatsuhito Kaneko
1966年神奈川県生まれ。スポーツライター。ノンフィクション作家。1997年、「Number」掲載の「叫び」「断層」でミズノ・スポーツライター賞を受賞。著書『28年目のハーフタイム』(文春文庫)、『決戦前夜』(新潮文庫)、『惨敗―二〇〇二年への序曲―』(幻冬舎文庫)、『泣き虫』(幻冬舎)、『ラスト・ワン』(日本実業出版社)、『プライド』(幻冬舎)他。